著者
佐藤 知香 梅本 安則 田島 文博
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.56, no.11, pp.842-847, 2019-11-18 (Released:2019-12-27)
参考文献数
37
被引用文献数
2

安静臥床の弊害は70年以上前から認識されており,その影響は筋骨格系,循環器系,呼吸器系など全身に及ぶことがわかっている.また,超急性期治療領域においてもその弊害が注目されている.本稿では安静臥床の弊害について,筋量や筋力低下,関節拘縮,循環血液量減少や心機能低下による起立性低血圧,最大酸素摂取量の低下,肺活量低下などをそれぞれの報告を挙げ説明する.後半は,離床や運動負荷による治療効果を紹介する.なぜリハビリテーション治療を提供すべきなのか,考える一助となれば幸いである.
著者
児嶋 大介 木下 利喜生 東山 理加 太田 晴基 山本 洋司 下松 智哉 梅本 安則 田島 文博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A4P1044, 2010

【目的】<BR> 日本古来、温泉に浸かると体調が整い元気になるというような伝統的な民間療法が伝承されており、また、運動を行うことにより同様の効果が得られる。運動による全身調整効果は近年Pedersonらによって明らかにされた。骨格筋は単なる運動器ではなく、収縮することにより、サイトカインの一種であるインターロイキン6(以下IL-6)を多量に放出する内分泌器官であることが明らかになった。さらに、筋繊維から分泌されるIL-6をはじめとしたサイトカインは、これまで認識されてきた液性免疫の中心的役割を担うだけでなく、同時に糖代謝、脂質代謝の活性化、造血幹細胞の活性化、神経修復の活性化等を有する多機能サイトカインであることが示され、Myokinesと命名された。我々は、温泉入浴の効果が免疫系・代謝系等多岐にわたる事から、温浴がmyokinesを発現させ、元気になり、体調が整う等の生体への様々な効果を上げているのではないかと推測した。過去にも頚下浸水においてIL-6の変化について言及されることはあったが、結論は出ていない。そこで我々は温泉における頚下浸水の前後で血中IL-6濃度を測定した。<BR><BR>【方法】<BR> 被検者は若年健常男性8名(年齢26.9±4.1歳、身長172.6±8.6cm、体重66.3±6.8Kg)とした。また、全ての被検者は測定前日から激しい運動・カフェイン・アルコールの摂取を禁止した。被検者は、中性温の室内で安静座位をとり、血圧・心拍数が安定した後、30分間の浸水前測定を行った。その後、42&deg;Cの温泉に20分間頚部までつかり(頚下浸水)、その後再び中性温の室内で安静座位を1時間とった。採血は浸水前、浸水直後、浸水1時間後に医師が行い、左前腕から1回20mlを採血し、ただちに遠心分離機で血漿・血清を分離させ、ELISA法により血中IL-6、TNF-αを測定した。また白血球数、およびその分画である単球、ヘマトクリット値、CRPの測定も行った。さらに実験中は舌下温をモニタリングした。<BR>温泉は那智勝浦町立温泉病院地下から湧き出るものをボイラーで温度調節し、使用した。<BR>controlの為、2日間以上の期間をあけて、入浴を行わない対照実験を行った。<BR>結果の解析はANOVAを行い、post hocテストでLSDを用いて負荷前後での検定を行い、有意水準は5%とした。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 本研究は和歌山県立医科大学倫理委員会で承認されており、実験に先立って被検者には研究の主旨と方法を十分に説明し、同意を得てから施行した。<BR>【結果】<BR> 温泉での頚下浸水負荷前後のIL-6濃度は、入水前:0.88±0.13pg/ml 入水直後:1.20±0.32pg/ml 回復後: 1.75±0.65pg/ml であり、温泉での頚下浸水負荷20分による血中IL-6濃度の上昇が認められた(P<0.05)。TNF-α、白血球数、および単球、ヘマトクリット値は入水前後において有意な変化は認めなかった。舌下温は入水前:37.4625±0.25&deg;C 入水直後:39.2625±0.72&deg;C 回復後: 37.7625±0.40&deg;C であり、入水前後で舌下温の上昇が認められた(P<0.01)。