著者
堀端 廣直 郭 哲次 坂口 守男 小野 善郎 百渓 陽三 吉益 文夫 東 雄司
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.297-302, 1995-03-15

【抄録】夫婦の間で約5年間持続した二人組精神病について報告した。二人で鍼灸治療所を開いていたが,妻が宇宙からの通信を受け始め,被害妄想も生じた。1か月後には,夫も宇宙からの通信を受け始め同様の妄想を持った。 夫婦は,鍼灸業は停止し,近隣から孤立していった。約2年後に夫は“宇宙語”と称する言葉をしゃべり始め,その半年後には妻も同調し,“宇宙語”による夫婦間の交話が約2年間続いた。二人は不穏行為などで,トラブルを頻繁に起こしていたが,夫の父親が近所の人々からの苦情などに対応し,当人たちに経済的援助もしていた。夫婦の精神科治療への導入は困難であったが,通行人への暴力行為を契機として,妻が措置入院となり約4か月後,軽快退院した。夫は妻との分離後,約3週間目には妄想をなくしていた。感応の成立過程とその方向,“宇宙語”での交話によって夫婦の共生的関係が強くなり,父の庇護により二人の感応精神病が持続したことについて考察した。
著者
朝井 知 朝井 均 坂口 守男 朝井 栄
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. IV, 教育科学 (ISSN:03893472)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.33-42, 2005-09-30

20世紀を代表するピアニスト,ウラディミール・ホロヴィッツ(1903-1989)は,卓越した演奏技術に加え,19世紀以前の浪漫派の伝統を継承した,傑出した音楽家として,現在でも,コンサートピアニストの「指標」となっている。その一方で,広く知られているように,ホロヴィッツは,生涯を通じ,数回にわたって公の演奏活動を休止している。ここでは,活動休止に至る経緯に注目した症候学的考察を,そして,木村の論考に基づき,演奏における音楽性を検討した上で,精神病理学および人間学的考察を試みた。症候学的には,ホロヴィッツが,神経症性うつ病の範疇にあることが示唆された。また,多くの聴衆を熱狂に導くような彼の音楽性においては,木村のいう二重主体性の完全な重なりが志向されており,そのために彼の私的間主観性が,過剰なまでに動員されいるものと考えられた。さらに,音楽に呼応する精神病理の観点からは、音楽性,精神病理,音楽美の多元的な関係における均衡の破綻によって,その病理の表出に至った可能性が示唆された。
著者
坂口 守男
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要 第IV部門 教育科学 (ISSN:03893472)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.67-75, 2010-02-26

「熊野説話とその精神病理」の第6回目として「文覚荒行」を取り上げた。同僚の妻に横恋慕して殺人事件を起こした文覚は出家して,熊野の那智の滝で修行する。滝壷で一度死んだ文覚は不動明王の助けで再生し,すさまじいエナジーの持ち主に生まれ変わる。熊野は修験道の聖地でもあることから文覚の修行は修験道の擬死再生行為に相当すると考えた。一方で,熊野は浄土信仰の霊地でもある。浄土を求める心は地獄を恐れる心と表裏一体である。そこで西行の「地獄絵を見て」という27首の連作から地獄ついても検討した。さらに不安が本体である神経症の治療にも言及した。西行は執着心を捨てて不安に満ちた現実を見つめ,それを言語化しながら柔らかく受け止めてきた。文覚の荒々しい剛直な心とは対照的な西行のこうした柔軟な心にこそ精神療法の可能性があることを指摘した。This is the sixth paper regarding folk stories in Kumano. "Mongaku Aragyou" was taken up in the paper. The summary of the story is as follows. /Mongaku fell in love with his colleague's wife, Kesa. After they finished a love affair, Kesa asked Mongaku to kill her husband. One night, Mongaku stole into their house and killed a man who was sleeping on the bed. But the man was Kesa. She had disguised into her husband and lain sleeping on his bed. Because Mongaku was very strongly shocked, he became a Buddhist priest in Kumano and stood under Nati Falls for 21 days. He was saved in a dying state by Hudomyoo and became a more powerful man. He tried to conquer his feeling of terror for hell by his violent mental training. I studied Mongaku's mental state in comparing with Saigyou, who is a famous poet and contemporary with Mongaku. Saigyou overcame his feeling of terror for hell by his flexible mind like wind or water. Furthermore I discussed the psychotherapy of neurosis on the basis of Saigyou's poems.
著者
石原 真穂 坂口 守男
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. 第3部門, 自然科学・応用科学 (ISSN:13457209)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.17-35, 2014-09

