著者
平井 志伸
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

サブプレートニューロン(SPn)は、人では疾患の種類によりその数が増減していることが知られている(アルツハイマー病患者では減、自閉症や統合失調症患者では増)。そこで、マウスを用いて、SPnの数が脳機能に及ぼす影響を検証した。まず我々は、今まで困難だった、SPn特異的な遺伝子操作の系を確立した。具体的には、アデノ随伴ウイルス(血清型9)を用いて、胎児期の適切なタイミングで脳室にウイルスを投与するという手法である。現在、この系を用いてSPn数を人工的に増減させた際の脳機能の変化を、組織学的、行動学的に解析中である。
著者
平井 志伸
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.93-101, 2021-06-05 (Released:2021-07-05)
参考文献数
62

統合失調症(SZ)や双極性障害(BD)をはじめとする精神疾患は思春期後期から若い成人期に好発し,遺伝的脆弱性を背景にして,様々な環境要因がその発症を後押しすることが知られている.産業革命以前食卓に上ることはなかった砂糖(ブドウ糖と果糖が結合した二糖類)は,世界中で爆発的に消費量を増やし,現在では作製が容易な果糖ブドウ糖液糖(異性化糖のこと)の開発成功も相まって,所謂,単純糖の摂取量は止まるところを知らない.しかし,脳機能への詳細な影響の検討は未だ研究途上である.単純糖の摂取量は思春期で最も多く,それはちょうどSZやBDの発症時期と合致する.我々は,思春期における単純糖の摂取過多が精神疾患の発症に関与するのか,動物モデルを作成することで因果関係の証明を試みた.そして,単純糖の摂取過多は脳の生理学的,行動学的変化をもたらし,その表現型はGlyoxalase-1という種々の精神疾患で活性や発現低下が報告されている酵素のヘテロ欠損を伴うと,決定的なSZやBD様の所見を示す結果となった(Prepulse inhibitionスコアの低下,作業記憶の低下,脳波におけるGamma帯域の活動異常,PV陽性抑制性インターニューロン(PVニューロン)の機能低下等).我々は更に,作成した精神疾患モデルマウスにおいて非糖尿病性の毛細血管障害,血中から脳内へのGlucose取り込み低下を検出した.また,マウスで観察された毛細血管障害と同様の所見を,SZ,BDの患者死後脳でも見出した.以上の結果は,単純糖摂取過多による何らかの代謝異常により精神疾患が発症しうることを示唆し,血管障害が新たな表現型もしくは治療対象となりうることを示している.本稿では,我々の研究結果に関連するPVニューロンの機能と神経振動(Neural oscillation),血中から神経細胞までの物質輸送についての最近の知見も交えて紹介したい.
著者
岡戸 晴生 平井 志伸 田中 智子 新保 裕子 三輪 秀樹
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

成熟後にRP58の発現を減弱させたところ、やはり認知機能の低下を見出し、RP58の発現を興奮性ニューロンで増加させたところ、生理的な加齢に伴う認知機能低下を抑制できることを見出した。さらに興味深いことに、ヒト型変異APPホモマウス(アルツハイマー病モデル)にRP58発現アデノ随伴ウイルスを用いてRP58を過剰発現させると、低下した認知機能が改善した。すなわち、ウイルス投与前(3ヶ月齢)では、物体位置認識および新規物体認識試験テストにより、APPホモマウスは認知機能が低下していたが、RP58発現ウイルス投与後1ヶ月後には、認知機能が正常レベルに回復していた。一方、GFP発現ウイルス投与1ヶ月後(コントロール群)では認知機能は低いままであった。組織解析において、RP58補充群では、アミロイド斑はサイズがコントロールと比較して小さい傾向が見られ、RP58を補充したことによりアミロイド蓄積が抑制された可能性を示している。以上のことから、RP58は不可逆的と考えられていた、老化やアルツハイマー病に伴う認知機能低下を可逆的に制御している可能性が示された(岡戸、新保:国際特許出願,2020)。