著者
入戸野 宏
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.275-290, 2004-12-31 (Released:2012-11-27)
参考文献数
41
被引用文献数
3 8

反復測定を含む実験計画で得られたデータに分散分析を実施することは, 心理生理学の研究で広く行われている.しかし, 研究者が適切な統計手法を選ぶことは往々にして難しい.本稿は, 心理生理学データに反復測定の分散分析を行うときの, 統計学的に妥当で, 容易に実施できる手続きについて述べたものである.取り上げたのは, 単変量・多変量分散分析の比較, 誤差項の選択, 単純効果と交互作用対比の検定, 多重比較, 効果量といった話題である.典型的な統計検定の流れを数値例を用いて解説する.
著者
入戸野 宏
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.128-131, 2016-01-15

“かわいい”は,日本を代表するポップカルチャーとして注目されている.しかし,“かわいい”とは何か,“かわいい”と何がよいのかは明らかになっていない.本稿では,心理学・行動科学の立場から,“かわいい”を感情としてとらえる枠組みを提供する.“かわいい”は対象の属性ではなく,対象に接した人の内部で生まれる感情である.ポジティブで,脅威や緊張を感じず,社会的な接近動機づけを伴っている.このような感情を許容し尊重する伝統があったために,日本において“かわいい”文化が発展したと考えられる.“かわいい”感情に伴う主観・行動・生理的変化について述べるとともに,“かわいい”研究の応用についても紹介する.
著者
入戸野 宏 小森 政嗣 金井 嘉宏 井原 なみは
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

“かわいい(kawaii)”は日常生活でよく使われる言葉であり,日本のポップカルチャーの代表ともいわれる。本研究では,“かわいい”を対象の属性ではなく,対象に接することで生じる感情であると捉え,その性質と機能について質問紙調査と実験室実験を用いて検討した。その結果,“かわいい”は,好ましい人やモノを“見まもりたい”“一緒にいたい”という接近動機づけに関連した社会的なポジティブ感情であり,主観・生理・行動の3側面に影響を与えることが明らかになった。
著者
金井 嘉宏 入戸野 宏
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.131-141, 2015-03-31 (Released:2015-04-04)
参考文献数
22
被引用文献数
2 6

本研究の目的は,人間や動物の赤ちゃん,およびキャラクターやモノに対する“かわいい”感情を共感性や親和動機によって予測するモデルを構築することであった。582名の大学生に対して,多次元的共感性尺度,親和動機尺度,各対象に対する“かわいい”感情の評定尺度で構成される質問紙調査を行った。モデルに性差が見られるか検討するために多母集団同時分析を行った結果,人間や動物の赤ちゃんだけではなく,モノに対する“かわいい”感情も共感性が予測することが示された。モデルに性差はなく,共感性が高いほど,これらの対象に対しては“かわいい”感情を抱きやすいことがわかった。親和動機は人間の赤ちゃんに対する“かわいい”感情のみ予測した。一方,キャラクターに対する“かわいい”感情は共感性,親和動機のいずれによっても予測されなかった。社会的動機としての親和動機に加えて接近動機を測定し,共感性や“かわいい”感情との関係を調べる必要性が議論された。
著者
水原 啓太 入戸野 宏
出版者
心理学評論刊行会
雑誌
心理学評論 (ISSN:03861058)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.189-203, 2021 (Released:2022-11-01)
参考文献数
115

Respiratory phases are associated with the performance on various cognitive tasks. This paper reviews behavioral and psychophysiological studies that compared the effects of inhalation and exhalation phases on perception and cognition. First, previous findings are summarized, based on psychological functions such as simple motor reaction, attention, and memory. Second, four methodical difficulties inherent in conducting such studies are discussed: choice of respiratory route (i.e., nasal vs. oral), manner of breathing (i.e., spontaneous vs. controlled), instruction on how to breathe, and manipulation of the timing of stimulus presentation. Finally, several research questions are raised to understand the relationship between respiratory phases and psychological functions.
著者
水原 啓太 武藤 拓之 入戸野 宏
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.25-31, 2019-02-28 (Released:2019-03-21)
参考文献数
21

