著者
柳澤 修 金岡 恒治 松永 直人 安達 玄 押川 智貴
出版者
公益財団法人 石本記念デサントスポーツ科学振興財団
雑誌
デサントスポーツ科学 (ISSN:02855739)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.113-121, 2022-06-20 (Released:2023-04-09)
参考文献数
37

研究は,MRIを用いて高負荷スクワット運動が腰椎椎間板に与える力学的ストレスを評価するとともに,そのストレスの程度が個人の腰椎前弯角,体幹筋の横断面積および下肢柔軟性と関連を示すのかを検証することを目的とした.男女13名を対象に,スクワット (最大挙上重量の80%の重り,8回5セット) 前後で,腰椎のMRI拡散強調像を取得し,各椎間板のapparent diffusion coefficient値 (ADC;髄核内の水の動きを評価) を算出した.加えて,MRIを用いて腰椎前弯角と体幹筋の横断面積を算出するとともに,股関節屈曲と足関節背屈の関節可動域を計測した.スクワット運動後にL4/5ならびにL5/S1の椎間板は有意なADC値の低下を示したが,それらの変化は腰椎前弯角,体幹筋の横断面積および下肢柔軟性と有意な相関を示さなかった.高負荷スクワット運動は下位の腰椎椎間板に力学的なストレスを与えやすいが,そのストレスは個人の腰椎前弯角,体幹筋の横断面積および下肢柔軟性と関連性をもたなかった.
著者
中川 伸 陳 冲 萩原 康輔 平田 圭子 藤井 優子
出版者
公益財団法人 石本記念デサントスポーツ科学振興財団
雑誌
デサントスポーツ科学 (ISSN:02855739)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.67-75, 2023-02-22 (Released:2023-03-09)
参考文献数
12

うつ病の薬物療法,精神療法などが進歩し一定の効果を示してきている.しかし,無効な患者が多く存在し,日常生活や社会生活の障害を改善するためには未だ不十分であるため,実臨床では補完療法などの開発,改良が重要になってきている.本研究では,心肺運動負荷検査 (Cardiopulmonary Exercise Test, CPX) の客観的な指標により運動量を明確化し,既報に比較して運動強度・時間・回数が大きく軽減化された運動プログラムのうつ病に対する有効性を検討することを目的とした.慢性または反復性うつ病患者8名 (うつ病6名,持続性抑うつ障害2名) を対象に8週間の運動プログラムを行い,その前後に抑うつ症状,不安症状などの臨床評価を実施した.その結果,介入後に抑うつ症状が寛解に近い状態になり,状態不安および社会適応度の改善もみられた.少数の被験者ながら既報に比較して運動強度・時間・回数が大きく軽減化され,それでも効果が見られることから,これらの結果が今後大規模臨床試験において確認されれば,うつ病の補完療法の大きな進歩になると思われる.
著者
中井 雄貴 木山 良二 川田 将之 宮﨑 宣丞
出版者
公益財団法人 石本記念デサントスポーツ科学振興財団
雑誌
デサントスポーツ科学 (ISSN:02855739)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.120-127, 2022-06-20 (Released:2022-12-20)
参考文献数
18

本研究はローラーマッサージを使用した腰背部の自己筋膜リリースが体幹機能に及ぼす影響を検証することを目的とした.健常男子大学生18名を対象に,ローラーマッサージによる介入とコントロール(安静)の2条件をランダムに実施するクロスオーバー試験を実施した.介入の前後に長座体前屈,腹部体幹筋力,腰部筋・筋膜の滑走性を超音波画像診断装置にて評価した.皮下組織と多裂筋の経時的な移動速度をエコー動画分析ソフトにて算出し,両者の相関係数で滑走性を分析した.その結果,柔軟性( p=0.004),腹部体幹筋力( p=0.016),滑走性( p=0.004)すべてで介入効果に差を認めた.ローラーマッサージによる介入では,柔軟性(+ 1 .39cm, p=0.003),体幹筋力(+ 1.84kPa, p<0.001),滑走性(-0 .079, p=0.009)に有意な改善を認めた.ローラーマッサージを用いた腰背部の自己筋膜リリースが,腰部の柔軟性,腹部体幹筋出力,筋筋膜の滑走性の向上に寄与することが示唆された.
著者
北 徹朗 橋口 剛夫 一川 大輔 服部 由季夫 浅井 泰詞
出版者
公益財団法人 石本記念デサントスポーツ科学振興財団
雑誌
デサントスポーツ科学 (ISSN:02855739)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.37-51, 2022-06-20 (Released:2023-04-09)
参考文献数
22

