著者
池田 敦 岩花 剛 末吉 哲雄 西井 稜子 原田 鉱一郎 新井 秀典
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2011年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.229, 2011 (Released:2011-05-24)

はじめに 富士山は、温暖な中緯度に位置する日本にありながら、その標高ゆえに山頂部の年平均気温が-6℃前後という日本では特異な寒冷環境にある。一方で活火山でもあり約100年前までは山頂部で噴気活動が記録されている。富士山は現在、山頂付近に永久凍土がまとまって存在する本州でおそらく唯一の場所であるが、そのことは大気側の低温条件と地盤側の高温条件の複雑なバランスを反映していると考えられる。しかし富士山山頂部の地温は、これまでほぼ1mより浅い位置でしか観測されておらず、実際に永久凍土に関する深部の情報は得られていなかった。本稿では2008年夏に山頂部に設置した深さ3mの観測孔2本の地温変化を中心に論じ、富士山の地温を支配する要因について2年間の観測で明らかになったことを紹介する。 調査地点・調査方法 火口周囲の比較的平坦な2ヵ所(標高3690m前後)の火山砂礫層に深さ約3mの観測孔を掘削し、データロガーを用いて地温を観測した。1ヵ所(観測孔#1)は地形的な凸部で積雪深が50cmを超える期間はごく短い。もう1ヵ所(観測孔#2)は吹きだまりで年間8ヵ月以上も積雪に覆われている。観測孔#1の脇では気温、降雨等の気象要素も観測した。また、山頂部6地点、北斜面8地点、南斜面3地点で、データロガーを用いて表層(深さ0.5~1mまで)の地温を観測した。 結果と考察 観測孔#1、#2ともに先行研究の想定に反し、全深度が融解することが確認された。観測孔#1では、深さ2.5m以下の地温が年間を通じて0℃からそれをわずかに上回る値で推移し、永久凍土が存在するかどうかの境界に位置した。とくに降雨に伴い地温が急上昇する特徴的な関係が見出された。地盤の昇温は一般に伝導によるが、富士山の透水性のよい砂礫層では降雨浸透による熱伝達の効果が大きいために融解が進み、永久凍土の発達が抑制されていた。観測孔#2では、観測開始当初、地表面付近以外で2~5℃という高い値を示していた地温が、年間を通じて低下し、2009年秋の1℃にも達しない昇温のあと、翌年も低い値で推移したが、2010年夏に急上昇した。積雪が冬季は地温の低下を、夏季は地温の上昇を抑制し、積雪条件が毎年異なるため、年による地温変化が大きい。風衝地と比べると地温が高く、観測孔より深部に永久凍土が存在する可能性はほとんどなかった。 その他の地温プロファイルも比較検討すると、積雪の溜まりやすさと透水性のよさが富士山において地温を顕著に高く保っていた。山頂部でも永久凍土が確認できない地点があることから、富士山では斜面方位・傾斜と微起伏が地表面における日射量や風向風速を不均一にし、さらにそれらが積雪分布や土壌水分の空間分布を著しく不均一にし、透水性の不均一性も相まって、地温がコントロールされており、永久凍土分布がパッチ状であると予想できた。今後は各要素間の関係を定量化し、永久凍土分布を見積もるなど研究を多方面へ発展させる予定である。
著者
曽根 敏雄 原田 鉱一郎 岩花 剛 森 淳子
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

パルサは永久凍土の丘状の地形で、日本では大雪山だけにその存在が知られている。これまで大雪山のパルサには変化が生じていると考えられてきたが、基本的な情報が不足していた。そこでパルサの分布状態を記載し、地温観測、電気探査法による永久凍土核の推定を行った。その結果、2010年に生じた急激なパルサの分布面積の減少を捉えることができた。また永久凍土の温度が高いことが判った。大雪山の高山帯の気温変化を復元した結果、現在パルサの大部分が残存しているものであると考えられた。