著者
木下 利喜生 田島 文博 児嶋 大介 橋崎 孝賢 川西 誠 森木 貴司 吉田 知幸 上西 啓裕 西村 行秀 中村 健
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】近年,脳卒中患者における急性期リハビリテーション(リハ)の有効性が明らかになっている。本邦をはじめ,多くの国のガイドラインにおいても医学的に安定した脳卒中患者のリハはできるだけ早期に始めるよう勧められている。先行研究では早期にリハを開始した方がActivity of Daily Living(ADL)障害,抑うつ症状,Quality of Lifeの改善が良好で,早期リハ実施の安全性も示されている。我々の施設においても,以前より急性期からの積極的なリハに取り組んでいる。しかし急性期病院入院期間中だけを調査した短期効果は示されていない。また先行研究における早期リハ開始時間は脳卒中発症24時間以内や48時間以内,長いものでは72時間以内と定義されているものもあり,リハ開始時間は統一されていない。今回,脳卒中発症直後の患者をリハ開始時間により3群にわけ,リハ効果を検討する事で急性期病院における早期リハ介入効果,および適切なリハ開始時間の検討を試みた。【方法】本研究はprospective cohort studyであり,2014年7月から2015年4月までに入院した初発脳卒中片麻痺患者227名を対象とした。除外基準は発症前modified Rankin Scale score<4,神経症状が増悪しているもの,重篤な心不全,下肢骨折などにより運動療法が困難なものとした。発症からリハ開始までを24時間以内(Very Early Mobilization;VEM群),24~48時間まで(Early Mobilization;EM群),48時間以上(Usual care;UC群)の3群に分け,リハ開始時,転帰時のGlasgow Coma Scale(GCS),National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS),Functional Independence Measure(FIM)を測定し,急性期のリハ介入時期による効果を比較した。また死亡者数,脳卒中再発数を比較し安全性の検討も行った。GCS,NIHSS,FIMにおける3群間の比較にはKruskal-Wallis testを行いpost hocはDunn's testを使用した。それ以外の項目はANOVAを行いpost hocはTukey-Kramerを用いた。また死亡者数,再発数の比較はχ2 testを使用した。【結果】対象は24時間以内が47名(内2名[4%]死亡,1名[2%]再発),24~48時間が77名(内4名[5%]死亡,6名[8%]再発,1名[1%]心不全),48時間以上が103名(内7名[7%]死亡,4名[4%]再発,2名[2%]心不全)であり,3群間の死亡者数,再発者数に有意差はなかった。リハ開始時のGCS,NIHSS,FIMに有意差はなく,転帰時のGCSではVEM群が他の2群より有意に高く,NIHSSにおいてもVEM群がUC群よりも有意に良好であった。また転帰時のFIMはtotal score,motor subscale,cognition subscaleともに3群間に有意差はなかったが改善量で比較したところVEM群のtotal score,motor subscaleは他の2群より有意な改善量を示した。【結論】脳卒中患者に対する急性期リハは発症24時間以内に開始する事で高いADL,GCS,NIHSSの改善が得られる事が判明した。さらに発症24時間以内に介入しても危険性が増す事はなかった。すなわち脳卒中患者における急性期リハの効果は1日開始が遅れるだけで影響をうける可能性がある。
著者
藤田 恭久 幸田 剣 田島 文博 木下 利喜生 箕島 佑太 橋崎 孝賢 森木 貴司 川西 誠 児島 大介 上西 啓祐 梅本 安則
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.95, 2011