人は自分が意思決定したタイミングを正確に知覚できない.Bear & Bloom(2016)は,画面上に五つの白い円を提示し,実験参加者に任意の円を選ばせた.しばらくして一つの円(標的刺激)を赤色に変化させ,参加者にその円を選んでいたかどうかを尋ねた.その結果,色の変化までの時間(遅延時間)が短いと,標的刺激を選択していたと回答する割合が高かった.これは,実際には色の変化が選択に影響を与えたにもかかわらず,変化前に選択していたと錯覚したことを意味する.本研究では,遅延時間が25~50 msのときに同様の効果が認められたが,さらに短い17 msでは認められなかった.この知見は,意思決定のタイミングについてのポストディクションを支持する新たな証拠である.また,色の変化までに円の選択が間に合ったという報告は,遅延時間が167 ms以下のときに実際よりも多くなることが示された.この結果は,遅延時間が短いときに,意思決定についての意識が後付け的に生じることを示唆している.
著者
入戸野 宏
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

本研究では,近年注目されているハイレゾオーディオが聴取体験に影響する機序について検討した。脳波と誘発電位を測定した実験により,以下の3点が明らかになった。(1)高周波成分が含まれている音源を聴くと,それをカットした音源を聴くときより,聴取時の脳波パワーが増大する,(2)高周波成分をフィルタで除去すると音が時間的に歪む(立ち上がりがぼやける)が,その違いはサンプリング周波数が変わらなければ聴覚皮質では検出されない,(3)サンプリング周波数を下げると音のぼやけが聴覚神経処理に内耳のレベルから影響を与える。
著者
入戸野 宏
出版者
広島大学大学院総合科学研究科
雑誌
人間科学研究 = Studies in human sciences (ISSN:18817688)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.19-35, 2009

"Kawaii," which is often translated into English as cute, is regarded as a key concept characterizing modern Japanese culture. Many books and articles are published on this subject; however, these discussions are mostly based in humanities or social sciences. This paper provides the basic data and a framework for research on the concept of "kawaii" from a behavioral science perspective. First, I describe the dictionary meaning and history of "kawaii." Second, I investigate its frequency and familiarity in the Japanese language corpus: "kawaii" is used less often than "utsukushii" or "kirei" (both of which mean beautiful) in the written language, but is rated as being the most familiar among the three. Third, a total of 685 Japanese university students between 18 and 22 years of age answered three questionnaires, the results of which suggest the following: (1) the word "kawaii" has connotations of helpless, weak, small, loose, slow, lightweight, approachable, and familiar; (2) female students tend to apply "kawaii" to a wider range of objects (including adults and artifacts) more often than male students; (3) almost all female students find human babies "kawaii," whereas about 20% of male students do not; (4) about 90% of male and female students fi nd animals "kawaii;" (5) both male and female students are fond of and are interested in "kawaii" objects and believe that "kawaii" objects make them feel good and comforted; and, despite the above, (6) "kawaii" is rarely used as a standard of value for judging things. On the basis of these findings and in the light of past research, I propose a two-layer model of "kawaii" as a starting point for future empirical research. This model postulates that the base of "kawaii" is a positive emotion related to social motivation for protecting and nurturing others, which originally stems from affection toward babies and infants. In addition, it assumes that this cultureindependent, biological nature has been amplified and expanded by the characteristics of Japanese culture, suc
著者
入戸野 宏 吉田 綾乃 小森 政嗣 金井 嘉宏 川本 大史
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本年度は,3年間の研究期間の2年目であり,これまでに実施した実験や調査を継続・発展させるとともに,新しいテーマに取り組んだ。主な研究成果は,以下の5つである。(1) 接近-回避の潜在連合テストパラダイムを用いて,幼児顔と接近動機づけが連合していることを明らかにした。成人顔は接近動機づけとも回避動機づけとも連合していなかった。また,正立顔の方が倒立顔よりも効果が大きかったので,物理的形状(丸み)だけでなく,顔の全体処理が影響していることが示唆された。(2) 6か月齢の幼児顔を80枚収集し,それぞれに179点の標識点を入力した。200名の男女の評定に基づいて,かわいさの高い幼児の平均顔とかわいさの低い幼児の平均顔を作成した。さらに,それらをプロトタイプとして50枚の合成顔の変形を行い,かわいさを増強した顔と減弱した顔からなるデータセットを作成した。(3) 65歳以上のシニア層を対象とした「かわいい」に関するインタビュー結果(20名)について質的な整理を行った。キャラクター文化に対する関心は非常に低かったが,「かわいい」という感情そのものは肯定的に捉えていることが分かった。(4) 「かわいい」概念のプライミングが社会価値志向性に及ぼす効果を調べた実験データをまとめた。統計的に有意な効果が得られず,パーソナリティ要因の影響が大きいことが示唆された。(5)多変量の探索手法であるベイズ最適法を用いてかわいい造形物(二次元の模様)を生成するプログラムを試作した。
著者
水原 啓太 柴田 春香 入戸野 宏
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第18回大会
巻号頁・発行日
pp.87, 2021-03-15 (Released:2021-03-15)

