著者
橋﨑 孝賢 木下 利喜生 左近 奈々 児嶋 大介 森木 貴司 上西 啓裕 関口 岳人 西村 行秀
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1275, 2015 (Released:2015-04-30)

【目的】Ehlers-Danlos症候群(EDS)は,皮膚,関節,血管など結合組織の脆弱性を引き起こす遺伝性疾患である。今回,複数下肢関節不安定性を有するEDS症例に装具作製を行い,有効な効果を得たので,装具処方の工夫や経過をふまえて報告する。【症例提示】46歳女性。平成9年,スノーボードで転倒,右膝外傷,関節鏡検査し保存的加療を実施。43歳頃より両膝関節に強い荷重時痛が頻発した。平成24年12月,後頚部痛出現し,頚椎すべり症指摘され平成25年7月初旬に手術考慮され当院整形外科受診,EDSを疑われた。8月中旬に手術目的で当院入院。術前よりリハビリテーション紹介となり,翌日頚椎除圧固定術施行。術後歩行時に両側反張膝,右膝外反位が著明となり右膝痛強く,歩行困難となった。歩行獲得のため両側長下肢装具作製開始した。【経過と考察】活動性や美容面を考慮し装具を作製した。当初は膝装具での対応を試みたが荷重時の足関節不安定性が著明となるため長下肢装具(LLB)を選択した。軽量化と強度を考慮し剛性の高いカーボン素材とポリエチレンを使用しチタン素材の支柱と膝継手で連結した。この装具により両膝・足関節の不安定性は除去できたが,右膝外反矯正は不十分であった。さらに膝継手の内側にパッドや足部に内側ウェッジを追加することで外反は矯正され良肢位となり歩行の安定と疼痛や不安定性が除去できた。これにより自覚症状や歩容の改善が得られ独歩で自宅退院した。本症例のように膝関節の不安定性だけではなく足関節や多関節の不安定性が強い場合は,膝装具での矯正が困難な場合が多い。活動性が高い症例においてLLBは外見や重量から敬遠されがちであるが,患者の状態や要望を十分把握するのみではなく,医学的にも適切な装具を医師,義肢装具士らと協力し作製していく必要があると考えた。
著者
安岡 良訓 梅本 安則 児嶋 大介 木下 利喜生 星合 敬介 大古 拓史 坪井 宏幸 谷名 英章 橋崎 孝賢 森木 貴司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Aa0126, 2012

【はじめに】 運動負荷が糖代謝,脂質代謝へ影響を与える機序として,骨格筋の収縮により産生されるインターロイキン-6(IL-6)が重要な役割を果たしていると報告されている.IL-6はこれまで炎症性サイトカインとして知られていたが,運動によるIL-6上昇は,TNF-αなどの炎症性サイトカインの上昇なしに,IL-1raやIL-10等の抗炎症サイトカインの上昇を導くことが報告されている. これまで,健常者ではランニング,自転車エルゴメーターや膝伸展運動で血中IL-6濃度が上昇したと報告され,IL-6の骨格筋からの分泌には,ある程度の運動時間と強度が必要とされている. 運動を連続して行うためにはスポーツへの関与が望ましく,その中でもゴルフは長時間の運動が可能であり,歩行を中心とした中等度の活動量が得られることが報告されている.この事からゴルフによる運動でIL-6上昇が予測されるが,これまでゴルフラウンドによるIL-6動態に関する報告はない.そこで我々は,18ホールのゴルフラウンドが血中IL-6濃度に変化を与えるがどうかを検証する目的で実験を行った.【方法】 被検者は健常者9名(平均年齢31.1±4歳,平均±SD)とし,除外基準は糖尿病の既往,心疾患,進行性の疾患,骨関節疾患を有する者とした.