著者
中井 雄貴 木山 良二 川田 将之 宮﨑 宣丞
出版者
公益財団法人 石本記念デサントスポーツ科学振興財団
雑誌
デサントスポーツ科学 (ISSN:02855739)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.120-127, 2022-06-20 (Released:2022-12-20)
参考文献数
18

本研究はローラーマッサージを使用した腰背部の自己筋膜リリースが体幹機能に及ぼす影響を検証することを目的とした.健常男子大学生18名を対象に,ローラーマッサージによる介入とコントロール(安静)の2条件をランダムに実施するクロスオーバー試験を実施した.介入の前後に長座体前屈,腹部体幹筋力,腰部筋・筋膜の滑走性を超音波画像診断装置にて評価した.皮下組織と多裂筋の経時的な移動速度をエコー動画分析ソフトにて算出し,両者の相関係数で滑走性を分析した.その結果,柔軟性( p=0.004),腹部体幹筋力( p=0.016),滑走性( p=0.004)すべてで介入効果に差を認めた.ローラーマッサージによる介入では,柔軟性(+ 1 .39cm, p=0.003),体幹筋力(+ 1.84kPa, p<0.001),滑走性(-0 .079, p=0.009)に有意な改善を認めた.ローラーマッサージを用いた腰背部の自己筋膜リリースが,腰部の柔軟性,腹部体幹筋出力,筋筋膜の滑走性の向上に寄与することが示唆された.
著者
中井 雄貴 川田 将之 宮崎 宣丞 木山 良二 井尻 幸成
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.I-69_1-I-69_1, 2019

<p>【はじめに、目的】</p><p> 体幹筋は歩行やADLで重要な役割を果たすことが知られている。腰痛や脊椎の術後等において、体幹筋のトレーニングは必須であるが、体幹の運動を伴わずにトレーニングすることが必要な場合がある。また、日常生活では体幹筋単独で活動することは少なく、下肢と機能的に連動して活動することが多い。背臥位における片側の股関節の内外旋運動は、骨盤を固定するために体幹筋の活動が必要であり、トレーニングとして活用できると考えられる。本研究の目的は、健常者を対象に背臥位における股関節内外旋運動が体幹筋に及ぼす影響を明らかにすることである。</p><p>【方法】</p><p> 対象は健常成人20名とした。膝関節90°屈曲位の背臥位における片側の股関節内外旋の等尺性収縮、及びクランチと片側下肢自動伸展挙上(ASLR)における体幹筋の活動を比較した。なお、股関節内外旋の等尺性収縮は左右股関節それぞれで行い、抵抗は大腿骨内外側上顆に加え80Nに統一した。</p><p> 体幹筋の活動の分析には、表面筋電計(EMG)および超音波画像診断装置(エコー)を用い、活動電位と筋厚を測定した。分析対象は右側の外腹斜筋、内腹斜筋、腹直筋(EMGのみ)、腹横筋(エコーのみ)、多裂筋(EMGのみ)とした。活動電位は最大随意収縮時の活動電位で正規化し、筋厚は安静時の筋厚で除し正規化した。</p><p> 事前に、筋活動と筋厚の最小可検変化量を算出した。統計学的検定には反復測定の一元配置分散分析もしくはFriedman検定、および多重比較検定を用い比較した。有意水準は5%未満とした。</p><p>【結果】</p><p> 右内腹斜筋の活動電位は、右股関節内旋20.8±11.6%と左股関節外旋13.7±9.0%(p < 0.001)、右外腹斜筋は右股関節外旋11.6±9.2%、左股関節内旋11.2±9.2%( p < 0.001)で最も高い値を示した。また、右腹直筋はクランチ17.2±7.3% (p < 0.001)、右多裂筋は右股関節内旋25.7±13.4%と左股関節外旋22.8±12.5%( p < 0.001)で高い値を示した。</p><p> 右内腹斜筋の筋厚は活動電位とほぼ類似した傾向を示したが、外腹斜筋の筋厚は一部に筋活動と異なる傾向を示した。右腹横筋の筋厚は、右股関節内旋144.5±27.4%と左股関節外旋129.2±25.7%で高値を示した(p < 0.001)。活動電位および筋厚で観察された差は、最小可検変化量よりも大きかった。</p><p>【考察、結論】</p><p> 本研究の結果より、片側股関節の内外旋運動はクランチやASLRよりも有意に同側の内腹斜筋と多裂筋、対側の外腹斜筋を活動させることが示された。これは、片側の股関節の回旋運動に抗して骨盤・体幹を安定させるためにカウンターとして、体幹筋群の活動が必要とされるためである。片側の股関節内外旋の負荷を利用した運動は、下肢と体幹を連動させる通常の運動に近似した筋活動を促すトレーニングとして利用可能と考えられる。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究は鹿児島大学医学部疫学研究等倫理委員会の承認(No 170116)を得たものである。ヘルシンキ宣言に則って研究計画の説明を行い、書面にて同意を得た後に研究を実施した。</p>
著者
木山 良二 川田 将之 吉元 洋一 前田 哲男
