著者
澁谷 真二 今野 和夫
出版者
秋田大学
雑誌
秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要 (ISSN:13449214)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.53-62, 2006-04-28

友達関係は人生においてなくてはならないものだが,障害のある人にとっては,ノーマライゼーションの実現ということにおいて障害のない人との友達関係も欠かせない.この重要なテーマについての試行的・探索的な本研究では,作業所に福祉就労する知的障害者(41名,うち31名が20歳台)の保護者に対して質問紙調査を実施した.その結果,彼らには友達が少なく,特に障害のない友達をもっている人は僅少であること,保護者たちは子どもが就学前や学童期の頃は障害のない友達ができるようにといろいろ取り組んでいることが示唆された.また現在,程度に強弱はあるが,半数を明らかに上回る保護者(6割強)が,子どもに障害のない友達がいればよいと思い,一方でその実現を容易でないと考えていることが示された. さらに本研究では,筆者の一人(渋谷)が友達関係を深めてきている知的障害(ダウン症候群)の青年の母親に面接し,母親が友達関係の大切さを認識し,障害の有無を問わず友達ができるようにと青年の幼い頃から何かと配慮と行動を重ねてきていることが確認できた. 以上の結果を踏まえ,友達関係の構築に向けた支援のあり方について,また研究上の課題について言及した.
著者
外池 智
出版者
秋田大学
雑誌
秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要 (ISSN:13449214)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.17-30, 2003-03

「古里かるたわたしたちの八橋・寺内」は,1979-1980(昭和54-55)年の野尻滋校長期(1978-1982)に秋田市立八橋小学校で作成された「郷土かるた」である.野尻氏はその後,同じ秋田市の他地域を題材に5つのかるたを作成している.県単位ではなく市町村単位の同一地区で,計6つの「郷土かるた」が作成された例は他に類をみない.本研究では,主に歴史的視点を中心とした地域素材の教材化について,この「八橋・寺内かるた」を具体的事例としてその作成過程を明らかにするとともに,同じ秋田市の「郷土かるた」である「土崎郷土かるた」,全国的に著名な「上毛かるた」との比較によりその題材における特色を明らかにした.「八橋・寺内かるた」は,いわば学校が生み出した文化である.こうした教材は,その作成者のみならず,作成の舞台となった学校において継承・発展されることによって,地域文化としての意義を有する.それは,これまで個別に開発・「消費」される教材を,他の教員,当該学校として共有化することであり,ひいては地域の文化として継承することである.
著者
石井 照久 菅原 麻有
出版者
秋田大学
雑誌
秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要 (ISSN:13449214)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.125-133, 2010-05-31

平成の大合併に伴い秋田県では69あった市町村が25になった。各市町村は平成の大合併以前から独自にシンボル生物(木、花、鳥、魚、昆虫など)を制定していることが多かった。本研究では、シンボル生物が平成の大合併に伴いどのように変遷されていったのか、またシンボル生物がどのように教育に利用されてきたのか(利用されているのか)を明らかにすることを目的とした。 秋田県に69あった市町村のうち、なんらかのシンボル生物を制定していたのは上小阿仁村と旧角館町を除く67市町村であった。そして合併の前後で変更がなかった秋田県内10市町村(上小阿仁村を含む)のシンボル生物にはもちろん変更がなかった。合併の形態には新設合併と編入合併がある。秋田県で新設された市町村のうち、シンボル生物をまだ制定していないのは3市1町(能代市、三種町、横手市、湯沢市)であった。また編入合併の場合では、廃止された自治体が制定していたシンボル生物は消滅し、編入先の自治体が制定していたシンボル生物がそのまま残っていた。 シンボル生物の教育現場への利用について秋田県の小中高の学校教員にアンケートを行ったところ、シンボル生物自体があまり意識されておらず、教育にシンボル生物を活用しているケースは少なかった。一方、教育現場ではないが、各地域のシンボル生物が自治体の章、デザインマンホール、カントリーサインなどに描写されていたり、地域の情報ブログなどでシンボル生物の名称が使用されていたりと地域にシンボル生物が密着しているケースもみられた。
著者
石井 照久 保坂 学 佐藤 宏紀 三浦 益子
出版者
秋田大学教育文化学部附属教育実践研究支援センター
雑誌
秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要 (ISSN:13449214)
巻号頁・発行日
no.34, pp.145-156, 2012-05

