- 著者
-
川出 敏裕
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 奨励研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 1999
研究期間の最終年度である本年度は,平成12年の6月に,いわゆる犯罪被害者保護のための二法が,同じく11月に,「少年法等の一部を改正する法律」が成立し,本研究の二つの対象分野それぞれについて,大きな動きがあった。犯罪被害者保護立法はもちろんのことであるが,今回の少年法の改正では,少年事件における被害者への配慮という要素が、その重要な背景をなしている。その意味で,これらの法律の制定は,本研究課題に直接関連するものであるため,本年度は,その内容を検討することを第一の課題とした。この間に公表した研究成果は,いずれもそれに関するものである。まず第一の「非行事実の認定手続の改善と被害者への配慮の充実」(ジュリスト1195号)は,改正少年法の内容のうち,少年審判における事実認定手続の改正に係る部分と,被害者保護のための措置として新たに導入された,審判結果の通知,審判記録の閲覧・謄写,被害者からの意見聴取を取り上げて,廃案となった旧改正法案と対比しつつ,検討を加えたものである。第二の「逆送規定の改正」は,被害者保護と結びついて主張された,少年犯罪に対するいわゆる厳罰化の象徴的な規定である逆送年齢の引下げと,原則逆送制度の導入につき,その内容と意義を分析したものである。最後に,椎橋教授,高橋教授との共著である『わかりやすい犯罪被害者保護制度』は,犯罪被害者保護のための二法の内容について,一問一答式で解説を行ったものである。それは幅広い内容を含むものであるが,筆者は,そのうちでも,少年事件にも同様に適用されることになる証人尋問の際の被害者保護の問題を中心に執筆している。このように,本年度は,新立法の検討が中心となったため,比較法的考察を踏まえた少年事件における犯罪被害者の法的地位に関する原理的な考察は,必ずしも十分になしえなかった。この点は,今後の課題としたい。