被検者は実験室に到着した後,心拍数をモニターする為の無線測定器を装着し,30分の安静座位をとった.その後,血中IL-6濃度,血中TNF-α濃度,hsCRP,ミオグロビン,CK,アドレナリン,白血球分画,HCTを測定するため採血を行った.採血後,被検者はこちらで用意した朝食を摂取した. その後,被検者は18ホールのゴルフラウンドを行った.ラウンド中,被検者は歩いて移動し,ゴルフバック,クラブ等は電動カートを使用し搬送した.ラウンド中の飲食はこちらで用意したスポーツドリンクのみとした.ラウンド終了後,直ちに採血を行った.その後,安静座位をとり,1時間後に再び採血を行い実験を終了した.統計学的検討には,ANOVAを行い,post hocテストとしてSheffe's testを用い,有意水準5%未満を有意差ありとした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は倫理委員会の承認を得た上で行った.被験者には実験の目的,方法および危険性を書面と口頭で十分に説明し,実験参加の同意を得て実験を行った.【結果】 全被検者は18ホールのゴルフラウンドを終了し,所要時間は303±4.3分であった.ラウンド中の平均心拍数は安静時と比較して有意な上昇を認め,回復1時間後で安静レベルへ戻った.血中IL-6濃度は安静時と比較し,ラウンド終了後で有意に上昇し,回復1時間後でもその上昇は維持した.ミオグロビン,CK濃度もラウンド終了後に有意な上昇を認め,回復1時間後で上昇を維持した.血中TNF-α濃度,hsCRP濃度に変化はなかった.白血球,単球数はラウンド終了後に有意な上昇を認め,ラウンド1時間後もその上昇は維持された.アドレナリンは実験を通して変化はなかった.HCTはラウンド終了後に変化はなく,回復1時間後で低下した.【考察】 IL-6濃度が上昇した要因に関して,本実験ではミオグロビン,CK濃度に上昇が認められるものの,TNF-α,CRP濃度に変化を認めなかった.この事から炎症性カスケードによるIL-6上昇の可能性は低いと考えられる.またアドレナリン濃度が変化しなかった事から,骨格筋のアドレナリン刺激によるIL-6mRNA転写促進の可能性も低いと考えられた.さらに,単球数の上昇を認めているが,先行研究において運動による末梢血単球数の上昇はIL-6濃度に関与しないことが報告されており,IL-6濃度の上昇が単球由来である可能性も否定的である.よって,本実験のIL-6濃度の上昇は,骨格筋の収縮によって誘発されるといった過去の報告を支持する. 筋収縮に由来する血中IL-6濃度の上昇は,運動強度と時間,活動筋肉量に関連があると言われている.ゴルフは18ホールのラウンドで約7km歩き,その歩数は10,000歩以上になると報告されている.我々の知る限り,歩行を運動方法としたIL-6濃度の上昇は,運動後変化しないか上昇しても約1.5倍程度である.今回,ラウンド終了後の血中IL-6濃度は安静時の約7倍の濃度を認めた.これは18ホールのゴルフラウンドが,骨格筋からIL-6を誘発するには十分な時間と強度であった事が考えられる. 本実験により,18ホールのゴルフラウンドを行うことで,TNF-αの上昇なしに血中IL-6濃度が上昇することが証明された.ゴルフラウンドはIL-6上昇の観点から,炎症を誘発せずに行うことが出来る有益な運動方法であることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 運動が身体に及ぼす影響を科学的に調査し,新たな知見を得ることは,健康の維持・増進に関して、リハビリテーション医学の貢献に寄与するもだと考える.
