著者
飯塚 和也 相蘇 春菜 大久保 達弘 逢澤 峰昭 平田 慶 石栗 太 横田 信三 吉澤 伸夫
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

福島原発事故により広範囲わたり飛散・拡散した人工放射性核種の中で重要な放射性セシウム(Cs)は,同族のアルカル金属であるカリウム(K)と化学的性質が類似しているため,植物体において,Kの輸送系により吸収されていると考えられている。Kの同位体である天然放射性核種であるK40の一部は,γ崩壊をする。そこで,樹体中に取込まれた放射性セシウムの挙動を調査するに当たり,K40に着目して,放射性核種ごとにCs134,Cs137とK40の比放射能(Bq/kgDW)の測定を行なった。材料は宇都宮大学演習林(空間線量率0.2~0.3μSv/h)のスギ,ナラ類,コシアブラである。供試材料の比放射能は,U8容器を用い,Ge検出器(SEIKO EG&G)で測定した。測定時間は,木材で6000S,葉で2000Sまたは4000Sとした。若齢木において,コシアブラの葉はナラ類のそれと比べ,非常に高い比放射性を示した。また,コシアブラの核種ごとの比放射能の季節変動では,晩秋は夏に比べ,Csは1.8倍の増加を示したが,K40では1.5倍の増加であった。
著者
小寺 祐二 竹田 努 平田 慶
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.9-18, 2017 (Released:2017-07-11)
参考文献数
12

本研究では,イノシシ(Sus scrofa)における放射性セシウム汚染の経時的変化,および放射性セシウムの体内への入出状況を推測するため,福島第一原子力発電所から約100 kmの場所に位置する,栃木県那珂川町のイノシシ肉加工施設に搬入されたイノシシの咬筋,胃内容物および直腸内容物,尿の放射能量を計測した.咬筋については,原発事故前の2010年12月から2011年2月に捕殺した18個体(そのうち,13個体が栃木県,3個体が福島県,2個体が茨城県で捕獲)と,原発事故後の2011年3月27日から2013年1月17日の期間中に捕殺した288個体(そのうち281個体が栃木県,4個体が茨城県で捕獲.3個体は捕獲場所情報なし)について放射能量を計測し,3ヶ月毎の推移を評価した.なお,今回イノシシが捕獲された地域のうち,栃木県は,地表面への放射性セシウムの沈着量が10,000 Bq/m2以下,茨城県は10,000–30,000 Bq/m2以下であった.分析の結果,原発事故後に上昇した放射能量が,事故後10–18ヶ月後には一度低下し,事故後19–24ヶ月後に再び上昇しており,経時的変化が確認された.胃内容物は2011年9月8日から2013年1月17日,直腸内容物は2011年11月10日から2013年1月17日,尿は2011年11月14日から2012年2月20日の期間中に試料採取を実施した.胃内容物の放射能量については,経時的変化が確認され,事故後4–9ヶ月後まで高い値を示したが,事故後10ヶ月以降は低下した.また,咬筋と胃内容物の放射能量との間に明瞭な相関は見られなかった.直腸内容物の放射能量については,経時的変化が確認されなかったが,咬筋の値よりも高くなる傾向が確認された.尿の放射能量は,咬筋よりも低い値を示した.今回の結果では,胃内容物と筋肉の放射能量に明瞭な関係は見られず,直腸内容物の放射能量が常に高い値を示した.そのため,胃内容物中の水分や栄養素がイノシシの体内に吸収された一方で,放射性セシウムの一部は吸収されず,直腸内容物内で濃縮された上,排出されている可能性が考えられる.地表面への放射性セシウムの沈着量が少ない場合,環境中の放射性セシウムがイノシシ体内に吸収されるか否かについては,その存在形態(イオン交換態や,有機物結合態,粘土鉱物等との結合態など)に強く影響されると考えられる.そのため,本調査地域と同様の環境において,今後イノシシ体内における挙動を検討するためには,イノシシが吸収可能な放射性セシウムがどの程度存在し,その何割が実際に吸収されるのかを把握した上で,糞および尿から排出される放射性セシウムの量について精査する必要があるだろう.