著者
張 賢徳
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.8, pp.781-788, 2016 (Released:2016-08-01)
参考文献数
13

自殺既遂者の90%以上が自殺時に何らかの精神科診断がつく状態であったことが見い出されている. したがって, 精神疾患の治療においては, 自殺予防への配慮が必要になる. 自殺に最も関係の深い病態はうつ病・うつ状態である. 日本では, 重症自殺未遂者の精神科診断の調査によって, 約20%に適応障害レベルの人が見い出されていることから, 疾患自体の重症度が軽症であっても自殺のリスクが低いとはいえず, 心療内科を含め, 精神疾患の治療を担当する医療従事者はすべて, 自殺のリスクを念頭に置く必要がある. 自殺のハイリスク者を把握するためには, 希死念慮の確認とその強度の査定が必要になる. ハイリスク者への対応では, 狭義の医学的治療だけではなく, 希死念慮の背後にある悲観や絶望に目を向け, それらをどう支えるかを考えねばならない. 多職種による積極的な関与が必要だという認識が求められる.
著者
張 賢徳
出版者
帝京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

(1)自傷行為中に解離状態が生じている、(2)自傷行為中の解離状態が強いほど自傷は重症になる、(3)解離性向が強いほど自傷を起こしやすい、という3つの仮説を立て、これらを検証することが本研究の目的である。対象は精神科患者であり、自傷行為歴、自傷行為歴があった場合にはその行為中の解離度、そして普段の解離性向について、面接ならびに質問紙法によって情報収集を行った。解析方法は、仮説(1)に対して、自傷行為時に解離状態を呈した者の割合を調べる。仮説(2)に対しては、自傷行為中の解離度を質問紙(Peritraumatic Dissociative Experiences Questionnaire)で測定し、その程度と身体重症度との相関を調べる。仮説(3)に対しては、普段の解離性向を質問紙(Dissociative Experience Scale;DES)で測定し、自傷行為群と非自傷行為群の間でその得点を比較する。うつ病性障害の患者200名、精神分裂病患者50名が現在解析可能な段階にある。その他の疾患群では情報収集を続けてきたが、十分な解析に耐えうる数がまだ集まっていない。うつ病性障害では、上記の仮説3つとも支持される結果が得られた。精神分裂病では、仮説(1)、(2)は支持されたが、仮説(3)は支持されなかった。この解釈として、精神分裂病患者は解離性向に無関係に強い覚悟の上の自殺念慮によって自傷行為を起こすと考えられる。つまり、彼らの自殺念慮の高まりには解離はあまり関係せず、一旦強い自殺念慮を抱くと、解離性向に関係なく実行する(「覚悟の上の自殺」と考えられる)。しかし、DESの質問事項の一部が精神分裂病症状に近似しているものがあるため、これらの項目の扱いを再検討して解析することも予定している。本研究から、うつ病性障害では、希死念慮プラス強い解離性向が自殺の危険因子であることが示唆された。
著者
北島 正人 水野 康弘 有木 永子 浅川 けい 津川 律子 張 賢徳 KITAJIMA Masato MIZUNO Yasuhiro ARIKI Nagako ASAKAWA Kei TSUGAWA Ritsuko CHO Yoshinori
出版者
秋田大学教育文化学部附属教育実践研究支援センター
雑誌
秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要 (ISSN:13449214)
巻号頁・発行日
no.36, pp.193-203, 2014-05-31

自殺のリスク評価の視点から、風景構成法(LMT)と、2つの心理検査との関連を検討した。研究1では、LMTの「構成の型」「色彩の程度および種類」と、自己評価式抑うつ性尺度(SDS)の総得点および第19項目(SDS_Q19)の希死念慮頻度得点との関連を検討した。研究2では、LMTの「構成の型」「色彩の程度および種類」と、精研式文章完成法テスト(SCT)の刺激語「自殺」および「死」への記述内容との関連を検討した。その結果、研究1では、LMTのアイテム「石」の彩色に「灰色」を用いた者が、「黒色」を使用した者や彩色しなかった者よりもSDS_Q19で高い希死念慮頻度を示した。単色で60%以上という高い出現率を占める「灰色」の選択には、希死念慮頻度の高い者と低い者の双方が含まれていたと推察され、結果の解釈には慎重を要すると考えられた。研究2では、LMTとSCTの2つの刺激語との間に有意な関連は見出されなかった。2つの研究を通じ、今後に向けて主に次のような課題が提出された。先行研究同様、本研究においてもLMTのアイテム彩色が自殺のリスク評価に関与することが示唆されたが、詳細な分析のためには、臨床群データだけでなく健常者データの蓄積が急務と考えられた。また、SCTに関しては、臨床実践に応用できる形で、なおかつ統計上も有用な群分けができる分類法をさらに工夫する必要があると考えられた。