著者
小池 有美 羽野 卓三 川邊 哲也 上西 啓裕 花井 麻美 坂口 侑花里 橋﨑 孝賢 森木 貴司 田島 文博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AbPI1055, 2011

【目的】自律神経機能については様々な測定方法があるが,近年簡易で無侵襲な電子瞳孔計での検査が自律神経機能検査として用いられつつある.我々が日常的に行う重い荷物を持ち続けたり,ひっぱる動作は息をこらえて行うことが多く,バルサルバ効果を伴い血圧上昇が懸念される.また,心を落ち着かせるためによく行われる深い呼吸は,迷走神経を経由して呼吸中枢に伝えられ,自律神経の影響を受けることが知られている.今回,電子瞳孔計を用いて息こらえ時および深い呼吸を継続した時の血圧,脈拍,瞳孔機能の状態を測定し,それぞれ安静時の状態と比較検討した.【対象】健常成人14名(男性7名,女性7名)で平均年齢は23~49歳(平均31.2歳±5.8).全員高血圧と診断されたことがなく,降圧薬の服用経験もない.【方法】測定は椅座位で十分に安静をとった後,机上で血圧と脈拍を測定した.瞳孔機能については電子瞳孔計(イリスコーダーデュアルC10641; 浜松ホトニクス)を用いて瞳孔径と縮瞳速度,散瞳速度を測定した.息こらえについては5分間の安静椅座位の後,1分以上出来るだけ長く息をこらえ,自己申告で限界10秒前を知らせ,各項目を測定した.深い呼吸については5分間の安静椅座位の後,過換気とならないようにゆっくり深く溜息をつくように閉眼で2分間呼吸するよう指示した.測定は1分を経過した時点で行った.統計学的検定方法についてはstudent-t-testを用いて,p<0.05を有意差ありと判定した.【説明と同意】対象者には事前に十分に説明し同意を得た.尚,本検討は和歌山県立医科大学倫理審査会により承認されている研究の一環として行った.【結果】収縮期血圧の平均値は安静時105±4.62mmHg,息こらえ時129±7.45 mmHg,深い呼吸時105±3.63 mmHgであった。安静時との比較ではそれぞれに差はみられなかった.拡張期血圧は安静時70.2±4.68mmHg,息こらえ時83.1±8.73 mmHg,深い呼吸時64.7±3.73 mmHgで,安静時と比較し息こらえ時は有意に上昇し深い呼吸時は有意に低下を認めた.脈拍は安静時73.4±4.17bpmだった.息こらえ時は73.4±7.45bpm,深い呼吸時は68.7±3.07bpmで安静時と比較し差はみられなかった.初期瞳孔径は安静時6.16±0.64mmであった.息こらえ時は6.41±1.01mm,深い呼吸時は6.30±0.66mmであり、安静時と比較し息こらえ時で有意に拡大していた.最小瞳孔径は安静時3.82±0.83mmであった.息こらえ時は4.19±0.81mm,深い呼吸時は3.71±0.92で安静時と比較し息こらえ時で有意に拡大していた.縮瞳速度は安静時4.68±0.57mm/sであった.息こらえ時は4.96±1.51mm/s,深い呼吸時は6.1±3.11mm/sで安静時と比較し差はみられなかった.散瞳速度は安静時2.26±0.56mm/sであった.息こらえ時は2.94±1.92mm/s,深い呼吸時は3.1±0.91mm/sで,安静時と比較し深い呼吸時は有意に早くなっていた.【考察】息む動作では血圧上昇を伴うことが多く,高血圧患者や未破裂動脈瘤保持者において禁忌とされる.今回,電子瞳孔計を用いた検査で息こらえは安静時に比較し,拡張期血圧上昇や初期瞳孔径および最小瞳孔径の増大を認めた.これらはバルサルバ効果による交感神経の刺激により血圧上昇と,瞳孔径が増大したためと考える.また,今回行った深い呼吸では安静時と比較し拡張期血圧は低下し,散瞳速度は有意に亢進した.深呼吸などの深い呼吸では,肺が拡張し伸展受容器が刺激され,迷走神経を介して吸気中枢に伝わりその働きが抑制される.今回の検査では迷走神経の影響を受けて血圧低下が起こり,その間縮瞳していた瞳孔が光刺激により散瞳したためと考える.【理学療法学研究としての意義】電子瞳孔計を用いた瞳孔機能測定は、急激な血圧上昇が禁忌とされる疾患を持つ患者へのADL指導や運動療法発展に有用であると考える.<BR><BR>
著者
木下 利喜生 田島 文博 児嶋 大介 橋崎 孝賢 川西 誠 森木 貴司 吉田 知幸 上西 啓裕 西村 行秀 中村 健