【目的】 リハビリテーション(リハ)においては,たとえ重篤な症例であっても,医学的に患者の全身状態を悪化させる安静臥床を避ける必要がある.そのため出来る限り離床を進め,運動負荷を加えることがリハの基本である.今回,原因不明の多臓器不全と診断され、肺炎と無気肺を合併したために約2カ月間の人工呼吸器管理となった症例に積極的なリハを施行した。その結果、人工呼吸器離脱と同時に歩行自立を達成したので、その工夫を含めて報告する。<BR>【方法】 症例は37歳,男性,身長180cm,体重180kg,BMI 55.5kg/_m2_.今回,多臓器不全・肺炎により当院に緊急搬送,ICUで人工呼吸器管理となり,廃用予防・呼吸循環機能改善目的で入院2日目よりリハ開始となった.リハ開始時現症は,意識レベルJCS 300(鎮静下),人工呼吸器管理(経口挿管,APRV,FiO2 0.6,PEEP(high/low) 20/0),TV 500ml,SpO2 95%,血液ガス分析はPaO2 76.6mmHg,PaCO2 50.9 mmHg,P/F比128,AaDO2 287 mmHgであった.ROM制限は無く,自発運動は認めなかった.重度の肥満があり,体位ドレナージは当初より困難であった.ICU入室15日後,気管切開され,抜管のリスクが低下したため,端座位・立位訓練開始.この時,鎮静は実施されておらず,意識は清明であり,MMT両上肢3,両下肢2レベルであった.多臓器不全・肺炎の治療に長期を要し,ICU入室31日後,一般病棟へ転棟.その後もベッドサイドで人工呼吸器装着下(CPAP,FiO2 0.6,PEEP 8)で,端座位・立位訓練を継続した.<BR>転棟25日後,病棟で呼吸器離脱に向け,日中はT-tube(O2 8L,FiO2 0.8)を開始されたが,時折SpO2低下を認めたため,夜間は呼吸器管理を継続された.画像所見では,両肺に無気肺・スリガラス陰影を認めた.血液ガス分析はPaO2 77.6 mmHg,PaCO2 39.8 mmHg,P/F比172,AaDO2 193mmHgであった.肺炎が沈静化しておらず,酸素化能の低下には無気肺の影響もあると考えられた.検討の結果,人工呼吸器を持ち運び可能なHAMILTON-C2に変更し,リハ室へ出棟することとした.歩行訓練やハンドエルゴメーター(20W 20分)を中心とした運動負荷を積極的に行い,換気量を増加させることに努めた.リハ来室時の状況は,人工呼吸器(CPAP,FiO2 0.3,PEEP 6),安静時SpO2 97%,HR115回/分,TV600ml,呼吸数18回/分であった.歩行訓練後はSpO2 94%,HR132回/分,TV1200ml,呼吸回数25回/分となった.この時,HAMILTON-C2の支柱を自ら把持し軽介助レベルで歩行可能であった.<BR>訓練中に呼吸困難感が生じた際は,リハDrによりPEEPやPSなどの呼吸器設定を適宜変更しながら運動負荷量を増加させていった.<BR>【説明と同意】 本症例と家族に対して発表の趣旨について説明を行い,情報の開示に対し同意を得た.<BR>【結果】人工呼吸器を持ち運び可能なものに変更し,リハ室で1週間運動療法を施行した結果,人工呼吸器を完全に離脱でき,T-tube(O2 5L,FiO2 0.3)へ移行できた. T-tubeの状態でも運動療法を推進した結果,酸素が不要となり,退院前には気切閉鎖できた.血液ガス分析はPaO2 68.1mmHg,PaCO2 40.6mmHg,P/F比324,AaDO2 23.8mmHgとなり,画像所見で無気肺の改善を認めた.体重は135kgに減量し,MMT上下肢4レベルとなった.ADLでは歩行が歩行器からT字杖歩行,独歩可能,身の回り動作が自立できた.<BR>【考察】気管切開後も人工呼吸器管理であったため,当初はベッドサイドでの立位訓練や車いす移乗までしか行えなかった.主治医より呼吸器離脱に向けた無気肺の改善を求められたが,重度の肥満があり,病棟での体位ドレナージは施行困難でリハ以外は臥床傾向であった.そこで今回,人工呼吸器を持ち運び可能なものに変更し,リハDrの付き添いのもと行える環境を設定したことで,運動負荷時に呼吸困難感が出現した際の対応も可能となった.そのため積極的な運動療法を安全に施行できたと考える.<BR>リハ室で訓練を行う事で日中の臥床傾向を減少させ,更に運動負荷を強める事で換気亢進が惹起され,無気肺の改善に寄与したと考えられる.その結果,P/F比・AaDO2も改善し,呼吸器の離脱が可能となったと思われる.また,歩行訓練のみならず,全身調整運動を欠かさず続けた結果,BMI 41.7kg/_m2_まで減量することができ,歩行能力を含めたADL向上が得られたと考える.<BR>【理学療法学研究としての意義】人工呼吸器管理下では積極的なリハを敬遠しがちであるが,リハDrの付き添いのもと,持ち運び可能な人工呼吸器を使用することが,人工呼吸器装着患者に対して安全かつ効果的な運動負荷を実施するための選択となると考えられる.