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48102107, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】歩行時の足関節底屈モーメントの増加は,床反力の前方成分を強め,股関節屈曲モーメント,パワーを減少させることが報告されている。立脚後期の足関節底屈モーメントはヒラメ筋や腓腹筋などにより発揮されるが,腓腹筋は二関節筋であり,その作用は膝関節を介し,股関節にも影響を与えると考えられる。本研究の目的は,下腿三頭筋の最大筋力を変化させた筋骨格モデルを用い,腓腹筋が歩行中の股関節屈筋群に与える影響を明らかにすることである。【方法】対象は健常成人10 名とした。3 次元動作解析装置(Oxford Metrics社製VICON MX3)と床反力計2 枚(AMTI社製OR6-7, BP400-600 )を用い,快適速度の歩行を計測した。計測側は左下肢とし,計測回数は3 回とした。得られたデータと筋骨格モデルシミュレーションソフト(ANYBODY Technology社製AnyBody 5.2)を用い,筋の活動張力を算出した。筋骨格モデルの腓腹筋もしくは,ヒラメ筋の最大筋力をそれぞれ100%,60%,30%に減少させたモデルを用い,腓腹筋の筋張力が股関節屈筋群の筋張力に与える影響を検討した。今回は腓腹筋,ヒラメ筋,大腿直筋,大腰筋,腸骨筋,中殿筋前部線維を分析対象とした。また大腿直筋については,腱に蓄積される弾性エネルギーも算出した。活動張力および弾性エネルギーは,時間正規化を行い,体重にて正規化し,立脚後期における最大値を比較した。統計学的検定にはフリードマン検定を用い,有意水準は5%とした。なお統計学的検定にはSPSS 20 を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】本研究の内容は,鹿児島大学医学部倫理委員会の承認を得て実施した。測定に先立って,対象者に本研究の趣旨を書面及び口頭で説明し,書面にて同意を得られた場合にのみ測定を行った。【結果】歩行速度は1.22 ± 0.16 m/s,歩幅は0.66 ± 0.1 m,歩行率は109.6 ± 4.9 steps/minであった。腓腹筋の最大筋力を低下させたモデルでは,腓腹筋の最大筋力の低下に伴い,立脚後期の大腿直筋の活動張力が有意に低下し(100%, 3.7 ± 2.9 N/kg; 60%, 2.9 ± 2.6 N/kg; 30%, 2.5 ± 2.3 N/kg; P<0.001),ヒラメ筋(100%, 21.6 ± 6.5 N/kg; 60%, 25.8 ± 8.6 N/kg; 30%, 31.5 ± 8.2 N/kg; P<0.001),大腰筋(100%, 17.3 ± 6.9 N/kg; 60%, 18.4 ± 7.2 N/kg; 30%, 19.9 ± 7.5 N/kg; P<0.001),腸骨筋(100%, 7.0 ± 2.1 N/kg; 60%, 7.5 ± 2.1 N/kg; 30%, 8.0 ± 2.1 N/kg; P<0.001),中殿筋前部線維(100%, 5.5 ± 1.5 N/kg; 60%, 6.1 ± 1.6 N/kg; 30%, 7.5 ± 1.7 N/kg; P<0.001)の活動帳力が有意に増加した。股関節の屈筋群で特に変化率が大きかったのは,大腿直筋および中殿筋前部線維であった。ヒラメ筋の最大筋力を低下させたモデルでは,ヒラメ筋の筋力低下に伴い,立脚後期における腓腹筋,大腿直筋の活動張力が有意に増加し(P<0.001),大腰筋,腸骨筋,中殿筋前部線維の活動張力が有意に減少した(P<0.001)。また大腿直筋腱の弾性エネルギーは,歩行周期の約50%にピークを示し,腓腹筋の最大筋力を低下させたモデルでは,有意に減少し(P<0.001),ヒラメ筋の最大筋力を低下させたモデルでは,有意に増加した(P<0.001)。【考察】今回の結果では,腓腹筋の活動張力のピークは歩行周期の約40%,ヒラメ筋は約50%であり,おおよそターミナルスタンスの後半からプレスウィングに該当する。この時期の腓腹筋の筋張力は,主に足関節底屈モーメントを発生し,重心の前方移動に関与する。しかし膝関節に対しては,屈曲モーメントを発生させる。一方,大腿直筋もおおよそ歩行周期の50% でピークを示し,股関節屈曲モーメントと膝関節伸展モーメントを発揮する。腓腹筋と大腿直筋の同時性収縮により,膝関節の安定性が保たれる。そのため,腓腹筋の最大筋力を低下させた筋骨格モデルでは,腓腹筋の活動張力の低下に伴い,それに拮抗する大腿直筋の活動張力および腱の弾性エネルギーが減少する。その結果,その他の股関節屈筋の活動張力が増加したと考えられた。また,大腿直筋は股関節に対しては,屈曲と外転の作用をもつため,同様の作用をもつ中殿筋前部線維の活動張力の増加率が大きかったと考えられた。逆に,ヒラメ筋の最大筋力を低下させたモデルでは,腓腹筋の活動張力が増加するために,大腿直筋の活動張力が増加し,その他の股関節屈筋群の活動張力が減少したと考えられた。したがって,腓腹筋の活動張力は大腿直筋と連動して,股関節屈筋群に影響を与えることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】歩行中の腓腹筋の筋張力は,床反力の前方成分の増加に加え,膝関節伸展筋と拮抗することにより,大腿直筋の筋張力を高め,股関節屈筋群の負荷を軽減することが示唆された。このことは,歩行時の振り出しが困難な症例の代償戦略や,負荷が生じる部位を検討する際の基礎的情報として意義深いと考える。