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】近年,脳卒中患者における急性期リハビリテーション(リハ)の有効性が明らかになっている。本邦をはじめ,多くの国のガイドラインにおいても医学的に安定した脳卒中患者のリハはできるだけ早期に始めるよう勧められている。先行研究では早期にリハを開始した方がActivity of Daily Living(ADL)障害,抑うつ症状,Quality of Lifeの改善が良好で,早期リハ実施の安全性も示されている。我々の施設においても,以前より急性期からの積極的なリハに取り組んでいる。しかし急性期病院入院期間中だけを調査した短期効果は示されていない。また先行研究における早期リハ開始時間は脳卒中発症24時間以内や48時間以内,長いものでは72時間以内と定義されているものもあり,リハ開始時間は統一されていない。今回,脳卒中発症直後の患者をリハ開始時間により3群にわけ,リハ効果を検討する事で急性期病院における早期リハ介入効果,および適切なリハ開始時間の検討を試みた。【方法】本研究はprospective cohort studyであり,2014年7月から2015年4月までに入院した初発脳卒中片麻痺患者227名を対象とした。除外基準は発症前modified Rankin Scale score<4,神経症状が増悪しているもの,重篤な心不全,下肢骨折などにより運動療法が困難なものとした。発症からリハ開始までを24時間以内(Very Early Mobilization;VEM群),24~48時間まで(Early Mobilization;EM群),48時間以上(Usual care;UC群)の3群に分け,リハ開始時,転帰時のGlasgow Coma Scale(GCS),National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS),Functional Independence Measure(FIM)を測定し,急性期のリハ介入時期による効果を比較した。また死亡者数,脳卒中再発数を比較し安全性の検討も行った。GCS,NIHSS,FIMにおける3群間の比較にはKruskal-Wallis testを行いpost hocはDunn's testを使用した。それ以外の項目はANOVAを行いpost hocはTukey-Kramerを用いた。また死亡者数,再発数の比較はχ2 testを使用した。【結果】対象は24時間以内が47名(内2名[4%]死亡,1名[2%]再発),24~48時間が77名(内4名[5%]死亡,6名[8%]再発,1名[1%]心不全),48時間以上が103名(内7名[7%]死亡,4名[4%]再発,2名[2%]心不全)であり,3群間の死亡者数,再発者数に有意差はなかった。リハ開始時のGCS,NIHSS,FIMに有意差はなく,転帰時のGCSではVEM群が他の2群より有意に高く,NIHSSにおいてもVEM群がUC群よりも有意に良好であった。また転帰時のFIMはtotal score,motor subscale,cognition subscaleともに3群間に有意差はなかったが改善量で比較したところVEM群のtotal score,motor subscaleは他の2群より有意な改善量を示した。【結論】脳卒中患者に対する急性期リハは発症24時間以内に開始する事で高いADL,GCS,NIHSSの改善が得られる事が判明した。さらに発症24時間以内に介入しても危険性が増す事はなかった。すなわち脳卒中患者における急性期リハの効果は1日開始が遅れるだけで影響をうける可能性がある。
著者
藤田 恭久 幸田 剣 田島 文博 木下 利喜生 箕島 佑太 橋崎 孝賢 森木 貴司 川西 誠 児島 大介 上西 啓祐 梅本 安則
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.95, 2011

