著者
山田 明弘 土井 貴明 小國 孝 川本 龍一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.36, no.11, pp.817-821, 1999-11-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
11

下垂体卒中は, 発症の誘因が不明のことが多い. 今回, 老年者下垂体腺腫において, 感冒症状から腺腫内出血を引き起こした1例を経験したので報告する.症例は, 74歳, 女性. 1997年6月19日より発熱, 眉間から前頭部にかけての頭痛を訴え, 嘔気を自覚し, 嘔吐を認めた. 近医にて感冒の診断で内服加療されたが症状は軽快せず, 食思不振も自覚するため, 精査加療目的で6月21日当科入院となった.入院時の神経学的所見では, 瞳孔は左眼は散瞳し, 対光反射は左眼は消失, 右眼は遅延していた. 彼女は両眼とも上転が困難であった. 入院時検査所見では白血球は6,700/μl, CRP 16.2mg/dl, 腰椎穿刺では総蛋白97mg/dl, 総細胞数82/μlでリンパ球が主体であった. 臨床症状と腰椎穿刺の所見より当初は中枢神経のウイルス感染症と診断しγ-グロブリンを投与した. 第16病日より動眼神経麻痺の症状である左眼瞼下垂と複視を約2週間認めたが, 経過観察で神経症状は改善した. 第23病日のMRI像から下垂体卒中が強く疑われた. 下垂体腺腫内の血腫が吸収され, 圧迫により麻痺していた動眼神経機能は改善されたと推察できた. 第71病日に施行した Hardy 手術時の摘出標本の組織所見から下垂体卒中の確診に至った.高齢者で, 頑固な頭痛と嘔気, 嘔吐, 発熱に加え外眼筋麻痺の症状を認めた場合には, 下垂体卒中の発症を鑑別に加える必要があり, この疾患を病初期に診断するのは難しいと考えられた.
著者
加藤 丈陽 川本 龍一 楠木 智
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.176-179, 2011 (Released:2011-07-15)
参考文献数
8
被引用文献数
2 3

Howship-Romberg徴候を坐骨神経痛として見過され,イレウスを発症し診断された右閉鎖孔ヘルニアの一例を報告する.症例は88歳女性で3年前より右大腿部痛があり,整形外科にて坐骨神経痛と診断されていた.2009年7月食欲不振を主訴に入院.翌日右大腿部痛の増強及び下腹部痛が出現したため腹部超音波検査を行ったところkey board signを認めた.イレウスと診断,イレウス管を挿入し減圧をしたところ改善した.イレウス管抜去後右大腿部痛が再出現.また,大腿径に左右差が見られたためヘルニアを疑い造影CTを行ったところ恥骨筋と閉鎖筋に挟まれた領域に腸管の嵌頓所見を認め手術適応と判断した.開腹してみると回腸末端から約15 cm口側の回腸が右閉鎖孔に嵌頓しており嵌頓腸管を切除した.術後イレウス症状,右大腿部痛は消失した.原因不明の右大腿部痛やイレウス症状が高齢者にみられた時は,閉鎖孔ヘルニアを念頭に置くべきである.
著者
川本 龍一 土井 貴明 山田 明弘 岡山 雅信 鶴岡 浩樹 佐藤 元美 梶井 英治
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.36, no.12, pp.861-867, 1999-12-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
17
被引用文献数
15 22

地域在住の高齢者を対象に, 主観的幸福感とその背景因子を解明するための横断調査を実施した. 対象は, 地域在住の自記式回答可能な高齢者であり, 調査は, 松林らの香北町健康長寿研究で用いられたと同様の Visual Analogue Scale を用いたアンケートを使って行われた.地域在住の自記式回答可能な高齢者2,379人中2,361人 (99.2%) より回答を得た. そのうち回答不備例を除く分析可能な対象は, 1,873人 (78.7%), 男性860人, 平均年齢72.7 (95%信頼区間: 72.3~73.0) 歳, 平均主観的幸福感69.1 (67.6~70.5), 女性1,013人, 平均年齢72.8 (72.4~73.1) 歳, 平均主観的幸福感68.5 (67.2~69.7) であった. 主観的幸福感と背景因子との関係については, 主観的幸福感は同居家族のいる人 (p=0.0051), 配偶者のいる人 (p=0.0240), 血圧の高くない人 (p=0.0096), 脳卒中歴のない人 (p=0.0039), 医師による定期的内服治療を受けていない人 (p=0.0039), 運動習慣のある人 (p<0.001), 仕事をしている人 (p<0.001) ほど有意に大きかった. 主観的幸福感と各種スコアーとの関係については, 主観的幸福感はADL, 情報関連機能, 手段的・情緒的支援ネットワーク, 健康状況, 食欲状況, 睡眠状況, 記憶状況, 家族関係, 友人関係, 経済状況の値が高いほど有意に大きかった (各々p<0.001). 主観的幸福感を取り巻く背景因子を説明変数とする重回帰分析では, 手段的支援ネットワーク (p<0.001), 情緒的支援ネットワーク (p=0.0254), 健康状況 (p<0.001), 記憶状況(p=0.0027), 友人関係 (p<0.001), 経済状況 (p<0.001) は有意な正の偏相関を示した. 抑うつ状態 (SDS) と主観的幸福感との関係では, SDSが重症 (高得点) になるほど主観的幸福感のスコアーは有意に小さかった (p<0.001).地域に在住する高齢者の主観的幸福感の向上のためには, 今回明かにされた背景因子の改善を計り, 今後経年的に経過をみて行くことが必要であろう.
著者
小糸 秀 川本 龍一 鈴木 萌子 上本 明日香 熊木 天児 二宮 大輔 阿部 雅則
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.214-220, 2015 (Released:2015-09-28)
参考文献数
29
被引用文献数
1

目的 : 近年, 高齢化が進む我が国で, 単に疾患の治療だけではなく生活の質を高めることが重要視されている. 今回, 地域在住者を対象として主観的健康感と平均3.8年後の死亡との関係を検討した.方法 : 2008年度に地域在住の2657名を対象に自記式アンケート調査を郵便法にて実施し, 住民基本台帳を基に平均3.8年後の死亡との関係について検討した. 調査項目は, 死亡に関わる背景因子として, 性別, 年齢, 健康状況 (心脳血管疾患既往歴, うつ状態, 主観的幸福感, 主観的健康感) , 基本的日常生活動作 (BADL : 歩行, 食事, 排泄, 入浴, 整容, 移動を全介助から完全自立まで4段階で評価) , ライフスタイルとして老研式活動能力指標 (TMIG : 手段的自立, 知的能動性, 社会的役割) を用いた.結果 : 1825名, 男性767名 (平均年齢 : 67±13歳) , 女性1058名 (平均年齢 : 68歳±11歳) が分析可能であり, 2008年から2012年までに91名 (5.0%) の死亡が確認された. 主観的健康感に影響する背景因子について検討したところ, 年齢, 心脳血管疾患既往歴, うつ状態, 知的能動性, 主観的幸福感が有意な関係を示した. さらに主観的健康感はロジスティック回帰分析より死亡の有意な独立説明変数であることが示された.結論 : 自分の健康状態に対してどのように感じているのか, どう認識しているのかは大切であり, 物理的に目に見えないものではあるが, 予後を予測する指標の1つとして考えられる.