またcontrol群において血中濃度・舌下温は有意な変化が認められなかった。<BR>【考察】<BR> 健常者において、温泉入浴によりIL-6の血中濃度が上昇した。今回、ヘマトクリット値の変化を認めなかったため、血中IL-6濃度の上昇や、その他の血液データは脱水による影響は受けていないと考えられる。<BR>一般に、IL‐6は炎症反応により単球から分泌されるpro-inflammatoryな物質であると考えられている。それに対して、Pedersenらは筋収縮により分泌され、anti-inflammatoryなものであると主張する。今回の研究では、pro-inflammatory 物質であるTNF-αの上昇もなく、単球の増加もないため、炎症反応による血中IL-6濃度の上昇は否定的である。一方、温泉入浴中に筋肉を収縮するような運動も実施していないため、筋肉からIL-6が産生されたとも考えにくい。<BR>今回の結果より、IL-6の上昇はpro-inflammatoryなものとは考えにくく、その上昇メカニズムとして現在わかっているもの以外の存在が推測される。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究により、理学療法の一つの柱である物理療法の源流ともいえる温泉療法効果発現の根幹に迫ることが出来た。温泉入浴が運動負荷と同様にIL-6を上昇させる事実は、IL-6を発現するだけの運動が行えない高齢者や障害者の健康維持の一助となる可能性を示した。
著者
安岡 良訓 梅本 安則 児嶋 大介 木下 利喜生 星合 敬介 大古 拓史 坪井 宏幸 谷名 英章 橋崎 孝賢 森木 貴司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Aa0126, 2012

【はじめに】 運動負荷が糖代謝,脂質代謝へ影響を与える機序として,骨格筋の収縮により産生されるインターロイキン-6(IL-6)が重要な役割を果たしていると報告されている.IL-6はこれまで炎症性サイトカインとして知られていたが,運動によるIL-6上昇は,TNF-αなどの炎症性サイトカインの上昇なしに,IL-1raやIL-10等の抗炎症サイトカインの上昇を導くことが報告されている. これまで,健常者ではランニング,自転車エルゴメーターや膝伸展運動で血中IL-6濃度が上昇したと報告され,IL-6の骨格筋からの分泌には,ある程度の運動時間と強度が必要とされている. 運動を連続して行うためにはスポーツへの関与が望ましく,その中でもゴルフは長時間の運動が可能であり,歩行を中心とした中等度の活動量が得られることが報告されている.この事からゴルフによる運動でIL-6上昇が予測されるが,これまでゴルフラウンドによるIL-6動態に関する報告はない.そこで我々は,18ホールのゴルフラウンドが血中IL-6濃度に変化を与えるがどうかを検証する目的で実験を行った.【方法】 被検者は健常者9名(平均年齢31.1±4歳,平均±SD)とし,除外基準は糖尿病の既往,心疾患,進行性の疾患,骨関節疾患を有する者とした.被検者は実験室に到着した後,心拍数をモニターする為の無線測定器を装着し,30分の安静座位をとった.その後,血中IL-6濃度,血中TNF-α濃度,hsCRP,ミオグロビン,CK,アドレナリン,白血球分画,HCTを測定するため採血を行った.採血後,被検者はこちらで用意した朝食を摂取した. その後,被検者は18ホールのゴルフラウンドを行った.ラウンド中,被検者は歩いて移動し,ゴルフバック,クラブ等は電動カートを使用し搬送した.ラウンド中の飲食はこちらで用意したスポーツドリンクのみとした.ラウンド終了後,直ちに採血を行った.その後,安静座位をとり,1時間後に再び採血を行い実験を終了した.統計学的検討には,ANOVAを行い,post hocテストとしてSheffe's testを用い,有意水準5%未満を有意差ありとした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は倫理委員会の承認を得た上で行った.被験者には実験の目的,方法および危険性を書面と口頭で十分に説明し,実験参加の同意を得て実験を行った.【結果】 全被検者は18ホールのゴルフラウンドを終了し,所要時間は303±4.3分であった.ラウンド中の平均心拍数は安静時と比較して有意な上昇を認め,回復1時間後で安静レベルへ戻った.