著者
坂口 守男 朝井 均 朝井 忠 弓庭 喜美子
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要 3 自然科学・応用科学 (ISSN:13457209)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.39-48, 2007-09

「生活の場で見るメンタルヘルス」の第二回目として過疎地で生活する高齢者のメンタルヘルスについて論じた。過疎地における高齢者の生活上の負荷を検討するために6つの事例を提示した。事例1は強盗によって安全感が揺るがされたケース,事例2は家庭内不和のため家族から離れて孤独の中で生活しているケース,事例3は夫に支えられて生活している認知症のケース,事例4は妄想的言動が顕在化したケース,事例5は夫を不慮の事故で失い一人暮らしを続けているケース,事例6は夫を癌で亡くして一人暮らしを続けているケースである。これらのケースに見られる恐怖体験,知的能力の低下,精神症状の出現,配偶者との死別などは過疎地の高齢者の生活をしばしば妨げる要因となる。しかし長年住み慣れた自然との結びつきや人と人との程よい精神的距離は過疎地ならではのものであり,高齢者のメンタルヘルスにとって特に重要なものである。また,配偶者の死亡原因の分析では大量飲酒者,喫煙者は悪性腫瘍,中でも胃癌の罹患率が高く,その平均死亡年齢は65.8歳で全体の平均死亡年齢よりも5歳低くなった。残された者の生活上の負担やその後のメンタルヘルスへの影響の甚大さを鑑み,配偶者の大量飲酒と喫煙に関してはそれぞれの「生のストーリー」をよく理解した上で健康教育活動を展開する必要性があることを指摘した。Mental health of senior citizens who lived in a certain depopulated village were studied. The population of this village is only 577 (male is 282, female is 295). Elder people aged 65 years and older are 229 and occupy 40 % of the population. 52 of them are living alone (male is 19, female is 33). We investigated factors which disturbed the living of 40 elder people (33 females and 7 males) in the depopulated area through door-to-door survey. A fear experiences, a fall of intellectual activity, the onset of mental symptoms and bereavement with spouse were regarded as factors which interfere with the living in the depopulated area. Nature and rural human relations were considered good factors for the living there. 28 women of a single life lost their husbands in a disease. 16 of their husbands were a large quantity of drinker and smoker. 8 of them died of carcinoma and 3 died for cerebrovascular disorder. Positive health activity for such drinkers and smokers need to be practiced to make them stop liquor and cigarettes. But it will not be effective too much if we do not understand the living background that they came to often drink and smoke.
著者
前田 美季 中村 千種 内垣 亜希子 弓庭 喜美子 内海 みよ子 志波 充 三家 登喜夫 宮井 信行 有田 幹雄
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.158-162, 2011 (Released:2011-07-15)
参考文献数
17
被引用文献数
2 2

目的:加齢とともに高血圧の罹患率は増加するが,閉経との関連は明らかではない.女性の加齢及び閉経による血管系に及ぼす影響を明らかにするため,年齢により分類し比較検討した.方法:151名の中高年女性を性成熟期群,移行期群,閉経期群に分類し,身体計測,血圧測定,血液生化学検査,上腕・足首脈波速度(brachial-ankle pulse wave velocity:baPWV),血圧脈波検査(Augmentation Index:AI),内皮依存性血管拡張反応(flow-mediated vasodilation;%FMD),心エコー図検査を実施し,3群間の心・血管系に及ぼす影響を比較した.結果:収縮期血圧は性成熟期群に比し閉経期群,移行期群が有意に高値を示し,移行期群と閉経期群間にも有意差がみられた.baPWVは,性成熟期群に比し閉経期群で有意に高値を示し,移行期群と閉経期群間にも有意差がみられた.AIは性成熟期群に比し閉経期群,移行期群が有意に高値を示した.%FMDは性成熟期群,移行期群に比し閉経期群が有意に低値を示し,血清クレアチニン,推算糸球体濾過値(eGFR),高感度CRPは有意に高値を示した.E/Aは性成熟期群に比し閉経期群,移行期群が有意に低値を示し,移行期群と閉経期群間にも有意差がみられた(いずれもp<0.05).結論:加齢および閉経により血圧の上昇,動脈硬化の進行,血管内皮機能の低下などが認められた.女性の健康管理や心血管イベント防止のためには,年齢に応じたエストロゲンの作用による心血管系の変化を理解することが重要であることが示唆された.