著者
卜部 格 根来 誠司 島 康文 四方 哲也
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

競争的共存が起こる簡単化した系を用いて、タンパク質分子に対して変異と選択を繰り返すと、それをコードしている塩基配列や機能は変化することができるのだろうか。このことをE.coli内の1遺伝子であるグルタミン合成酵素遺伝子に対して変異と選択を繰り返す実験室内進化系を構築することによって観察した。そして、その遺伝子に対する分子系統樹を作成し、塩基配列および分子機能の変化過程を観察した。また、どの配列をもったものが全体の何割を占めるのかという情報から、集団構造の変化を示した。その結果、グルタミン合成酵素をコードする塩基配列と活性は集団内に2種類以上の異なった配列、違った活性を保持しながら変化し、多様化していくことが観察された。集団構造の変化から、それぞれの配列を持つ菌体の増殖速度は、集団がどういった配列を持ったもので構成されているかによって変化することが示された。さらに、実験室内進化系では、その時々の株を-80℃で保存することが可能である。そのため、一度実験室内進化系で消失した株をその後の変異と選択との繰り返しで残った集団と競争実験することが可能である。そこで、実験室内進化系の途中段階で消失した変異体と後の世代の集団と競争させた結果、実験室内進化系の途中で消失した株は、後の世代の集団と安定して共存した。このことは、個々の菌体が持つ増殖能が培養に用いた培地、温度等の外部環境によって決まっているのではなく、集団構造に依存して変化することをより強く示している。本研究では、E.coli内のグルタミン合成酵素に変異と選択をかけるサイクルを繰り返す実験室内進化系において、その酵素が多様性を保ちながら変化することが観察された。
著者
岡田 善雄 末松 安晴 島 康文 浅田 雅洋 荒井 滋久 古屋 一仁 金 在萬 石浦 正寛
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1985

1.HVJの細胞融合活性を担う2種類の糖タンパク質であるFとHANAのcDNAの採取と、全塩基組成の決定が行われた。2.cDNAを含むプラスミドを細胞に注入して、その発現が観察された。先ずSV40oriを含むプラスミドをCOS細胞に電気刺激で注入すると、充分量のF或はHANAの発現を見ることができた。COS細胞はプラスミドの増幅と共に次第に死減するため、一般の細胞を用いると、ほとんど発現が見られず、実験を先に進めることが不可能となった。このため、cDNAをアクチンプロモーターを含むプラスミドに組換え、一般の培養細胞での発現が検定された。現在のところ、確かに発現は見られるが、期待した発現量にいたらず、検討が引き続き行われている段階である。3.HVJによる細胞相互の融合は、1ケのHVJ粒子の外膜が、2ケの細胞膜と同時に融合するために可能になるのではなくて、(1)HVJの糖タンパクによって、細胞膜に障害がおこり、(2)外部のCaイオンが細胞内に流入して細胞膜内タンパク粒子の細胞質側のドメインと、その裏打ち系との結合が解除され、(3)膜内タンパクが細胞膜脂質層を自由に動けるようになり、(4)膜内タンパク粒子の均一な分布がくずれ、(5)裸の脂質層が露出し、(6)その部位で融合がおこることが示された。この現象は、多分生体膜融合の典型的なモデルであろう。4.HVJのFタンパクの活性化のためには、細胞内でF_0型で合成された分子がタンパク分解酵素でF_1とF_2に限定分解される必要がある。この限定分解を認識するアミノ酸配列とウイルスの毒性との相関がパラミクソ群で明らかなので、この知見を土台にして、ミクソウイルス、レトロウイルスの毒性の推定が行われた。