中学校理科の生物分野と高校生物において,教師が指導上難しさを感じることのある単元や箇所を抽出し,指導を困難にしている原因を明らかにするととともに改善策を検討した.抽出された事項は,(1)教科書の記載に関するもの,(2)色に関するもの,(3)実験の技術に関するもの,(4)教授法に関するもの,に大別された.そのうち(1)には,教師の指導を困難にしているだけでなく,生徒の理解を混乱させるものも含まれていた.それぞれの改善策を検討した結果,教師側の教材研究・実験技術の向上,などにより改善できる場合もあったが,教科書出版会社に改善を依頼したほうがいい場合もあった.また,容易には解決できない事項もあった.本報告は,秋田大学大学院教育学研究科の教科教育専攻理科教育専修の授業科目「生物学研究II」において,平成23年度前期の授業で展開された成果報告でもある.
著者
曽山 和彦 本間 恵美子
出版者
秋田大学教育文化学部総合教育実践センター
雑誌
秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要 (ISSN:13449214)
巻号頁・発行日
no.28, pp.111-118, 2006-04

本研究では,教師のメンタルヘルス問題について,校外のサポート機能に焦点を当て,自尊感情及びバーンアウトの視点から検討を行った.本研究の対象は,自主的にカウンセリングを学び合うサポートグループ参加教師25名であり,実験群とした.実験群は,グループヘの10回の参加回数を基準にして,高群と低群の2群に分けた.また,一般の公立学校教師255名を対照群とした.実験群に対しては,自尊感情,バーンアウトを測定する質問紙調査を実施した.対照群に対しては,バーンアウトを測定する質問紙調査を実施した.その結果,高群は,低群に比べて自尊感情が高く,対照群に比べてバーンアウト合計が低いことが明らかになった.また,バーンアウトの下位尺度である個人的達成感低下が低いことも明らかになった.さらに,高群の自尊感情はバーンアウトに対する負の予測変数であることも明らかになった.これらのことから,サポートグループヘの参加は,参加者の自尊感情向上やバーンアウト軽減に影響を及ぼすことが示唆された.
著者
外池 智 TONOIKE Satoshi
出版者
秋田大学教育文化学部附属教職高度化センター
雑誌
秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要 (ISSN:24328871)
巻号頁・発行日
no.44, pp.1-13, 2022-03-31

「本研究の目的」も含めて,以下本稿の概要を述べる.本研究は,2009(平成21)年 度から推進している戦争遺跡に関する研究1,2012(平成24)年度から推進している戦争 体験の「語り」の継承に関する研究2,2015(平成27)年度から推進している継承的アー カイブを活用した「次世代の平和教育」の展開に関する研究3 の継続研究であり,さらに 2018(平成30)年度から取り組んでいる地域の継承的アーカイブと学習材としての活用に 関する研究4 の一端を発表するものである. 戦後76年の歳月が経ち,戦争体験を語れる終戦時の年齢を仮に10歳とすれば,もはやそ の人口は全人口の5 %以下となった.こうした状況の中,あの貴重な体験や記憶を残し, 継承していこうとする試みが続いている.また教育現場においても,直接的な戦争体験の 「語り」ではなく,そうした継承的アーカイブを活用したいわば「次世代の平和教育5」と 呼ぶべき実践が次々と展開されている. こうした状況を踏まえ,本稿では,戦争遺物の学習材としての活用,そして戦争体験の「語 り」の継承について,特に今回は東京都の昭和館に注目し,昭和館の学校教育に関わる事 業や「語り部」養成事業,そして昭和館を活用した地元小学校における教育実践を取り上 げ検討したい.his study is based on research on war ruins that have been promoted since 2009, on the succession of "narratives" of war experiences that have been promoted since 2012, and from 2015. This is a continuing study on the development of "nextgeneration peace education" utilizing the inherited archives, and presents a part of the research on the use of "next-generation peace education" as an inherited archive and learning material in the region that we have been working on since 2018. After 74 years of the war, if the age at the end of the war, which can be talked about the war experience, is 10 years old, the population is no longer about 8% of the total population. In this situation, attempts to preserve those precious experiences and memories and try to inherit them continue. In addition, in the educational field, rather than the "story" of the direct war experience, so to speak, the practice to be called "the next generation of peace education" utilizing such an inherited archive is being developed one after another. In light of this situation, this paper will focus on the use of war relics as a learning material and the succession of "storytelling" of war experiences, and this time I would like to focus on Showakan in Tokyo, and take up and examine the school education-related business of Showakan, the "storytelling department" training project, and the educational practice at local elementary schools using Showakan.
著者
北島 英樹 武田 篤 KITAJIMA Hideki TAKEDA Atsushi
出版者
秋田大学教育文化学部総合教育実践センター
雑誌
秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要 (ISSN:13449214)
巻号頁・発行日
no.29, pp.35-44, 2007-05-01

