著者
田熊 一敞 片岡 駿介 吾郷 由希夫 松田 敏夫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.134, no.4, pp.180-183, 2009 (Released:2009-10-14)
参考文献数
35
被引用文献数
1 2

「細胞の自殺プログラム」として見いだされたアポトーシスは,胎生期における器官形成や各器官での新陳代謝に伴う細胞死のみならず,虚血性病変や悪性腫瘍などでの細胞死においても関与することが示され,生理的あるいは病態的いずれの細胞死においても重要な役割を果たすことが明らかとなってきた.中枢神経系においても,アルツハイマー病およびパーキンソン病などの神経脱落疾患においてアポトーシスの関与が見いだされた.このような背景のもと,種々の疾患において,アポトーシスの発現制御機構の解明を通した新たな治療法開発へのアプローチが,国内外ともに最近の研究の潮流となりつつある.本稿では,アルツハイマー病におけるアポトーシスについて,アミロイドβペプチドによるミトコンドリア障害を中心に最近の研究の進展を紹介する.
著者
吾郷 由希夫 田熊 一敞 松田 敏夫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.134, no.6, pp.304-308, 2009 (Released:2009-12-14)
参考文献数
38
被引用文献数
1 1

ストレス応答の中核を担う視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA系)は,外部環境刺激に適応していくために必要不可欠なものであり,その機能破綻は精神疾患の発症に深く関与していると考えられる.うつ病患者の多くで,デキサメタゾン/コルチコトロピン放出ホルモン負荷(DEX/CRH試験)における血中コルチゾール値の上昇といったHPA系のネガティブフィードバック機能障害が認められ,この障害が抗うつ薬や電気けいれん療法による抑うつ症状の寛解と同調して改善されることから,うつ病の生物学的マーカーの一つと考えられており,HPA系の機能維持はうつ病治療の標的である可能性が示されている.このような背景のもと,HPA系のネガティブフィードバック制御を担うグルココルチコイド受容体(GR)はその標的分子として注目されており,これまでに精神病性うつ病に対するGR拮抗薬の有効性が見出されている.また我々は,環境ストレス負荷モデルとしての長期隔離飼育マウス,およびグルココルチコイド長期負荷マウスを用いることで,GR拮抗薬の抗うつ様作用を示し,脳内モノアミン神経伝達物質遊離の解析から,本作用における前頭前野ドパミン神経活性との関連を見出した.一方,うつ病患者において海馬ミネラルコルチコイド受容体(MR)の発現量の低下や,抗うつ薬の長期投与によるMRの発現増加が示されており,さらに近年,遺伝学的解析からMR遺伝子多型とうつ病との関連が見出されるなど,うつ病態や抗うつ薬の作用発現におけるMRの重要性が指摘されている.そこで本稿では,HPA系の機能異常とうつ病の関連について,GRおよびMRの役割に焦点を当てながら概説し,またうつ病治療薬として開発進行中のGR拮抗薬の最新情報について紹介する.
著者
田熊 一敞
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.5, pp.349-354, 2006 (Released:2006-07-01)
参考文献数
47

近年,脳虚血,アルツハイマー病およびパーキンソン病などの神経脱落疾患においてアポトーシスが関与することが見いだされ,病態機構の解明ならびに新しい治療法を開発するうえで,中枢神経系のアポトーシスの役割ならびにその発現制御機構の解明が重要な課題と考えられている.アポトーシスの実行には,カスパーゼと呼ばれるプロテアーゼの連鎖的活性化が中心的役割を果たしており,その活性化に,細胞膜に存在する細胞死受容体,ミトコンドリアおよび小胞体を介するシグナル経路の関与が知られている.本総説では,筆者らの成果を中心に,脳虚血-再灌流障害およびアルツハイマー病におけるアポトーシスとミトコンドリア機能変化との関連について述べた.脳虚血-再灌流障害に関しては,脳の主要グリア細胞であるアストロサイトにおいて,インビボ脳虚血-再灌流時の細胞外Ca2+濃度変化を反映するパラドックス負荷により遅発性アポトーシスが発現することを示し,本アポトーシスに,活性酸素の産生増加,ミトコンドリアからのチトクロムc遊離ならびにカスパーゼ-3活性化といったミトコンドリア機能変化によるアポトーシスシグナル経路の活性化が関与することを示した.本アポトーシスに対して,cGMP-ホスホジエステラーゼ阻害薬,cGMPアナログおよび一酸化窒素産生薬は,cGMP依存性プロテインキナーゼを介するミトコンドリア膜透過性遷移孔抑制作用により保護効果を示す.また,アルツハイマー病に関しては,神経細胞において,ミトコンドリア内におけるアミロイドβタンパク(Aβ)とAβ結合アルコール脱水素酵素(ABAD)との相互作用が,チトクロムc酸化酵素活性,ATP産生,ミトコンドリア膜電位の低下といったミトコンドリア障害を引き起こし,アポトーシスを誘導することを示した.これらの知見は,ミトコンドリアの機能異常が脳虚血-再灌流障害およびアルツハイマー病におけるアポトーシスの発現において重要な働きをもつことを示唆する.
著者
今泉 和則 原 英彰 伊藤 芳久 田熊 一敞 布村 明彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.6, pp.477-482, 2007 (Released:2007-12-14)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

アルツハイマー病,パーキンソン病を代表とする神経変性疾患は,進行性の神経細胞死という解剖学的所見を共通の特徴とする疾患であるが,その発症原因は不明であり,充分に有効な治療法・治療薬は未だ見いだされていない.また,脳虚血などの脳血管性疾患については,脳血流の低下あるいは再灌流をトリガーとして神経細胞死が惹起されることは明白であるものの,未だ著効な治療法・治療薬は明らかではない.このような背景のもと,これら神経変性疾患および脳血管性疾患に共通する「神経細胞死」という現象に関わる分子機序の解明を通して新たな治療法開発にアプローチしようという試みが,国内外ともに最近の研究の潮流となりつつある.本稿では,第80回日本薬理学会年会において開催された表題のシンポジウムでの講演より,神経変性疾患および脳血管性疾患の病態解明ならびに新規治療法の開発に大きく貢献しうる神経細胞死メカニズムの最先端研究を紹介する.