著者
平野 哲史 柳井 翔吾 高田 匡 米田 直起 表原 拓也 久保田 直人 南 貴一 広川 千英 山本 杏 万谷 洋平 横山 俊史 北川 浩 星 信彦
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-252, 2016 (Released:2016-08-08)

【背景】ネオニコチノイドは1990年代に昆虫型ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChRs)を標的として開発された農薬成分である.しかし近年,ネオニコチノイドは哺乳類型nAChRsを介して神経細胞に興奮反応を引き起こすことが示され,昆虫以外の生物に対して不測の影響を与える可能性が懸念されている.我々はこれまでに成熟雄マウスをネオニコチノイドの1種,クロチアニジン(CTD)に4週間曝露すると,新規環境(オープンフィールド)における不安様行動が引き起こされ,その影響は環境ストレス下においてより顕在化することを報告してきた.本研究では,ネオニコチノイドによる行動影響発現に関与する脳領域を明らかにすることを目的とした.【材料と方法】C57BL/6成熟雄マウスに5または50 mg/kgの CTDを単回経口投与し,投与1時間後に高架式十字迷路試験による行動解析を行った.さらに2時間後に脳を摘出し,c-fos発現を指標とした組織学的解析により投与後誘導された神経活動を評価した.【結果と考察】行動解析の結果,CTD 5 mg/kg投与群においては溶媒投与対照群と比較してOpen arm滞在時間および侵入回数の減少がみられた.CTD 50 mg/kg投与群においては,さらに総移動距離の減少ならびに迷路探索時における異常啼鳴(Abnormal vocalization)およびすくみ行動(Freezing)が観察された.組織学的解析の結果,情動およびストレス反応に関与する視床下部,海馬においてc-fos陽性細胞数の増加がみられた.以上の結果から,CTD投与下においては,新規環境ストレスに曝露された際にコリン作動性神経投射を受ける視床下部や海馬における過剰な神経興奮が生じ,不安様行動やストレス応答を濃度依存的に誘発する可能性が示唆された.
著者
星 信彦 横山 俊史 杉尾 翔太 池中 良徳 平野 哲史
出版者
神戸大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2021-07-09

環境化学物質の悪影響が世代を越えて伝わる継世代影響が懸念されている.一方,「胎児期や乳児期における環境因子が生後の各種疾患のリスクを高める」こともわかってきた.中でも,発達神経毒性は極めて重要な問題である.しかし,多くの農薬は神経毒性作用を有し,胎盤関門を容易に通過する事実はあるが,継世代影響の実態やそのメカニズムはほとんどわかっていない.本研究では,中枢神経の活動や代謝系を,生体マウスの覚醒下で脳の様々な細胞を可視化イメージング技術により,これまで困難であった投与期間全体を通じた連続観察や,最も感受性が高い胎子脳に対する薬剤影響を直接的に観察をすることで継世代影響を捉え,その原因を探る.
著者
平野 哲史 池中 良徳 星 信彦 田渕 圭章
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第49回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-4E, 2022 (Released:2022-08-25)

【背景・目的】化学物質のリスク評価における課題の一つとして、個々の化学物質を対象とする従来の毒性評価システムによっては複数の化学物質による複合影響のリスクを評価できない点が挙げられる。近年提唱されたAdverse Outcome Pathway(AOP)の概念に基づくと、複合影響に対する効率的な毒性評価を行うためには毒性発現における共通のKey Eventを活用することが重要となる。我々は前回大会にて、ピレスロイド系農薬デルタメトリン曝露時において、マイトファジーの活性化およびプロテアソーム活性低下を介したタンパク質分解系の不均衡状態が関与する新たな神経毒性メカニズムを報告した。そこで本研究では、これらのエンドポイントを神経毒性のKey Eventとすることで農薬類の複合影響評価への応用を検証することを目的とした。【方法】マウス神経芽細胞腫Neuro-2a細胞に農薬類10種を曝露し、ミトコンドリア膜電位やオートファジーおよびプロテアソーム活性を指標としてミトコンドリアやタンパク質分解系への機能的影響を評価した。またWST-8アッセイにより細胞生存性を評価し、CompuSynソフトウェアにより複合影響の用量反応性を解析した。【結果・考察】ピレスロイド系農薬ペルメトリンおよびデルタメトリンとフェニルピラゾール系農薬フィプロニルの曝露により、ミトコンドリアの機能低下、オートファジーの分解基質マーカーであるp62の蓄積等の共通したKey Eventの変動がみられた。さらにこれらの複合曝露により、単独曝露時と比べてより低濃度で細胞生存性が低下し、Combination Index < 1を示す相乗効果が認められた。本研究により、神経毒性に関するAOPの共通Key Eventを指標とすることで異種の農薬類の複合曝露が引き起こす相乗的な神経毒性を検出できることが初めて示された。