自閉症では,他者の指示に従い,与えられた課題をこなすことができるが,自らの要求や判断を介在させた生活を送るのが難しいことが指摘されてきている.したがって,自閉症の教育では,早くから主体性の確立に向けた支援を行っていくことが求められている.今回,この取り組みのひとつとして,ことばのない自閉症の児童に,VOCA(Voice Output Communication Aid : 音声出力型コミュニケーション装置)を活用することによって,自己の要求を積極的に伝えられるようになる支援を試みた.その結果, VOCAの使用によって,自分の要求を相手に伝えられるようになっただけでなく,集会の司会進行を努められるようになるなど,それまで苦手としていた集団での学習にも意欲的に取り組むようになった.本研究では,1年半にわたる学校と家庭でのVOCA指導の経過について報告するとともに,その有効性について検討する.
著者
北島 正人 水野 康弘 有木 永子 浅川 けい 津川 律子 張 賢徳 KITAJIMA Masato MIZUNO Yasuhiro ARIKI Nagako ASAKAWA Kei TSUGAWA Ritsuko CHO Yoshinori
出版者
秋田大学教育文化学部附属教育実践研究支援センター
雑誌
秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要 (ISSN:13449214)
巻号頁・発行日
no.36, pp.193-203, 2014-05-31

自殺のリスク評価の視点から、風景構成法(LMT)と、2つの心理検査との関連を検討した。研究1では、LMTの「構成の型」「色彩の程度および種類」と、自己評価式抑うつ性尺度(SDS)の総得点および第19項目(SDS_Q19)の希死念慮頻度得点との関連を検討した。研究2では、LMTの「構成の型」「色彩の程度および種類」と、精研式文章完成法テスト(SCT)の刺激語「自殺」および「死」への記述内容との関連を検討した。その結果、研究1では、LMTのアイテム「石」の彩色に「灰色」を用いた者が、「黒色」を使用した者や彩色しなかった者よりもSDS_Q19で高い希死念慮頻度を示した。単色で60%以上という高い出現率を占める「灰色」の選択には、希死念慮頻度の高い者と低い者の双方が含まれていたと推察され、結果の解釈には慎重を要すると考えられた。研究2では、LMTとSCTの2つの刺激語との間に有意な関連は見出されなかった。2つの研究を通じ、今後に向けて主に次のような課題が提出された。先行研究同様、本研究においてもLMTのアイテム彩色が自殺のリスク評価に関与することが示唆されたが、詳細な分析のためには、臨床群データだけでなく健常者データの蓄積が急務と考えられた。また、SCTに関しては、臨床実践に応用できる形で、なおかつ統計上も有用な群分けができる分類法をさらに工夫する必要があると考えられた。
著者
大城 英名 OSHIRO Eimei
出版者
秋田大学教育文化学部附属教育実践研究支援センター
雑誌
秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要 (ISSN:13449214)
巻号頁・発行日
no.34, pp.71-80, 2012-05-31

本研究では,特別支援学級に在籍する児童の特殊音節(長音・促音・拗音・拗長音)の自覚とその読み書き習得の実態について検討を行った。対象児は,清音のひらがなが読める特別支援学級児童50名(知的障害40名と情緒障害10名).実施したテスト課題は,音節分解・抽出課題,特殊音節を含む語の読み課題,特殊音節を含む語の書き課題,特殊音節を含む語・文の聴取・書取課題,特殊音節を含む語のモデル構成課題,の計5種類.その結果,(1)特殊音節を含む語の読み課題では,どの特殊音節についても80%以上の正反応率であった.それに対して,書き課題では,拗音と長音が75%前後で,促音が63%,拗長音が53%,の正反応率であった.(2)特殊音節を含む語のモデル構成課題では,どの特殊音節についても正反応率が低く,促音が35%,拘音が23%,勘長音が5%,長音が3%,であった.(3)特殊音節の読み書き課題とモデル構成課題との関係では,特殊音節の読み書きができる児童でもモデル構成課題の正反応率は低く30%であった.逆に,特殊音節を含む語のモデル構成課題のできる児童は,その読み書きの課題の正反応率は高く90~100%であった.これらの結果を踏まえて,特殊音節の読み書きが十分でない児童に対しては,特殊音節の音韻的自覚を促す指導が大切であり,その指導法として特殊音節を含む語のモデル構成法が有効であることを指摘した.
著者
佐川 馨
出版者
秋田大学教育文化学部総合教育実践センター
雑誌
秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要 (ISSN:13449214)
巻号頁・発行日
no.28, pp.33-43, 2006-04