血中IL-6濃度は安静時と比較し,ラウンド終了後で有意に上昇し,回復1時間後でもその上昇は維持した.ミオグロビン,CK濃度もラウンド終了後に有意な上昇を認め,回復1時間後で上昇を維持した.血中TNF-α濃度,hsCRP濃度に変化はなかった.白血球,単球数はラウンド終了後に有意な上昇を認め,ラウンド1時間後もその上昇は維持された.アドレナリンは実験を通して変化はなかった.HCTはラウンド終了後に変化はなく,回復1時間後で低下した.【考察】 IL-6濃度が上昇した要因に関して,本実験ではミオグロビン,CK濃度に上昇が認められるものの,TNF-α,CRP濃度に変化を認めなかった.この事から炎症性カスケードによるIL-6上昇の可能性は低いと考えられる.またアドレナリン濃度が変化しなかった事から,骨格筋のアドレナリン刺激によるIL-6mRNA転写促進の可能性も低いと考えられた.さらに,単球数の上昇を認めているが,先行研究において運動による末梢血単球数の上昇はIL-6濃度に関与しないことが報告されており,IL-6濃度の上昇が単球由来である可能性も否定的である.よって,本実験のIL-6濃度の上昇は,骨格筋の収縮によって誘発されるといった過去の報告を支持する. 筋収縮に由来する血中IL-6濃度の上昇は,運動強度と時間,活動筋肉量に関連があると言われている.ゴルフは18ホールのラウンドで約7km歩き,その歩数は10,000歩以上になると報告されている.我々の知る限り,歩行を運動方法としたIL-6濃度の上昇は,運動後変化しないか上昇しても約1.5倍程度である.今回,ラウンド終了後の血中IL-6濃度は安静時の約7倍の濃度を認めた.これは18ホールのゴルフラウンドが,骨格筋からIL-6を誘発するには十分な時間と強度であった事が考えられる. 本実験により,18ホールのゴルフラウンドを行うことで,TNF-αの上昇なしに血中IL-6濃度が上昇することが証明された.ゴルフラウンドはIL-6上昇の観点から,炎症を誘発せずに行うことが出来る有益な運動方法であることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 運動が身体に及ぼす影響を科学的に調査し,新たな知見を得ることは,健康の維持・増進に関して、リハビリテーション医学の貢献に寄与するもだと考える.
著者
山本 洋司 渡辺 広希 高田 祐輔 梅本 安則
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.615-623, 2020 (Released:2020-12-18)
参考文献数
38

【目的】脳卒中患者に対する早期離床を発症後48 時間以内の起立と定義し,有効性および安全性について検証すること。【方法】対象は脳卒中患者とし,早期離床導入前群(以下,導入前群)と早期離床導入後群(以下,導入後群)に分けた。主要アウトカムは退院時のBarthel Index ならびにmRS とした。副次項目は不動関連の合併症ならびに神経学的有害事象とした。【結果】導入前群110 名,導入後群93 名であった。Barthel Index は導入前群と比較して導入後群で有意に高かった。mRS(0–1) に該当する者は導入前群と比較して導入後群で有意に多かった。不動関連の合併症は導入前群と比較して導入後群で有意に少なかった。神経学的有害事象は両群間で有意差を認めなかった。【結論】発症後48 時間以内の起立と定義した早期離床は,脳卒中患者においてテント上病変ならびに保存的治療例で安全に実施可能で機能的予後を良好にし,不動関連の合併症を減少させる。
著者
藤田 恭久 幸田 剣 田島 文博 木下 利喜生 箕島 佑太 橋崎 孝賢 森木 貴司 川西 誠 児島 大介 上西 啓祐 梅本 安則
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.95, 2011