左右対称な物体において,正面から見た画像よりも,斜めを向いた画像のほうが好まれる (Nonose et al., 2016)。斜め向きの画像は,物体についての多くの情報を表すため,見た目が良く感じられると考えられている。本研究は,左右対称な物体の画像において,物体の左右の向きが物体の選好に与える影響について検討することを目的とした。オンライン実験で,左右の向きのみが異なる日常物体100個の画像を対提示し,見た目が良いほうの画像を強制選択してもらった。画像は物体が正面を向いた状態から,鉛直軸に関して左右のどちらかに30°回転した画像と,それを左右反転した画像であった。その結果,左向きの物体を選好する割合は平均61.2%であり,有意に偏っていた。物体ごとに検討しても左向きよりも右向きのほうが有意に好まれた物体はなかった。この結果について,物体の操作可能性や左方光源優位性の観点から考察した。
著者
大湾 麻衣 入戸野 宏
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.169-176, 2020-12-31 (Released:2021-03-19)
参考文献数
25

ハイレゾリューション音源はCDより時間方向あるいは振幅方向の解像度が高く,その高周波成分が生理状態に影響を及ぼすという報告がある。本研究では192 kHz/24 bitで録音された自然環境音(オリジナル音源)にフィルタをかけ,高周波成分(>22 kHz)をカットした2種類の音源(サンプリング周波数192 kHzと44.1 kHz)を作成した。24名の大学生が3種類の音刺激をランダムな順で聴取した。脳波のシータ帯域(4.0―8.0 Hz)とスローアルファ帯域(8.0―10.5 Hz)のトータルパワーは,サンプリング周波数が高い音を聴取しているときの方が高くなった。主観的気分や音質評価には明瞭な条件差が認められなかった。この結果は,CDよりもサンプリング周波数が高い音源は,意識的に違いに気づかなくても生理状態に影響を及ぼすことを示唆している。
著者
井原 なみは 入戸野 宏
出版者
広島大学大学院総合科学研究科
雑誌
広島大学大学院総合科学研究科紀要. I, 人間科学研究 (ISSN:18817688)
巻号頁・発行日
no.6, pp.13-17, 2011-12-31