本研究では,秋田県の学校音楽教育における「日本の音楽」の指導に関する教師の意識,授業での取り扱い,和楽器や指導資料の整備状況等についてアンケート調査を行った. その結果,秋田県においては「日本の音楽」の指導を好意的に捉えている教員が多く,「日本の音楽」に関する自分自身の知識・技能を高めたいと願っていることが分かった.また,授業での取り扱いは多いが,指導にあたっては自分の音楽経験に自身がもてず,苦手意識をもっていること,評価するための知識や音楽的感性などが充分ではなく,生徒の変容を的確に捉えられていない状況にあること,指導や教材研究に必要な和楽器や資料の整備が大きく遅れていること,などの問題点が明らかとなった.
著者
松本 奈緒
出版者
秋田大学教育文化学部附属教育実践研究支援センター
雑誌
秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要 (ISSN:13449214)
巻号頁・発行日
no.34, pp.57-70, 2012-05

本研究では,学習者の認知に着目し,自主的学習を促進するデジタルコンテンツを用いた秋田の盆踊りの学習において,学習者の認知の特徴と変化について明らかにすることを目的とした(対象は大学生).方法については,数学科教育の分野でメタ認知を促進するために用いられたふきだし法(亀岡,1992;1996)を体育科教育分野に応用し,学習者が盆踊りを学習する際の認知を測る調査紙として用い,ふきだしに学習者が記入した自由記述データをカテゴリー化しマッピングすることを行った抽出したデータは全335回答であり,1時間目は84回答,2時間目は52回答,3時間目は84回答,4時間目は115回答であった.1時間目には,動きの特徴を客観的に述べる記述(36回答),DVDで学習した衣装・装束について(8回答)盆踊りの一般的知識について(6回答)の認知記述が多く,2時間目には動きの特徴を客観的に述べる記述(17回答)だけでなく,動きのポイントや特徴を意識する認知記述が(31回答)増えたさらに3時間目,4時間目には動きのポイントや形容詞や動詞などで動きを意識する認知記述(3時間目は48回答,4時間目は72回答)が増え,3時間目よりも4時間目の方が学習者がより詳細な動きの特徴を抽出し意識できていることが明らかになった.このことから,本実践により,学習者の認知カテゴリーは学習が進むにつれて多種になり,動きを客観的に捉えることから,運動の行為者として一人称で運動を捉え,詳細にわたって動きを意識し運動のポイントを整理できるように変化したことが分かった.
著者
長澤 光雄
出版者
秋田大学
雑誌
秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要 (ISSN:13449214)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.43-51, 2002-03

スポーツや体育関連資料をもとにして,体育の学習内容としてのターゲット型ボールゲームに関し検討をした.そして,ボールゲームを適切に4類型化すると,ゴール型,ネット型,ベース型, ターゲット型となった.ターゲット型のゲーム理念を考察すると,自己決定の重要性,ボ-ル等を送り出す正確性,そして数を競うことと考えられる. このボールゲームの特性には,比較的軽運動であり,結果に対する洞察力が必要とされ,セルフジャッジが可能で,安全性が高いことがあげられる.このように4類型化した場合,体育の学習内容には,ターゲット型ボ-ルゲームが含まれていないことになる.ターゲット型のゲーム理念と運動特性を踏まえると,学習内容として価値があることが明らかとなった.ただし,比較的軽い運動が主体であることから,体力向上効果は直接には期待できない.
著者
渡部 育子 坪野谷 和樹 三森 朋恵
出版者
秋田大学
雑誌
秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要 (ISSN:13449214)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.99-108, 2009-05-30

