著者
前田 勝義 平山 八郎 張 正博 高松 誠
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.21, no.5, pp.398-407, 1979-09-20
被引用文献数
1

日本産業衛生学会「頸肩腕症候群」委員会が,「手指作業者」健康診断のためのアンケート調査表を1972年に提起して以後,この調査表は,各方面で使用され,頸肩腕障害の症状の多様性については,多くの研究者の注目するところとなった.しかしながら,この障害の進展の中で,多様な自覚症状がいかに発現するかについての具体的解析事例は,あまり報告されていない. われわれは,紙巻きタバコ製造工場の女子流れ作業者117名についての健康調査成績をもとに,自覚症状や日常生活の不便・苦痛がいかに展開するかについて,R.L.Zielhuisらの提起したvalidityの計算方法からヒントを得て解析した.その結果,次のことが明らかとなった. 1) 障害の初期には,頸・肩のこり・だるさ,目の疲れ,聞こえにくさ,などの症状が顕在化する. 2) 障害の中期には,初期症状に加え,頸・肩・腕・手の痛み,四肢のだるさ,からだのだるさ,頭痛・頭重,いらいら,もの忘れなどの症状が顕在化する. 3) 障害の後期には,中期の症状に加え,背・腰の痛み,背のだるさ,腕・手のしびれ,手・足の冷え,目の痛み,不眠などの症状が顕在化する. 4) 日常生活の不便・苦痛は病期が進むにつれて多くなる. 以上のごとき症状の展開は,「頸肩腕症候群」委員会による頸肩腕障害の定義・病像分類と基本的に一致していると思われた.またこの障害の診断にあたっては,頸・肩・腕・手の症状のみならず,からだのだるさ,頭痛・頭重,いらいら,もの忘れ,不眠などの一般症状も重視すべきであり,これらの一般症状はE.Grandjeanのいうclinical fatigueの場合に出現する症状と同じカテゴリーに含まれると考察した.