"Kawaii" is a Japanese word that is translated as cute in English. This word becomes popular worldwide and is regarded as a key concept characterizing modern Japanese culture. However, the word is used so widely in daily life that it is difficult to define what is kawaii and what makes things kawaii. Ethologists have suggested that baby schema, a set of physical features of baby animals, is a key stimulus to elicit the feeling of cuteness. In this study, we examined the relationship between the feeling of cuteness and the infantility of various objects in a survey of 166 university students. First, we collected 93 animate and inanimate objects that are sometimes described as kawaii. Half of the raters (n = 84) made the cuteness ratings of the 93 items (either words or short phrases), while the other half (n = 82) made the infantility ratings of these items. Consistent with the baby schema hypothesis, the ratings of cuteness and infantility were moderately correlated (rs = .50 and .45 for men and women, respectively). However, there was a cluster of items that were rated as cute but not infant (e.g., smile, accessories, and pastel color), which are probably related to feminine culture. Moreover, women rated various items to be cuter than men did, while no gender difference was found for the infantility rating. The findings suggest that, although the feeling of kawaii is elicited by baby schema and infantility, its scope is not limited to them.
著者
三木 盛登 入戸野 宏
出版者
Japanese Society for Physiological Psychology and Psychophysiology
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
2014

視聴者が動画に注意を向けるほど,動画とは無関係なプローブ刺激に対する事象関連電位のP3 (P300) 成分の振幅が減衰する。本研究では,短い動画に対する主観的興味と脳波測度との相関を求めることにより,この知見を追試・拡張した。15名の大学生・大学院生が映画の予告編12本 (<i>M</i> = 143 s) を視聴した。視聴中に,痛みのない電気プローブ刺激 (0.2 ms) を左手中指に5--7 s間隔で提示し,左手親指によるボタン押し反応を求めた。それぞれの予告編について印象評定を行った。6項目 (興味ある,注意を引く,好き,快,目が覚めた,本編が見たい) のヴィジュアルアナログスケールの合成得点を"興味"得点として使用した。ステップワイズ回帰分析により,プローブ誘発P3振幅 (β = -.20) と刺激が提示されない区間の後頭部アルファ帯域パワー (β = -.29) はどちらも興味得点を説明することが分かった。本研究により,単一電気プローブ刺激法が視聴者の興味を客観的に測る実験プロトコルとして有望であることが示された。
著者
川本 大史 入戸野 宏 浦 光博
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.33-40, 2011-04-30 (Released:2012-02-29)
参考文献数
22

人は他者から受け入れられているかどうかに対して敏感に反応する。社会的排斥は個人の感情や行動に多様な影響を及ぼす。しかし,集団から受け入れられていると感じる状況において他者から選択されなかったときに,排斥と類似した反応が生じるかは不明である。本研究では,そのような小拒絶に対する認知過程について,コンピュータ上で簡単なキャッチボールを行うサイバーボール課題を用い,事象関連電位(event-related potential: ERP)を測定することによって検討した。その結果,投球後約200 ms 後に,参加者に投球されたとき(受容試行)と比較して,投球されなかったとき(小拒絶試行)に,陰性のERP 成分であるfERN が惹起された。fERN は予測より悪かった事象に対して生じることが知られている。本研究の結果から集団の中で他者から選択されないことはネガティブに知覚されることが示唆された。
著者
豊島 彩 入戸野 宏
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.409-419, 2020-01-20 (Released:2021-01-20)
参考文献数
19
被引用文献数
1

“かわいい”という語は,若者文化と結びつけて語られることが多い.本研究では,高齢者が感じる“かわいい”の特徴を明らかにし,若者文化で言及されるかわいいものに高齢者がどのように反応するかを検討した.地域高齢者20人にインタビュー調査を行い,“かわいい”の概念についてたずねるとともに,若者に人気のあるキャラクターに対する印象をたずねた.質的内容分析の結果,祖父母としての社会的役割や孫との関係性が,孫だけでなく,孫以外に対する“かわいい”感情にも影響すること,長年の人生経験が“かわいい”と感じる対象に影響することが示された.また,キャラクターの人形はなじみが薄く,かわいいとは感じないと答える者が約半数いた.本研究の結果,高齢者では,表情やしぐさに比べて,動きのない見た目の特徴をかわいいと感じることは減るが,かわいいと感じること自体はポジティブな感情として評価されることが示された.