本稿は歴史における体験学習をめぐる考察と,中学校社会科の歴史分野における教材開発について述べるものである.歴史の体験では,過去の時代を体験するという,現実には不可能なことを"体験"することになる.不可能を可能にするためには,その時代に関する総合的な知識を習得していることが不可欠の要素となる.また,体験学習では,農山漁村体験や社会体験のように,場の設定が必要である.歴史における体験学習の場としては遺跡があげられる.本稿で紹介する教材では,秋田県大仙市の払田柵跡を体験学習の場に設定した.地域学習の意義と体験学習の意義を高めるために,ゲーミング・シミュレーションの手法を用いた.わが国の律令国家が成熟する9世紀初頭の時期の時代の全体像を見据えながら,秋田という日本列島を構成する一地域の人々の生活について,ゲームの世界で体験させる試みである.
著者
柴田 健 SHIBATA Ken
出版者
秋田大学教育文化学部附属教育実践研究支援センター
雑誌
秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要 (ISSN:13449214)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.203-212, 2016-03-31

スクールカウンセラーの学校教育への浸透に伴い,学校教育の「心理主義化」が問題となっている.2011年3 月に発生した東日本大震災に伴い,秋田県は多数の被災転校生を受け入れることとなり,これをきっかけに急激な「心理主義化」が進んだ.被災転校生には「心の傷」があるという言説が流布し,学校に緊急スクールカウンセラーが導入され,被災転校生のカウンセリングや教員へのコンサルテーションが行われることとなった.筆者は緊急スクールカウンセラーの一人として,教員へのコンサルテーションを中心に活動した.コンサルテーションを行うに当たっては,「心の傷」言説に与することなく,転校生受け入れの際に教員が行った活動や工夫を明らかにするというインタビュアーの役割を取った.本稿では,3 つのコンサルテーション活動について報告し,社会構成主義的心理療法の観点から考察を行った.
著者
方 銘 石川 三佐男
出版者
秋田大学
雑誌
秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要 (ISSN:13449214)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.153-169, 2008-05

