著者
師田 史子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第57回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.F01, 2023 (Released:2023-06-19)

本発表は、フィリピンにおける財宝伝説「山下財宝」の語りや宝探しの実践を通じて、不確実な存在が確実な存在として立ち現れていく様相を明らかにする。財宝譚を語ることで人びとは、戦時中の略奪された記憶を基層としながら、自らの生活世界に隠れる富のイメージを精緻化している。今は掴めずともいつか掴みうる潜在的な財として財宝の存在が据え置かれることに、財宝伝説が社会に残存し続ける現代的な意味が見出せる。
著者
師田 史子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.86, no.3, pp.365-383, 2021-12-31 (Released:2022-04-14)
参考文献数
31

本稿では、フィリピンの数字くじを事例に、賭けの実践と結果の解釈についての検討を通じて、賭けに繰り返し没頭する人びとによって遊戯の世界がいかに想像·構築されているのかを考察する。遊び理論の中で、単調で純粋な偶然性の遊びである数字くじは遊戯者の自律的関与が及ばない「つまらない」遊びに分類されるが、事例においては「面白い」遊戯として遊び変えられている。愛好家たちは、抽せん数字を予想するために日常世界のあらゆる存在や出来事から数字のサインを読み取る。また、賭けの結果は賭けた自己をとりまいていた過去を遡及的に参照することで理解される。こうした数字への賭けの反復は、無根拠な数字くじの遊戯の世界に恣意的な意味づけをし、賭ける自己と数字の間に関係性を想像しながら、偶然的事象を幸運の物語として認識する行為である。経験や知識は秩序づけられて未来の賭けに運用されるものの、数字くじの偶然性は絶対的に残存し続ける。この点において数字への賭けは、いまここにおいて幸運であるか否かという自己の現在的状況を確認する契機として機能する。幸運と戯れ、幸運を狩りたてることに、遊戯としての数字くじの面白さは醸成されている。
著者
師田 史子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018

本発表は、フィリピン・ミンダナオ島の賭博者による賭けの予想行為と、結果の受容の実践を通じて、賭けに勝つために「当てにできる」信念が生成され強化される過程を考察する。違法数字宝くじや闘鶏などに興じる賭博者が信じているジンクスや知識、賭けの技法は、「参照・解釈・共有」という契機からなる弁証法的な循環プロセスを経て強化し、真理化されてゆくとともに、同じ結果の反復を契機として新しい信念として確立してゆく。