【目的】 リハビリテーション(リハ)においては,たとえ重篤な症例であっても,医学的に患者の全身状態を悪化させる安静臥床を避ける必要がある.そのため出来る限り離床を進め,運動負荷を加えることがリハの基本である.今回,原因不明の多臓器不全と診断され、肺炎と無気肺を合併したために約2カ月間の人工呼吸器管理となった症例に積極的なリハを施行した。その結果、人工呼吸器離脱と同時に歩行自立を達成したので、その工夫を含めて報告する。<BR>【方法】 症例は37歳,男性,身長180cm,体重180kg,BMI 55.5kg/_m2_.今回,多臓器不全・肺炎により当院に緊急搬送,ICUで人工呼吸器管理となり,廃用予防・呼吸循環機能改善目的で入院2日目よりリハ開始となった.リハ開始時現症は,意識レベルJCS 300(鎮静下),人工呼吸器管理(経口挿管,APRV,FiO2 0.6,PEEP(high/low) 20/0),TV 500ml,SpO2 95%,血液ガス分析はPaO2 76.6mmHg,PaCO2 50.9 mmHg,P/F比128,AaDO2 287 mmHgであった.ROM制限は無く,自発運動は認めなかった.重度の肥満があり,体位ドレナージは当初より困難であった.ICU入室15日後,気管切開され,抜管のリスクが低下したため,端座位・立位訓練開始.この時,鎮静は実施されておらず,意識は清明であり,MMT両上肢3,両下肢2レベルであった.多臓器不全・肺炎の治療に長期を要し,ICU入室31日後,一般病棟へ転棟.その後もベッドサイドで人工呼吸器装着下(CPAP,FiO2 0.6,PEEP 8)で,端座位・立位訓練を継続した.<BR>転棟25日後,病棟で呼吸器離脱に向け,日中はT-tube(O2 8L,FiO2 0.8)を開始されたが,時折SpO2低下を認めたため,夜間は呼吸器管理を継続された.画像所見では,両肺に無気肺・スリガラス陰影を認めた.血液ガス分析はPaO2 77.6 mmHg,PaCO2 39.8 mmHg,P/F比172,AaDO2 193mmHgであった.肺炎が沈静化しておらず,酸素化能の低下には無気肺の影響もあると考えられた.検討の結果,人工呼吸器を持ち運び可能なHAMILTON-C2に変更し,リハ室へ出棟することとした.歩行訓練やハンドエルゴメーター(20W 20分)を中心とした運動負荷を積極的に行い,換気量を増加させることに努めた.リハ来室時の状況は,人工呼吸器(CPAP,FiO2 0.3,PEEP 6),安静時SpO2 97%,HR115回/分,TV600ml,呼吸数18回/分であった.歩行訓練後はSpO2 94%,HR132回/分,TV1200ml,呼吸回数25回/分となった.この時,HAMILTON-C2の支柱を自ら把持し軽介助レベルで歩行可能であった.<BR>訓練中に呼吸困難感が生じた際は,リハDrによりPEEPやPSなどの呼吸器設定を適宜変更しながら運動負荷量を増加させていった.<BR>【説明と同意】 本症例と家族に対して発表の趣旨について説明を行い,情報の開示に対し同意を得た.<BR>【結果】人工呼吸器を持ち運び可能なものに変更し,リハ室で1週間運動療法を施行した結果,人工呼吸器を完全に離脱でき,T-tube(O2 5L,FiO2 0.3)へ移行できた. T-tubeの状態でも運動療法を推進した結果,酸素が不要となり,退院前には気切閉鎖できた.血液ガス分析はPaO2 68.1mmHg,PaCO2 40.6mmHg,P/F比324,AaDO2 23.8mmHgとなり,画像所見で無気肺の改善を認めた.体重は135kgに減量し,MMT上下肢4レベルとなった.ADLでは歩行が歩行器からT字杖歩行,独歩可能,身の回り動作が自立できた.<BR>【考察】気管切開後も人工呼吸器管理であったため,当初はベッドサイドでの立位訓練や車いす移乗までしか行えなかった.主治医より呼吸器離脱に向けた無気肺の改善を求められたが,重度の肥満があり,病棟での体位ドレナージは施行困難でリハ以外は臥床傾向であった.そこで今回,人工呼吸器を持ち運び可能なものに変更し,リハDrの付き添いのもと行える環境を設定したことで,運動負荷時に呼吸困難感が出現した際の対応も可能となった.そのため積極的な運動療法を安全に施行できたと考える.<BR>リハ室で訓練を行う事で日中の臥床傾向を減少させ,更に運動負荷を強める事で換気亢進が惹起され,無気肺の改善に寄与したと考えられる.その結果,P/F比・AaDO2も改善し,呼吸器の離脱が可能となったと思われる.また,歩行訓練のみならず,全身調整運動を欠かさず続けた結果,BMI 41.7kg/_m2_まで減量することができ,歩行能力を含めたADL向上が得られたと考える.<BR>【理学療法学研究としての意義】人工呼吸器管理下では積極的なリハを敬遠しがちであるが,リハDrの付き添いのもと,持ち運び可能な人工呼吸器を使用することが,人工呼吸器装着患者に対して安全かつ効果的な運動負荷を実施するための選択となると考えられる.
