- 著者
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田熊 一敞
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬理学会
- 雑誌
- 日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
- 巻号頁・発行日
- vol.127, no.5, pp.349-354, 2006 (Released:2006-07-01)
- 参考文献数
- 47
近年,脳虚血,アルツハイマー病およびパーキンソン病などの神経脱落疾患においてアポトーシスが関与することが見いだされ,病態機構の解明ならびに新しい治療法を開発するうえで,中枢神経系のアポトーシスの役割ならびにその発現制御機構の解明が重要な課題と考えられている.アポトーシスの実行には,カスパーゼと呼ばれるプロテアーゼの連鎖的活性化が中心的役割を果たしており,その活性化に,細胞膜に存在する細胞死受容体,ミトコンドリアおよび小胞体を介するシグナル経路の関与が知られている.本総説では,筆者らの成果を中心に,脳虚血-再灌流障害およびアルツハイマー病におけるアポトーシスとミトコンドリア機能変化との関連について述べた.脳虚血-再灌流障害に関しては,脳の主要グリア細胞であるアストロサイトにおいて,インビボ脳虚血-再灌流時の細胞外Ca2+濃度変化を反映するパラドックス負荷により遅発性アポトーシスが発現することを示し,本アポトーシスに,活性酸素の産生増加,ミトコンドリアからのチトクロムc遊離ならびにカスパーゼ-3活性化といったミトコンドリア機能変化によるアポトーシスシグナル経路の活性化が関与することを示した.本アポトーシスに対して,cGMP-ホスホジエステラーゼ阻害薬,cGMPアナログおよび一酸化窒素産生薬は,cGMP依存性プロテインキナーゼを介するミトコンドリア膜透過性遷移孔抑制作用により保護効果を示す.また,アルツハイマー病に関しては,神経細胞において,ミトコンドリア内におけるアミロイドβタンパク(Aβ)とAβ結合アルコール脱水素酵素(ABAD)との相互作用が,チトクロムc酸化酵素活性,ATP産生,ミトコンドリア膜電位の低下といったミトコンドリア障害を引き起こし,アポトーシスを誘導することを示した.これらの知見は,ミトコンドリアの機能異常が脳虚血-再灌流障害およびアルツハイマー病におけるアポトーシスの発現において重要な働きをもつことを示唆する.