近年の中国古代文学研究は出土文献の大量発見と相侯って、学説の見直しや再検討が必要であるなど、大きな変革期を迎えている。こうした変革期にあって被招聘人・方銘氏と招聘人・石川三佐男は十年余に渉って学術交流を行ってきた。このたび当該の問題について共同研究を行う運びとなった。方銘氏招聘に際しては共同研究(日中共同日本アジア文化研究‐近年の出土文献と戦国文学‐を推進する)を目的とし、身分は特別公開講演会講師(秋田大学を会場に学生・教職員・一般市民を対象とする特別公開講演会を行う)とした。招聘費用は招聘人の研究経費を充てることとした。平成十九年十二月十五日、秋田大学を会場に「中国文化と日本文化への誘い」と題する中国甘粛省・秋田県・中国出土資料学会・秋田大学特別連携講演会が開催され、方銘氏の「近年の出土文献と戦国文学」と題する講演が行われた。他には甘粛省考古文物研究所副研究員・趙建龍氏の「シルクロード周辺の歴史と文化」と題する講演と東京大学東洋文化研究所教授・平勢隆郎氏の『亀趺と茨城の文化および秋田のことなど」と題する講演も行われた。聴講者は百七十余名に及び、得難い知見や感動を共有し合うことができた。本研究は方氏の講演内容を基調とし、これに東京大学及び大阪大学での資料調査や学術交流による共同研究の成果を加筆・増補して成っている。要点の第一は、出土文献と孔子の地位の再確認。ここでは近年の出土文献の中に『易伝』『魯穆公問子思』『窮達以時』『五行』『唐虞之道』『忠信之道』『成之間之』『尊徳義』『性自命出』『六徳』『上海博物館蔵戦国楚竹書』『孔子詩論』『論語』等々、孔子の歴史的地位を示す重要資料が含まれていることから、戦国文学を研究するには孔子から着手しなければならない。孔子は春秋末期の人だが春秋以前の中国文化集大成者であり、戦国文化の創始者である。戦国文学は孔子と切り離すことができない、と指摘している。第二は、出土文献と孔子の大同理想と公羊三世の学説との関係。ここでは孔子は『礼記』礼運篇の中で「大同」の理想を説いている。大同は万民がすべて平等で民主政治が行われることを指していう。孔子が尭と舜と禹の聖治をほめたたえたのは彼らの統治が民に奉仕することを賞賛するためである。現代人は孔子が「周礼」を回復しようとしたと強調するが、周礼の特徴は「小康」の政治であり、これは民主政治に反するものである。孔子の最終理想は大同を実現することにある。彼は礼楽を破壊した政治環境の中で「周礼」の回復を図ることを通じて大同の理想を実現する基礎を積み上げようとしたのである。孔子の立場から言えば先に大同があり、その次に小康、その次に乱世、これは社会が自覚的に体験する退化の必然である。乱世から直接太平を実現することはあり得ない。変化の過程を経過する必要がある。そこで孔子は社会の退化を救うためにはまず小康をめざし、それが実現すれば太平が可能になると考えた。孔子の乱世から小康へ、小康から大同へという考え方は一種の科学的思考であり、人類の内心にも合って近代的人文精神が目指す社会発展の理想にも合致している。その意味では孔子は人類の本当の人権、平等、自由、博愛、独立を実現することを希求した偉大な学者である、という。第三は、出土文献と孔子の完全無欠な審美思想についての新見解。ここでは孔子の視点からすると審美追究は人類究極の理想と合致し、また「六経」(易経・書経・詩経・春秋・礼記・楽経)は普遍的人文精神を貫徹している。聖人を尊び六経を学ぶのは一種積極的な価値がある。そのため戦国時代に醸成された征聖宗経の出発点は人を慈しむことに発し、その客観的効果は文芸作品に人道的配慮を持つようにさせたのである。その意味でも審美追究の出発点と客観的効果には積極的意義がある、と指摘している。第四は、出土文献の中には山東臨沂銀雀山漢墓出土『晏子』、長沙馬王堆漢墓出土『黄帝四経』、同『老子』甲・乙本等々、戦国諸子の文献がたくさん含まれている。いっぽう『漢書』芸文志は『黄帝四経』『荘子』『道徳経』等をすべて道家に組み入れている。しかし出土文献に照らして考えると老子の学説は干渉主義と自由主義を兼ねているのに対し、荘子の学説は干渉主義を除けばむしろ自由主義を容認している。黄老学説の趣旨は指導者に無為の方法を用いて民を統治することを教えるが、荘子は民に無為の方法を用いて指導者の統治から逃れることを教えた。人民本位の視点からすれば、荘子と孔子及び儒家の立場は一致し、老子と法家は一致する、と述べている。第五は、出土文献と賦の内包と外延。戦国時代の「賦」の作家では宋玉が有名である。一九七二年、山東省臨沂銀雀山漢墓から「唐革」と題する竹簡二十篇二百字余りが発見された。「革」は「勒」と意味が通じる。唐革はつまり「唐勒」である。「唐革」はあるいは「唐勒賦」の逸篇であるかも知れない。「唐革」の賦篇は欠落があるが、対句や形容の修辞から見ると散句に属し、屈原の作品や荀子の賦にいう助字「兮」の用法とも異なっている。形式の特徴から見ると『文選』や『古文苑』に収録されている宋玉の諸作とよく似ている。これは宋玉の時代に「高唐賦」や「女神賦」のような優れた作品を創作する環境が整っていたことを示している。同時に「賦興楚盛漢」(賦は楚の国で興って漢代に盛んになった)という伝承の正当性を示している。その意味でも「唐勒賦」の発見は中国文学史上の「賦」に関する研究に重要な意味を投げかけている、と述べている(この指摘は「上海博物館蔵戦国楚竹書」にはある植物をテーマに据えた「賦篇」が含まれていると伝えられることからも看過できないものがある。「賦篇」の早期公開を切望してやまない)。
著者
徐 志嘯 石川 三佐男
出版者
秋田大学教育文化学部
雑誌
秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要 (ISSN:13449214)
巻号頁・発行日
no.26, pp.89-99, 2004-04

本研究は平成十五年度秋田大学教育改善推進費の助成を得て行った合作研究「日本亜州文化研究」の成果である。それを踏まえての徐による秋田大学教育文化学部における学術講演、二十日余に及ぶ徐と石川の意見交換が基本になっている。ちなみに本論考で扱った赤塚忠先生は、石川三佐男の大学院時代の指導教官である。東京大学教授・日本中国学会理事長等を歴任されるなど、日本を代表する中国思想・哲学・文学研究者として世界的に知られる。本論考の主な内容は以下の通りである。一、楚文化の起源とその特徴 : 1、特有の楚文化、2、楚文化形成の原因、3、楚文化を切り開く段階、4、楚庄王と楚文化の繁盛、5、呉起変法と楚文化の変化、6、楚文化の特徴と歴史中の位置、二、赤塚忠先生の楚辞研究 : 1、赤塚先生について、2、赤塚忠先生の楚辞研究の内容と方法、3、赤塚先生の楚辞研究の特点と貢献
著者
毛利 春治 林 信太郎 浦野 弘
出版者
秋田大学
雑誌
秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要 (ISSN:13449214)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.105-112, 2005-04-28

