著者
布村 明彦 玉置 寿男
出版者
日本神経治療学会
雑誌
神経治療学 (ISSN:09168443)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.393-395, 2018

<p>Delirium is a common and serious acute neuropsychiatric syndrome and characterized by disturbance in attention and awareness, i.e., reduced ability to direct, focus, sustain, and shift attention and reduced orientation to the environment (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5<sup>th</sup> edition, American Psychiatric Association, DSM–5, 2013). While delirium is associated with higher rates of mortality and institutionalization, it remains underdiagnosed because of its diverse and multifactorial etiologies and widely variable presentation including hyper– and hypoactive subtypes. Multi–component approaches to modifiable risk factors are recommended for prevention of delirium, which include reduction of benzodiazepines and anti–cholinergic agents and environmental approaches towards normal sleep–wake cycle. Recently, a randomized placebo–controlled trial suggests preventive effects of ramelteon, a melatonin agonist, on delirium. Non–pharmacological strategies are central also for therapy of delirium, which focus on treating the triggering factors and addressing patient–specific and environmental risk factors that may contribute to the development or worsening of delirium. Antipsychotics such as risperidone, quetiapine, olanzapine, perospirone, and haloperidol can be used off–label to manage symptoms of delirium (Clinical Guideline for the Treatment of Delirium, 2<sup>nd</sup> edition, Japanese Society of General Hospital Psychiatry, Practice Guidelines 1, 2015).</p>
著者
布村 明彦
出版者
旭川医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

フェンサイクリジン(l-(l-phenylcyclohexyl)piperidine;PCP)は臨床的に精神分裂病に類似した多彩な精神症状を惹起することが知られているが、PCPの精神異常惹起作用の形態学的基盤に関しては十分に検索されていない。本研究は、PCP投与ラット脳の超微形態について検索して精神分裂病様症状が出現する組織病理学的基盤について解明しようとするものである。実験動物として9週齢のSprague-Dawley系雄性ラットを用い、生理食塩水に溶解した10mg/kgのPCPを単回あるいは1日1回、連日4日間反復投与(腹腔内注射)した。また、生理食塩水のみを同様に腹腔内注射したラットを対照群として、各群のラットを最終投与の4〜12時間後にグルタールアルデヒドによって灌流固定した。脳を取り出して後部帯状回皮質から組織片を切り出し、型通りにエボン包埋した。1-μm切片をトルイジン・ブルー染色して光顕的に検索し、超薄切片をウラン・鉛二重染色して電顕的に検索した。PCP投与ラットでは、投与直後から3〜4時間にわたって運動失調、移所運動量増加および常同行動(臭いかぎ、首振り、回転運動などを繰り返す)が認められた。PCP投与ラットの後部帯状回皮質を光顕的に観察すると、胞体内に1〜数個の空胞状構造を有する神経細胞が認められた。同部を電顕的に観察すると、ミトコンドリアや小胞体が拡大・膨化して空胞状構造を形成していた。この変化は、PCP単回投与ラットよりも反復投与ラットにおいて高度であった。PCP投与ラットの帯状回皮質における神経細胞の空胞状変化のメカニズムは不明だが、精神分裂病死後脳の検索においても帯状回の組織変化が報告されており(Benens ら,1987)、本研究の結果は、精神分裂病様症状発現の形態学的基盤を考察する上で興味深い。
著者
布村 明彦 千葉 茂
出版者
旭川医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

われわれは、酸化ストレスやミトコンドリア異常がアルツハイマー病(AD)の病態に関連することを明らかにしたが、これらの変化がアポトーシスの引き金になり得ることは興味深い。βアミロイド(Aβ)の産生や分解の異常は、ADの病態において中心的役割を果たすと考えられているが、神経細胞内Aβ蓄積と種々のアポトーシス・シグナルとの関連性は明らかにされていない。本研究では、AD剖検脳[10例(年齢60〜87歳);海馬、海馬傍回、および後頭側頭回]を用いて、免疫細胞化学的に神経細胞内Aβ蓄積、酸化的傷害、および種々のアポトーシス・シグナルを検出した・アポトーシスのカスケードにおいて上流に位置するMAPキナーゼ(mitogen-activated protein kinase)ファミリー(ERK、JNK/SAPK、p38)については、錐体細胞でERK、JNK/SAPK、p38の順により広汎に出現していた。また、これらのシグナルの下流で活性化されるカスパーゼ群は、イニシエーター・カスパーゼであるカスパーゼ8および9の出現が錐体細胞で観察されたのに対して、より細胞死に直結したエフェクター・カスパーゼであるカスパーゼ3、6、および7の出現は認められなかった。一方、神経細胞内Aβの免疫反応、とくにAβ42C末端の特異的抗体に対する免疫反応は、いずれのアポトーシス・シグナルよりも広汎に認められ、神経細胞内RNAの酸化的傷害は、Aβ42よりもさらに広汎に認められた。以上のことから、AD脳では、酸化的傷害が引き金となって神経細胞内Aβ蓄積が生じ、その下流で種々のアポトーシス・シグナルの出現が認められるが、アポトーシスを完結に導く後期のシグナルの出現は乏しいことが推定される。AD死後脳で観察される残存神経細胞では、従来知られているアポトーシスの過程がabortiveな段階で停止している可能性がある。
著者
今泉 和則 原 英彰 伊藤 芳久 田熊 一敞 布村 明彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.6, pp.477-482, 2007 (Released:2007-12-14)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

アルツハイマー病,パーキンソン病を代表とする神経変性疾患は,進行性の神経細胞死という解剖学的所見を共通の特徴とする疾患であるが,その発症原因は不明であり,充分に有効な治療法・治療薬は未だ見いだされていない.また,脳虚血などの脳血管性疾患については,脳血流の低下あるいは再灌流をトリガーとして神経細胞死が惹起されることは明白であるものの,未だ著効な治療法・治療薬は明らかではない.このような背景のもと,これら神経変性疾患および脳血管性疾患に共通する「神経細胞死」という現象に関わる分子機序の解明を通して新たな治療法開発にアプローチしようという試みが,国内外ともに最近の研究の潮流となりつつある.本稿では,第80回日本薬理学会年会において開催された表題のシンポジウムでの講演より,神経変性疾患および脳血管性疾患の病態解明ならびに新規治療法の開発に大きく貢献しうる神経細胞死メカニズムの最先端研究を紹介する.