本研究は,アンケート調査と味覚測定により,睡眠習慣や気分状態が,味覚感受性にどのように影響を及ぼすのかについて明らかにすることを目的とした。対象は20代から30代の男女72名である。対象特性の把握では,分布の偏りの検討や全国統計と比較し,平均的な集団であると確認された。その後重回帰分析を行い,甘味の検知,塩味の検知と認知,酸味の検知閾値において,睡眠の質と相関関係にあり,また睡眠の質に影響を及ぼすことがわかった。本研究から,生活習慣病の要因である食習慣と睡眠習慣は相互に影響を及ぼしている可能性が考えられ,生活習慣病へのアプローチは両者を包括した形で進めて行くべきことが示唆された。This study aims to reveal how adults' sleeping habits or their profile of mood states influences taste sensitivities. Preliminary investigations of 72 Japanese participants in their 20s and 30s confirmed that their lifestyle, sleeping habits, profile of mood states, and taste sensitivity were normal in Japan. Their taste sensitivities for detecting and recognizing sweetness, saltiness, sourness, and bitterness were examined. Correlations were recognized between each of the sensitivities for detection sweetness, saltiness, and sourness, moreover for recognizing saltiness and the quality of sleep. This result indicates the possibility that the quality of sleep and taste sensitivities, which may change dietary habits and therefore cause lifestyle-related-diseases, affect each other. Simultaneous approach for improvements in sleeping habits and dietary habits should be effective to prevent lifestyle-related-diseases.
著者
坂口 守男 朝井 均 朝井 忠 弓庭 喜美子
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要 3 自然科学・応用科学 (ISSN:13457209)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.39-48, 2007-09

「生活の場で見るメンタルヘルス」の第二回目として過疎地で生活する高齢者のメンタルヘルスについて論じた。過疎地における高齢者の生活上の負荷を検討するために6つの事例を提示した。事例1は強盗によって安全感が揺るがされたケース,事例2は家庭内不和のため家族から離れて孤独の中で生活しているケース,事例3は夫に支えられて生活している認知症のケース,事例4は妄想的言動が顕在化したケース,事例5は夫を不慮の事故で失い一人暮らしを続けているケース,事例6は夫を癌で亡くして一人暮らしを続けているケースである。これらのケースに見られる恐怖体験,知的能力の低下,精神症状の出現,配偶者との死別などは過疎地の高齢者の生活をしばしば妨げる要因となる。しかし長年住み慣れた自然との結びつきや人と人との程よい精神的距離は過疎地ならではのものであり,高齢者のメンタルヘルスにとって特に重要なものである。また,配偶者の死亡原因の分析では大量飲酒者,喫煙者は悪性腫瘍,中でも胃癌の罹患率が高く,その平均死亡年齢は65.8歳で全体の平均死亡年齢よりも5歳低くなった。残された者の生活上の負担やその後のメンタルヘルスへの影響の甚大さを鑑み,配偶者の大量飲酒と喫煙に関してはそれぞれの「生のストーリー」をよく理解した上で健康教育活動を展開する必要性があることを指摘した。Mental health of senior citizens who lived in a certain depopulated village were studied. The population of this village is only 577 (male is 282, female is 295). Elder people aged 65 years and older are 229 and occupy 40 % of the population. 52 of them are living alone (male is 19, female is 33). We investigated factors which disturbed the living of 40 elder people (33 females and 7 males) in the depopulated area through door-to-door survey. A fear experiences, a fall of intellectual activity, the onset of mental symptoms and bereavement with spouse were regarded as factors which interfere with the living in the depopulated area. Nature and rural human relations were considered good factors for the living there. 28 women of a single life lost their husbands in a disease. 16 of their husbands were a large quantity of drinker and smoker. 8 of them died of carcinoma and 3 died for cerebrovascular disorder. Positive health activity for such drinkers and smokers need to be practiced to make them stop liquor and cigarettes. But it will not be effective too much if we do not understand the living background that they came to often drink and smoke.
著者
坂口 守男 中司 妙美 飛谷 渉
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. 第3部門, 自然科学・応用科学 (ISSN:13457209)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.27-35, 2012-02
被引用文献数
1

