著者
平居 謙
出版者
平安女学院大学
雑誌
保育研究 (ISSN:03866246)
巻号頁・発行日
no.42, pp.13-22, 2014-03

漫画『ONE PIECE』には、旧約聖書の影響が強く感じられる。主人公ルフィとナミの2人が目的の地ラフテルに向かう構造は、ルツ(ルフィの別読み)とナオミ(ナミの一文字増し)が安息の地エフラテに至る物語の換骨奪胎であり、伝説の海賊王ゴールド・ロジャーは、バプテスマのヨハネのパロディに他ならない。『ONE PIECE』に登場する能力者「墓場のアブサロム」の原型を旧約聖書『サムエル記 II』に見出すことも可能である。また、聖書が強くアピールする自己犠牲の主題は、『ONE PIECE』を貫く中心思想でもあり、主人公ルフィやその兄エースにも、イエスキリストの影が強く投影されている。聖書という原点を知ることで、読者は今世紀の稀有な冒険物語を幾重にも享受する手掛かりを得る。
著者
平居 謙
出版者
平安女学院大学
雑誌
平安女学院大学研究年報 = Heian Jogakuin University Journal (ISSN:1346227X)
巻号頁・発行日
no.17, pp.9-17, 2017-03-31

2010年代における若手詩人の筆頭・最果タヒの第1詩集『グッドモーニング』の世界を本稿では分析・考察した。第2詩集『空が分裂する』や、その後の『死んでしまう系のぼくらに』『夜空はいつも最高密度の青空だ』において最果は、「都会」や「故郷」という芸術観光学的観点からみてもきわめて興味深い問題を積極的に追求する。『グッドモーニング』でもすでに「場所」という主題が色濃く表れているが、それは奇妙に鬱積しており、その後の彼女の詩集とは大いに雰囲気を異にしている。この詩集に現れる「場所」で最も多いのは「部屋」であり、それは常に「雨に濡れている」イメージを以て表現される。詩の中の「私」はそこから脱出することができていない。
著者
平居 謙
出版者
平安女学院大学
雑誌
平安女学院大学研究年報 = Heian Jogakuin University Journal (ISSN:1346227X)
巻号頁・発行日
no.19, pp.75-84, 2019-03

梶山千鶴子の師事したのは芥川賞作家・多田裕計であった。その多田裕計は、若いころから作家・横光利一に師事。洒脱で明るい「モダン俳句」の要素が横光利一から多田裕計を経由して梶山に伝えられた。横光利一の「モダン俳句」は情感を意識的にシャットアウトした形で制作されている。多田裕計の「モダン俳句」も同様である。多田は一方で「社会性俳句」の中において多くの人の「共感」を得られやすい社会的題材を詠う。多田の中では異なる方向のものとして「モダン俳句」と「社会性俳句」は存在していた。梶山千鶴子は、これらの2 つを彼女の中で昇華し、独自の形でバランスよく融合させた。この点が彼女の俳句創作上における最も偉大な業績である。筆者にとって最後の梶山千鶴子研究として本稿を書いた。