- 著者
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岡田 洋平
福本 貴彦
高取 克彦
梛野 浩司
平岡 浩一
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.BeOS3029, 2011 (Released:2011-05-26)
【目的】 パーキンソン病(PD)患者は歩行開始動作に障害を有することが多く,歩幅の減少,振り出し開始前の足圧中心(center of pressure :COP)の後方あるいは振り出し側への移動の異常,COPの移動開始から振り出し開始までの期間の延長などが報告されている。PD患者の歩行障害は歩行開始1歩目と同様,定常歩行においても報告されているが,歩行開始から定常歩行に至る過渡期について定量的に解析した先行研究はない。健常人は歩行開始から定常歩行に至るまで2~3歩要する。本研究では,PD病患者の歩行開始後3歩の異常性を明らかにするため,PD患者と健常高齢者を対象に運動学的指標を評価し比較検討した。【方法】 対象はPD患者10名と年齢を一致させた健常高齢者10名とした。対象者は長さ9mの歩行路において歩行開始動作を実施した。9mの歩行路の最初に2.18mのforce platformを設置し,歩行開始後3歩の足圧分布データをサンプリング周波数100Hzにて記録し,合成COP座標を算出した。対象者はforce platform上において数秒間立位保持し,歩行路の最後端の中央に設置した目標を注視しながら自身のタイミングで至適速度にて歩行開始し,歩行路の最後まで歩行した。歩行開始側は指示せず,いずれかの歩行開始側が10試行に達するまで試行を実施した。 解析項目は,歩行開始後3歩の時空間指標,COP最大移動距離(前後,側方),踵接地位置(前後,側方),踵接地位置とCOPの前額面上の距離とした。時空間指標は歩幅,ステップ速度,ステップ時間,両脚支持期とした。COP 最大移動距離は,歩行開始後のCOP軌跡における4つのpeakにおいて,歩行開始時のCOP座標を0として算出した。1st peakは歩行開始後COPが最も後方かつ振り出し開始側に移動した点とし,2nd Peakは最も初期立脚側に達する点とする。3rd Peakは1歩目の接地後COPが最も外側に移動した点とし,4th Peakは2歩目の接地後COPが最も外側に移動した点とした。踵接地位置は踵中央線の後端とした。踵接地位置とCOPの前額面上の距離は, COPが踵接地位置と同じ前後座標に到達した際の側方の距離とした。 PD患者における評価はON期に統一して行った。統計解析は,2群間における各項目の平均値の差について対応のないt検定を用いて検討した。有意水準は5%とした。【説明と同意】 本研究は大阪府立大学総合リハビリテーション学部研究倫理委員会の承認を受けて実施された。対象者には実験の目的,方法,及び予想される不利益を書面にて説明し同意を得た。【結果】 PD患者における歩行開始後3歩の歩幅,ステップ速度は健常高齢者と比較して有意に低下していた。PD患者の1歩目のステップ時間,1,2歩目の両脚支持期は有意に延長していた。歩行開始後3歩におけるPD患者のCOP軌跡と踵接地位置は振り出し開始側に偏移する傾向が認められた。PD患者の2nd Peakの側方移動距離は減少する傾向にあり,3rd Peakの側方移動距離は有意に大きかった。PD患者の1歩目と3歩目の踵接地位置は振り出し開始側に有意に偏移していた。PD患者は健常高齢者と比較してCOPが踵接地位置のより内側を通過し,1歩目と2歩目の踵接地位置とCOPの前額面距離は有意に大きかった。【考察】 本研究の結果,PD患者の歩行開始後3歩のCOP軌跡は振り出し開始側に偏移し,踵接地位置の内側を通過するという異常性が示唆された。COP軌跡の振り出し開始側への偏移は,踵接地位置が振り出し開始側に偏移した影響を受け,これらは2nd PeakのCOP側方移動距離の減少に起因すると考察する。2nd Peakの側方移動距離の低下は,初期支持脚への荷重移動の低下を反映すると考えられる。先行研究においてPD患者の歩行開始動作における初期支持脚への側方荷重移動能力の低下が報告されている。歩行開始時の支持脚への荷重移動の不十分さとその後3歩目まで続く正常な荷重移動により,振り出し開始側へのCOPの偏移が生じたと考えられる。1,2歩目においてCOP軌跡が踵接地位置の内側を通過するのは,両脚支持期の延長に起因する可能性がある。両脚支持期の延長は踵接地後に対側下肢が接地している時間が長いことを表す。COP軌跡が踵接地位置の内側を通過するのは,先行肢が踵接地した後も対側下肢への荷重が多いことを示唆する可能性がある。【理学療法学研究としての意義】 本研究によってPD患者の歩行開始後3歩における異常性が初めて示された。本研究における知見はPD患者における歩行開始から定常歩行への過渡期に対する介入に寄与すると考えられる。