保健センターが取り組んでいる熱中症対策に関する報告を行った。2006年~2010年までの過去5年間における本学での熱中症発生件数は31件で,ほとんどが7月,8月に集中していた。次に2009年に,体育会に所属する21クラブを対象に実施した面接調査の結果を検討した。調査項目は,環境温度把握,コンディショニングチェックリストの使用,暑熱馴化期間の設定,水分補給の仕方,前年度の熱中症発生数,救急搬送または病院受診数,発生状況についてであった。環境温度を把握しているクラブは3団体,コンディショニングチェックリストを活用しているクラブは7団体,暑熱馴化期間を設定しているクラブは5団体にすぎなかった。飲料水としてはスポーツドリンクが最も多かった。水分摂取の間隔は15分以下のクラブが主であったが,60分毎に摂取するクラブが2団体あり,摂取量も1000cc以上というクラブが4団体あった。8つのクラブが前年度に熱中症の発生を経験していた。そのうち2つのクラブでは救急搬送していた。これらの結果から,本学においては今後も体育会系クラブを中心に熱中症に対する意識を高めていく必要性が痛感された。We reported measures against hyperthermia that the health center staffs conducted. The outbreak number of hyperthermia in Osaka-Kyoiku University was 31 cases in the past five years (until 2006 to 2010). Most of them occurred in July and August. The results of the interview that we carried out for 21 sport clubs in 2009 were reviewed. We found that only three clubs checked environmental temperature before training, seven clubs utilized conditionings check list, and five clubs set a summer heat acclimatization period. Interval of fluid intake and introjections during training were not appropriate in four clubs. Eight clubs experienced outbreak of hyperthermia in 2008. Two clubs among them experienced emergency cases that were transported to hospitals. These results suggest that measures against hyperthermia were not sufficient yet in our university. We have taught managers of each club how to prevent hyperthermia individually every year, and must continue it in future.
著者
志波 充 奥村 匡敏 山本 耕平 坂口 守男 武用 百子 山本 明弘
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
和歌山県立医科大学看護短期大学部紀要 (ISSN:13439243)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.37-42, 2004-03

近年,人格の分類においてCloningerの理論が注目を集めている。この理論の特徴は,従来の類型論と異なり,人格は遺伝規定性の強い「気質Temperament」と,自己概念について洞察学習することによって成人期に成熟する「性格Character」から成ると考え,さらに気質を4次元,性格を3次元に分け,気質の4次元のうち3次元にはそれぞれ脳内神経伝達物質であるドーパミン,セロトニン,ノルアドレナリンの対応を仮定したことである。今回我々は看護学生に特徴的な人格傾向について検討する目的で,Cloningerの作成した「気質と性格の7次元モデル」の質問紙Temperament and Character Inventory(TCI)日本語版を用いて,W医大看護短期大学部学生(W看護短大生)およびW医大医学部学生(W医大生)の人格傾向を調査した。その結果を一般健常対照者(対照者)と比較した。W看護短大生と対照者との比較では,W看護短大生でHarm Avoidance(HA:「損害回避」)のスコアが有意に高く,Self-Directedness(SD:「自己志向」)が有意に低かった。W医大生と対照者との比較では,W医大生でSDが有意に高く,Reward Dependence(RD:「報酬依存」), Self-Transcendence(ST:「自己超越」)が有意に低かった。W看護短大生の人格傾向として,やや不安傾向が強いものの,暖かな社交的友好関係や社会的契機に対する共鳴・感受性が高く,人としての成熟度は高いが,自己による意志決定の力は弱い傾向がみえる。一方W医大生では,意志の力は強いが,社交的友好関係を保つことは苦手で,科学は万能ではないことに気づかない傾向が伺える。