- 著者
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平野 多恵
- 出版者
- 日本文学協会
- 雑誌
- 日本文学 (ISSN:03869903)
- 巻号頁・発行日
- vol.63, no.7, pp.21-34, 2014-07-10 (Released:2019-07-20)
釈教歌が盛行しはじめる平安時代中期から、釈教歌には二つの文体があった。一つは、漢訳仏典を和語に翻訳して詠むことで、もう一つは漢語による仏教語をそのまま詠み込むことである。前者は経典の内容を詠む法文歌に見られる。当初は経典内容の叙述に詠み手の解釈や心情を加えた二元的構造の歌が多かったが、後に四季の叙景歌や恋歌そのものへと変化した。後者は僧侶の法縁歌・述懐歌に特徴的で、伝教大師や弘法大師などの高僧の伝承歌を始発とする。和語の使用を原則とする和歌が仏教語を許容したのは、当時の和歌が翻訳不可能な仏教語の力を必要としたからだろう。