【目的】 リハビリテーション(リハ)においては,たとえ重篤な症例であっても,医学的に患者の全身状態を悪化させる安静臥床を避ける必要がある.そのため出来る限り離床を進め,運動負荷を加えることがリハの基本である.今回,原因不明の多臓器不全と診断され、肺炎と無気肺を合併したために約2カ月間の人工呼吸器管理となった症例に積極的なリハを施行した。その結果、人工呼吸器離脱と同時に歩行自立を達成したので、その工夫を含めて報告する。<BR>【方法】 症例は37歳,男性,身長180cm,体重180kg,BMI 55.5kg/_m2_.今回,多臓器不全・肺炎により当院に緊急搬送,ICUで人工呼吸器管理となり,廃用予防・呼吸循環機能改善目的で入院2日目よりリハ開始となった.リハ開始時現症は,意識レベルJCS 300(鎮静下),人工呼吸器管理(経口挿管,APRV,FiO2 0.6,PEEP(high/low) 20/0),TV 500ml,SpO2 95%,血液ガス分析はPaO2 76.6mmHg,PaCO2 50.9 mmHg,P/F比128,AaDO2 287 mmHgであった.ROM制限は無く,自発運動は認めなかった.重度の肥満があり,体位ドレナージは当初より困難であった.ICU入室15日後,気管切開され,抜管のリスクが低下したため,端座位・立位訓練開始.この時,鎮静は実施されておらず,意識は清明であり,MMT両上肢3,両下肢2レベルであった.多臓器不全・肺炎の治療に長期を要し,ICU入室31日後,一般病棟へ転棟.その後もベッドサイドで人工呼吸器装着下(CPAP,FiO2 0.6,PEEP 8)で,端座位・立位訓練を継続した.<BR>転棟25日後,病棟で呼吸器離脱に向け,日中はT-tube(O2 8L,FiO2 0.8)を開始されたが,時折SpO2低下を認めたため,夜間は呼吸器管理を継続された.画像所見では,両肺に無気肺・スリガラス陰影を認めた.血液ガス分析はPaO2 77.6 mmHg,PaCO2 39.8 mmHg,P/F比172,AaDO2 193mmHgであった.肺炎が沈静化しておらず,酸素化能の低下には無気肺の影響もあると考えられた.検討の結果,人工呼吸器を持ち運び可能なHAMILTON-C2に変更し,リハ室へ出棟することとした.歩行訓練やハンドエルゴメーター(20W 20分)を中心とした運動負荷を積極的に行い,換気量を増加させることに努めた.リハ来室時の状況は,人工呼吸器(CPAP,FiO2 0.3,PEEP 6),安静時SpO2 97%,HR115回/分,TV600ml,呼吸数18回/分であった.歩行訓練後はSpO2 94%,HR132回/分,TV1200ml,呼吸回数25回/分となった.この時,HAMILTON-C2の支柱を自ら把持し軽介助レベルで歩行可能であった.<BR>訓練中に呼吸困難感が生じた際は,リハDrによりPEEPやPSなどの呼吸器設定を適宜変更しながら運動負荷量を増加させていった.<BR>【説明と同意】 本症例と家族に対して発表の趣旨について説明を行い,情報の開示に対し同意を得た.<BR>【結果】人工呼吸器を持ち運び可能なものに変更し,リハ室で1週間運動療法を施行した結果,人工呼吸器を完全に離脱でき,T-tube(O2 5L,FiO2 0.3)へ移行できた. T-tubeの状態でも運動療法を推進した結果,酸素が不要となり,退院前には気切閉鎖できた.血液ガス分析はPaO2 68.1mmHg,PaCO2 40.6mmHg,P/F比324,AaDO2 23.8mmHgとなり,画像所見で無気肺の改善を認めた.体重は135kgに減量し,MMT上下肢4レベルとなった.ADLでは歩行が歩行器からT字杖歩行,独歩可能,身の回り動作が自立できた.<BR>【考察】気管切開後も人工呼吸器管理であったため,当初はベッドサイドでの立位訓練や車いす移乗までしか行えなかった.主治医より呼吸器離脱に向けた無気肺の改善を求められたが,重度の肥満があり,病棟での体位ドレナージは施行困難でリハ以外は臥床傾向であった.そこで今回,人工呼吸器を持ち運び可能なものに変更し,リハDrの付き添いのもと行える環境を設定したことで,運動負荷時に呼吸困難感が出現した際の対応も可能となった.そのため積極的な運動療法を安全に施行できたと考える.<BR>リハ室で訓練を行う事で日中の臥床傾向を減少させ,更に運動負荷を強める事で換気亢進が惹起され,無気肺の改善に寄与したと考えられる.その結果,P/F比・AaDO2も改善し,呼吸器の離脱が可能となったと思われる.また,歩行訓練のみならず,全身調整運動を欠かさず続けた結果,BMI 41.7kg/_m2_まで減量することができ,歩行能力を含めたADL向上が得られたと考える.<BR>【理学療法学研究としての意義】人工呼吸器管理下では積極的なリハを敬遠しがちであるが,リハDrの付き添いのもと,持ち運び可能な人工呼吸器を使用することが,人工呼吸器装着患者に対して安全かつ効果的な運動負荷を実施するための選択となると考えられる.