著者
木下 利喜生 橋崎 孝賢 森木 貴司 堀 晋之助 藤田 恭久 幸田 剣 中村 健 田島 文博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100176, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 当院リハビリテーション(リハ)科では、リハ室で患者が急変した場合、緊急カート、心電図モニター(ECG)、パルスオキシメーター、血圧計、ストレッチャーなどの準備、装着を現場スタッフで行う。同時に他のスタッフがリハ医へ報告、現場での診察を依頼し、身体所見やモニターなどの情報をもとに対応の指示を仰ぐまでの一連の流れを救急時対応とし、全スタッフを対象にトレーニングを実施している。そのため、当科では、これまでにも幾度となく血圧や意識レベル低下などの急変が発生しているが、全ての案件において対応が可能であった。 今回、リハ実施時において、開設から始めて患者が心肺停止となる状況に直面した。その際にリハ科で対応可能であったこと、またシステム上の不備や対応不足が明らかとなったことを情報の共有のために報告する。【方法】 10時20分頃、理学療法室で立位練習開始、血圧低下認めないため、平行棒内での歩行練習をこの日より開始する。平行棒内での歩行練習後もバイタルの著明な変動ないため、10時40分頃に歩行器での歩行練習を行う。歩行器歩行10m程度で両下肢の脱力、意識消失を認め、理学療法士数名でベッドへ寝かせている間に、リハ医と外来看護師に連絡、ECG、パルスオキシメーター、血圧計を装着した。ECG上60台でサイナスリズム、酸素飽和度98%、血圧測定行えないためベッド上で下肢挙上する。10時45分頃リハ医・看護師到着、何度か血圧測定するも測定できず、病棟に連絡し、ストレッチャーでの迎えを要請する。その後、意識レベル改善認めず、徐々に酸素飽和度が低下し始めたため、10時48分にホワイトコール(救急対応依頼の全館放送)を要請する。リハ医と看護師により酸素投与開始し、アンビューバックを準備している際に多数の医師、看護師到着。頚動脈も触知困難のため救急医師により、心臓マッサージ、挿管により気道確保され、救急処置室へ搬送される。その後の検査の結果、急変原因は肺血栓塞栓症であることが判明した。【倫理的配慮、説明と同意】 本症例の情報は、医療記録から特定できないよう匿名化し、プライバシーに配慮した。また、今回の発表にあたり当大学医療安全推進部に発表内容および目的を十分に説明し、発表の了承を得た。【結果】 初期対応は、手順通り実施できており問題ないと思われた。しかし、多数の医師、看護師が到着、理学療法室内が騒然とし、リハ中の患者を移動するなどの対応をとるべきであったが、これまでに心肺停止でのホワイトコール経験がなく、迅速な対応が行えず、駆け付けた看護師の判断により、病棟へ帰室するかたちとなった。 また、当科では酸素配管はあるがボンベを常備しておらず、リハ室から救急対応室へ搬送する際の酸素ボンベを救急部に借りに行く必要があった。【考察】 今回の対応の不備は、これまでに心肺停止によるホワイトコールの経験がなく、我々の想定していない状況下に陥った事が背景にある。これを受けて、ボンベの常備を早急に行い、ホワイトコール時は、一旦、リハ中の患者を発生現場以外の訓練室に移動したのち、病棟へ搬送すると決定した。また、シミュレーションをホワイトコールまでを想定したものに変更し、すぐに全体研修を実施、また人事異動のある4月初旬に必ず全体研修を実施すると決めた。 院内対応としては、長期臥床患者のリハを開始する際は、下肢深部静脈血栓症・肺梗塞のリスク因子を評価し、必要があれば下肢静脈エコーを行うなど早期発見・早期予防に務めるよう全科へ指導が行われた。当科でも下肢の腫脹などの身体所見の確認だけでなく、Dダイマー、FDPなどの血液データの確認を指導した。またリハ科で行える静脈血栓塞栓症の予防として、早期からの歩行および積極的な運動が重要であることを再教育し、早期離床を再度徹底した。 今回の案件を経験し、考えうる最悪の状況を想定した急変時対応を常に考えていく重要性を痛感した。本案件だけでなく、ひとつひとつの事例背景を分析し、対応マニュアルの強化、更新が必要であり、また積極的に文献抄読や学会参加をすることで、常に新しい情報を収集しておくことも重要であると感じた。【理学療法学研究としての意義】 最も重篤な急変の1つである心肺停止事例における、対応時の問題、さらにその解決策を報告することは、今後のリハ室での急変時対応マニュアル作成や強化などをする際の貴重な情報になると考えられる。
著者