サイエンス・パートナーシップ・プログラム事業の教育連携講座として,「チョコレートマグマを使った火山実験教室」を実践した.講義形式の授業,演示実験,実物標本の提示,噴火映像,キッチン火山学実験など,多彩な方法を導入し,生徒参加型の授業を構成した.生徒の設問への解答や実験ノート,感想について分析した結果,今回の教育連携講座は短時間にも関らず十分な成果を上げることができたと評価できる.
著者
北島 英樹 武田 篤
出版者
秋田大学
雑誌
秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要 (ISSN:13449214)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.75-87, 2009-05-30

近年,AAC(AugmentativeandAlternativeCommunication)が注目されるようになり,自閉症児に様々なAAC手段を活用したコミュニケーション指導が行われるようになってきたそこで本研究では,特別支援学校の教員を対象に,自閉症児のコミュニケーション能力を高めるために,どのようなAAC手段を活用しているか,また,指導にあたる教員のAACに関する意識について調査をすることとした.結果は以下の通りである.1)自閉症児へのコミュニケーション指導は,小学部・中学部・高等部のいずれの学部でも,特定の時間を設けて指導するよりは学習全般をとおして行っていた.2)教員が有効と思うAAC手段としては,絵や写真カードは多かったが,マカトンサインやVOCAは少なかった.有効と思うこれらのAAC手段について,学部の問に差を認めなかった.3)自閉症の教育を推進する特別支援学校では,他の学校に比べ,教員のAACに関する知識や理解も高く,積極的な活用が行われていた.これらの結果をもとに,AACを活用した自閉症児へのコミュニケーシヨン指導のあり方と課題について検討した。"In recent years , the Augmentative and Alternative Communication(AAC) technique is drawing increasing interest , and various communications training programs applying this technique are gradually being carried out for autistic children. In this study , a survey was conducted on special support schools teachers to investigate the AAC methods applied to enhance communication skills in autistic children , and the views of teachers on AAC. The following are the results.l)In elementary , junior high , and high school , communication training for autistic children is generally carried out in all classrooms , instead of setting aside a special class for such training.2)ACC methods which teachers consider effective mostly use drawings , photos , and character cards. Not many gave Makaton sign and Voice output communication aid as effective . No significant differences were found between the different grades regarding the ACC methods which the teachers consider useful.3)Compared to other schools , teachers at special support schools which promote education for autistic children have better knowledge and understanding of AAC , and carry out AAC related activities keenly.Based on these results , the ideal methods of teaching communication skills to autistic children using AAC and the tasks involved were reviewed."
著者
外池 智
出版者
秋田大学
雑誌
秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要 (ISSN:13449214)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.11-24, 2012-05-31

本研究は,2009-2011年度の採択された科学研究費補助金基盤研究(C)「地域における戦争遺跡の複合的・総合的アーカイブと学習材としての活用」の総括の一部を報告するものである.本研究では,2007・2008年度の報告を踏まえ,まず現在の全国における戦争遺跡について,特に文化庁を中心とした「近代化遺産総合調査」による取り組みを整理するともに,全国における戦争遺跡の指定・登録の現状とその類型的分析を試みた.さらに現在は文化財としての指定・登録が全くなされていない秋田県を事例として取り上げ,県下の戦争遺跡を抽出するとともにその類型的分析を行った.また,今回は戦争遺跡を活用した実践的取り組みとして,秋田大学における「社会科巡見」で取り組んでいる実践事例を紹介した.This research is 2009-2011 Auxiliary gold research adopted in fiscal science research (C) in "utilization as a complex and comprehensive archive of the war-related sites in the region and learning materials" part of the summary report. In this study, 2007-2008 Modernization of legacy general survey based on the report of the fiscal year, first with cultural affairs especially about the war-related sites in the current national efforts to organize at least, tried to present the war-related sites in the country of registration and its typological analysis. More featured registered and designated as important cultural assets was not made at all now Akita Prefecture as an example, went to extract the war ruins of the prefecture with its typological analysis. Also introduced practices working in "social studies fieldwork" in Akita University as a pragmatic approach this time utilizing the war-related sites.