本研究では実験室内で検証されることが多かった帽子の着帽効果について,暑熱環境下における実際の運動・スポーツ場面において検討し,熱中症対策に有用な帽子開発の基礎資料を提示することを目的とした.実験1では,39種類の色と素材の帽子について,帽子内温度が低く抑えられるものは何かを検討した.その結果,綿ポリ製の複数の色で最も温度上昇が抑えられた.実験2では,綿ポリ製素材を用いて2種類の形状の帽子を試作した.この帽子を用いて,4種目のスポーツ実施中の帽子内温湿度と被験者の深部体温の変化について観察した.その結果,広い通気口のある帽子では,湿度の上昇が低く抑えられた.他方,帽子全体に1センチ四方の小窓を開けた帽子では,広い通気口を設けるより,帽子内温度上昇率を15ポイント以上低く抑えられた.2つのタイプの帽子はそれぞれに優れている点が認められ,これらを組み合わせたスポーツキャップがあれば有用性が高いのではないかと示唆された.
著者
澤田 智紀 大川原 洋樹 中島 大輔 名倉 武雄
出版者
公益財団法人 石本記念デサントスポーツ科学振興財団
雑誌
デサントスポーツ科学 (ISSN:02855739)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.178-187, 2022-06-20 (Released:2022-12-20)
参考文献数
13

本研究は筋疲労の改善に効果的な温冷交代刺激プロトコルを検証するとともに,筋組織血流動態と自律神経活動へ及ぼす影響を検証することを目的とした.対象は健常成人男性とし,タイピング課題により僧帽筋に疲労を生じさせた上でウェアラブルサーモデバイスを用いた3つの温冷交代刺激条件と刺激なし条件の計4条件の介入を実施した.評価項目は筋硬度と主観的症状とした.さらに,これらの項目に関して改善が得られた介入条件における筋組織血流動態ならび心拍変動解析による自律神経活動を評価した.その結果,温刺激3分,冷刺激1分のプロトコルにおいて筋硬度と主観的症状の改善を認めた.また,同プロトコルの実施により,僧帽筋組織中の酸素化ヘモグロビン濃度変化量,総ヘモグロビン濃度変化量が上昇し,交感神経活動の指標である低周波成分 /高周波成分比( LF/HF)の増大を認めた.本研究により,局所的な表在性の温冷交代刺激が対象とする筋組織ならびに自律神経活動に影響を及ぼすことが明らかとなった.
著者
宮本 忠吉 仲田 秀臣 大槻 伸吾 伊藤 剛 中原 英博
出版者
公益財団法人 石本記念デサントスポーツ科学振興財団
雑誌
デサントスポーツ科学 (ISSN:02855739)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.233-242, 2022-06-20 (Released:2023-04-09)
参考文献数
21

本研究は,システム生理学的研究手法を用いて週一回の高強度インターバルトレーニングが呼吸化学調節系のフィードバック制御機能や心形態・心機能に及ぼす影響を明らかにすることを目的と した.対象は健常男性7名.トレーニング前後で最大酸素摂取量(VO2max)及び心形態の測定評価を行った.また安静時,低強度,高強度運動時の各々の条件下にて,呼吸化学調節フィードバック系をコントローラ(制御部)とプラント(制御対象部)の2つのサブシステムに分離した後,定量化し,それぞれの機能特性をトレーニング前後で比較検討した.高強度インターバルトレーニング後のVO2max(+9.5±7.5%)及び左室後壁厚(+17.9±8.6%)はトレーニング前と比較して有意に増加した(p < 0.01).また,トレーニングによって高強度運動時のコントローラ特性曲線のリセッティングが生じ,プラント特性(双曲線)の比例定数の増加及びx軸漸近線の値の減少が認められた(p < 0.05).本研究から,週一回の高強度インターバルトレーニングは最大呼吸循環機能を向上させるだけでなく,高強度運動時における呼吸化学調節系の機能特性を特異的に変化させること,制御部特性の機能的変化が,高強度運動時の換気抑制の主たるメカニズムとして動作していることが判明した。
著者
木内 聖 平野 智也 角田 直也 船渡 和男
出版者
公益財団法人 石本記念デサントスポーツ科学振興財団
雑誌
デサントスポーツ科学 (ISSN:02855739)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.184-191, 2023-02-22 (Released:2023-03-09)
参考文献数
9