著者
森木 貴司 小池 有美 上西 啓裕 梅本 安則 田島 文博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.EbPI2428, 2011 (Released:2011-05-26)

【はじめに】純粋無動症はパーキンソン症候群を伴う疾患で、進行性核上性麻痺の一病型と考えられ、すくみを主症状とする。すくみは、日常生活上ですくみ足として現れ、しばしば転倒の原因となっている。したがって、すくみ足を改善することが期待され、しばしば理学療法が処方される。すくみ足に対する理学療法は、眼前の障害物を意識することで改善する特質(矛盾性運動、kinesie paradoxale)を活用した方法が多く報告されている。しかし、純粋無動症に対しての報告は少なく、臨床的にあまり検討されていない。今回、純粋無動症患者に対して、自助具の導入と運動療法を実施し、ADL改善がみられたので報告する。【説明と同意】本調査実施にあたり、文書による十分なインフォームドコンセントを行い、同意を得た。【症例紹介】70代男性、無職、妻と二人暮らし。社会資源に関しては、身体障害者手帳2級、介護保険要介護度5で、入院前はデイサービスと訪問リハビリを週3回ずつ利用されていた。平成15年に純粋無動症、パーキンソン症候群と診断された。平成22年に入り、すくみ足が強く出現し歩行困難となり、同年6月初旬にADL改善目的で入院され、理学・作業・言語療法が処方された。リハビリ開始時現症は、意識清明、見当識良好。仮面様顔貌、小字症がみられた。脳神経には異常所見はなく、筋緊張は亢進し固縮がみられた。協調性は上下肢でやや拙劣さあり、企図振戦もみられた。立位姿勢は、典型的な前傾姿勢を呈し、頸部や体幹、肩関節、股関節でROM制限がみられた。MMTは両上下肢5レベル。ADLについて、セルフケアは食事以外は中等度介助レベル、歩行はすくみ足が強く中等度~軽介助レベルであり、FIMは85点であった。【経過】リハビリ開始当初は集中的に運動療法を行った。具体的なプログラムとしては、ROM訓練、筋力訓練、床上動作、歩行、階段昇降などを実施した。また、運動耐容能や左右肢体の協調性改善目的に自転車エルゴメータおよびハンドエルゴメータ、トレッドミルなどを実施した。リハビリ開始から3日後には独歩が軽介助~監視レベルとなったが、依然としてすくみ足が問題であった。1週間後のカンファレンスでは、入院中の目標を実用的なすくみ足改善手段の決定、退院後の機能維持のため自主トレーニングの習得、他機関医療者への情報提供とした。すくみ足に対する環境設定については、L字型杖が著効した。10m歩行時間においても他手段と比較しL字型杖使用時で最速であった。したがって、すくみ足改善手段をL字型杖の導入に決定した。これにより症例自身もすくみ足改善を実感されていた。入院から3週後の退院時には、セルフケアは軽介助~監視レベル、歩行はL字型杖使用により監視~自立レベルとなり、FIMは107点に増加した。【退院後の状況】退院1カ月後の状況は、訪問リハビリ、通院リハビリ、デイサービスをそれぞれ週2回受けられ、自宅では、入院中の指導も守れており、転倒もなく入院中と同レベルのADLを維持できていた。また、歩行改善に伴いリースしていた車椅子や電動車椅子は返却し、移動手段は歩行のみとなっていた。しかし、退院5カ月後の状況では、歩行は行えていたものの動作指導や自主トレーニングを継続しておらず、主にセルフケアで妻の介助を要し、FIMは95点と入院中に比べ減少していた。【考察】純粋無動症患者に対し自助具の導入と運動療法の併用により、短期入院ではあったが著明にADLが改善した。L字型杖の導入によりすくみ足が改善した理由は、矛盾性運動誘発の障害物として状況に応じて自由に目印にすることができ、場所の限定がされないということが考えられる。また、すくみ足改善以外にセルフケアも全般的に改善したため運動療法も効果的であったと考えられる。本疾患は、進行性ではあるが退院後もできるだけ機能維持していくことが重要であり、退院後は他機関への情報提供と在宅での自主トレーニングを継続していく必要があると考える。退院後の調査では、退院直後は機能維持できていたが、5カ月後では入院中に比べADLが低下していた。この対策としては、定期的な状態の把握と動作指導、訪問・外来リハビリでの運動量の確保、指導の徹底をする必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】純粋無動症についての報告は少なく治療に難渋することが予測される。そこで、本発表を参考にして頂き治療の一助になればと思い報告させて頂く。