森木 貴司 小池 有美 上西 啓裕 梅本 安則 田島 文博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.EbPI2428, 2011 (Released:2011-05-26)

【はじめに】純粋無動症はパーキンソン症候群を伴う疾患で、進行性核上性麻痺の一病型と考えられ、すくみを主症状とする。すくみは、日常生活上ですくみ足として現れ、しばしば転倒の原因となっている。したがって、すくみ足を改善することが期待され、しばしば理学療法が処方される。すくみ足に対する理学療法は、眼前の障害物を意識することで改善する特質(矛盾性運動、kinesie paradoxale)を活用した方法が多く報告されている。しかし、純粋無動症に対しての報告は少なく、臨床的にあまり検討されていない。今回、純粋無動症患者に対して、自助具の導入と運動療法を実施し、ADL改善がみられたので報告する。【説明と同意】本調査実施にあたり、文書による十分なインフォームドコンセントを行い、同意を得た。【症例紹介】70代男性、無職、妻と二人暮らし。社会資源に関しては、身体障害者手帳2級、介護保険要介護度5で、入院前はデイサービスと訪問リハビリを週3回ずつ利用されていた。平成15年に純粋無動症、パーキンソン症候群と診断された。平成22年に入り、すくみ足が強く出現し歩行困難となり、同年6月初旬にADL改善目的で入院され、理学・作業・言語療法が処方された。リハビリ開始時現症は、意識清明、見当識良好。仮面様顔貌、小字症がみられた。脳神経には異常所見はなく、筋緊張は亢進し固縮がみられた。協調性は上下肢でやや拙劣さあり、企図振戦もみられた。立位姿勢は、典型的な前傾姿勢を呈し、頸部や体幹、肩関節、股関節でROM制限がみられた。MMTは両上下肢5レベル。ADLについて、セルフケアは食事以外は中等度介助レベル、歩行はすくみ足が強く中等度~軽介助レベルであり、FIMは85点であった。【経過】リハビリ開始当初は集中的に運動療法を行った。具体的なプログラムとしては、ROM訓練、筋力訓練、床上動作、歩行、階段昇降などを実施した。また、運動耐容能や左右肢体の協調性改善目的に自転車エルゴメータおよびハンドエルゴメータ、トレッドミルなどを実施した。リハビリ開始から3日後には独歩が軽介助~監視レベルとなったが、依然としてすくみ足が問題であった。1週間後のカンファレンスでは、入院中の目標を実用的なすくみ足改善手段の決定、退院後の機能維持のため自主トレーニングの習得、他機関医療者への情報提供とした。すくみ足に対する環境設定については、L字型杖が著効した。10m歩行時間においても他手段と比較しL字型杖使用時で最速であった。したがって、すくみ足改善手段をL字型杖の導入に決定した。これにより症例自身もすくみ足改善を実感されていた。入院から3週後の退院時には、セルフケアは軽介助~監視レベル、歩行はL字型杖使用により監視~自立レベルとなり、FIMは107点に増加した。【退院後の状況】退院1カ月後の状況は、訪問リハビリ、通院リハビリ、デイサービスをそれぞれ週2回受けられ、自宅では、入院中の指導も守れており、転倒もなく入院中と同レベルのADLを維持できていた。また、歩行改善に伴いリースしていた車椅子や電動車椅子は返却し、移動手段は歩行のみとなっていた。しかし、退院5カ月後の状況では、歩行は行えていたものの動作指導や自主トレーニングを継続しておらず、主にセルフケアで妻の介助を要し、FIMは95点と入院中に比べ減少していた。【考察】純粋無動症患者に対し自助具の導入と運動療法の併用により、短期入院ではあったが著明にADLが改善した。L字型杖の導入によりすくみ足が改善した理由は、矛盾性運動誘発の障害物として状況に応じて自由に目印にすることができ、場所の限定がされないということが考えられる。また、すくみ足改善以外にセルフケアも全般的に改善したため運動療法も効果的であったと考えられる。本疾患は、進行性ではあるが退院後もできるだけ機能維持していくことが重要であり、退院後は他機関への情報提供と在宅での自主トレーニングを継続していく必要があると考える。退院後の調査では、退院直後は機能維持できていたが、5カ月後では入院中に比べADLが低下していた。この対策としては、定期的な状態の把握と動作指導、訪問・外来リハビリでの運動量の確保、指導の徹底をする必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】純粋無動症についての報告は少なく治療に難渋することが予測される。そこで、本発表を参考にして頂き治療の一助になればと思い報告させて頂く。