ランニングにおける足部内側縦アーチの変化および足底荷重を定量化することを目的とした.足底圧分析機 (Novel GmbH®,100Hz),モーションキャプチャシステム (Oxford,100Hz),フォースプレート (Kistler,1KHz) を同期し,足底を解剖学的計測点に基づいて5つに分割した.参加者8名が2.78m/sの速度でランニングを行った.内側縦アーチ角度は第一中足骨遠位端,舟状骨,踵骨側面のなす角度,中足趾節関節角度は,母趾末節骨近位端,第一中足骨遠位端および近位端のなす角度として算出した.足底荷重は,接地とともに後足部および前足部外側の荷重がみられ,蹴り出し時には前足部に荷重がシフトし,内側縦アーチ角度が最大の変化量を示した.その後,中足趾節関節背屈に伴い前方向の地面反力が増加する傾向がみられた.内側縦アーチは,足部接地中,足底荷重を吸収するための柔軟な構造から,蹴り出し時に中足趾節関節を背屈させることで剛性を高め,前足部で蹴り出すことで前方への推進力を生み出していると推察される.
著者
合屋 十四秋 天野 義裕 星川 保 松井 秀治
出版者
石本記念デサントスポーツ科学振興財団
雑誌
デサントスポーツ科学 (ISSN:02855739)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.151-168, 1993-06-10

The purpose of this study was to evaluate the similarity and differential of the characteristics and selected sport performances (running, throwing and swimming) in monozygous (MZ) and dizygous (DZ) twins, furthermore a significance of the heritability and trainability in determining the individual variation of those parameters by means of longitudinal design. In this study, each one pair of female MZ and DZ twins employed as subjects measured for 7 to 9 years successively. Comparison of the differences between MZ and DZ twins were made by intrapair difference computed through the following equation '. { | A-B | } / {(A + B) /2} * 100 =Intrapair difference : ID (%) Anthropometric parameters were little differnces between MZ and DZ twins in the series of the growth and development respectively (ID= 0.1~3.5% for MZ, 1.2~6.5% for DZ). However, girth and weight parameters indicated from 2.4% to 12.9% for MZ, from 0.5% to 21.7% for DZ respectively. The percentage of ID for PWC 170 and PWC 170 /wt in D02 increased from 30.6% to 76.6%, from 42.2% to 84.1% at the age from 15 to 16 respectively. This findings may be considered that aerobic power might be relied on not only the genetic factor but also the difference of the usual physical activities. As evaluate the magnitudes of the influence of phylogenetic and ontogenetic types, kinematic variables in running were related with genetic factors based on the discussion of intrapair difference and motor patterns between MZ and DZ twins by longitudinal viewpoint. However, motor patterns and kinematic variables in throwing and swimming performances seemed to be influenced by a total amount of individual activities and experiences, especially by learning and training, Because of the values of performances in swimming could be improved the time as the extra exercise was provided. In addition, overhand throwing patterns for both twins could not be developed without extra training.本研究では,7~9年間継続的に測定を行ってきた,一卵性双生児女子(MZ)および二卵性双生児女子(DZ)の,それぞれ各一組ずつを事例として,個々の発育発達の経過や特徴を身体特性,機能および各種動作様式の変容を中心に,縦断的に検討した.その結果,走動作パターンの変化は,双方ともに2児間ではほぼ類似したパターンであり,追跡対象組の走動作様式は,急激なからだの変化がない限り,大きな変化はみられないようである.走動作は身体特性や機能との関連が強いが,全身持久性能力は,発育発達の完成以降の働きかけ如何によって変わる可能性が示唆された.また,投動作では,MZでは投運動の主動作に先立つ脚,腰の準備動作がほとんどみられす, DZでは最終段階での特徴的な主動作でもある腰や肩のひねり,投方向へのステップが,ごくわすかにみられた程度であった.投動作パターンは,双方とも測定最終年齢の段階ではさほど改善されていないように思われた.一方,泳動作では,特別な働きかけがなされた時のみにパフォーマンスが向上し,泳ぎのかたちの変容は,年齢にともなって必ずしもよくなるとは限らないことが明らかになった.すなわち,水泳運動は個々の学習経験量によって,出来ばえが左右されることが示唆された.