著者
入戸野 宏 吉田 綾乃 小森 政嗣 金井 嘉宏 川本 大史
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本年度は,3年間の研究期間の2年目であり,これまでに実施した実験や調査を継続・発展させるとともに,新しいテーマに取り組んだ。主な研究成果は,以下の5つである。(1) 接近-回避の潜在連合テストパラダイムを用いて,幼児顔と接近動機づけが連合していることを明らかにした。成人顔は接近動機づけとも回避動機づけとも連合していなかった。また,正立顔の方が倒立顔よりも効果が大きかったので,物理的形状(丸み)だけでなく,顔の全体処理が影響していることが示唆された。(2) 6か月齢の幼児顔を80枚収集し,それぞれに179点の標識点を入力した。200名の男女の評定に基づいて,かわいさの高い幼児の平均顔とかわいさの低い幼児の平均顔を作成した。さらに,それらをプロトタイプとして50枚の合成顔の変形を行い,かわいさを増強した顔と減弱した顔からなるデータセットを作成した。(3) 65歳以上のシニア層を対象とした「かわいい」に関するインタビュー結果(20名)について質的な整理を行った。キャラクター文化に対する関心は非常に低かったが,「かわいい」という感情そのものは肯定的に捉えていることが分かった。(4) 「かわいい」概念のプライミングが社会価値志向性に及ぼす効果を調べた実験データをまとめた。統計的に有意な効果が得られず,パーソナリティ要因の影響が大きいことが示唆された。(5)多変量の探索手法であるベイズ最適法を用いてかわいい造形物(二次元の模様)を生成するプログラムを試作した。
著者
川本 大史 入戸野 宏 浦 光博
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.33-40, 2011-04-30 (Released:2012-02-29)
参考文献数
22

人は他者から受け入れられているかどうかに対して敏感に反応する。社会的排斥は個人の感情や行動に多様な影響を及ぼす。しかし,集団から受け入れられていると感じる状況において他者から選択されなかったときに,排斥と類似した反応が生じるかは不明である。本研究では,そのような小拒絶に対する認知過程について,コンピュータ上で簡単なキャッチボールを行うサイバーボール課題を用い,事象関連電位(event-related potential: ERP)を測定することによって検討した。その結果,投球後約200 ms 後に,参加者に投球されたとき(受容試行)と比較して,投球されなかったとき(小拒絶試行)に,陰性のERP 成分であるfERN が惹起された。fERN は予測より悪かった事象に対して生じることが知られている。本研究の結果から集団の中で他者から選択されないことはネガティブに知覚されることが示唆された。