著者
渡邊 恭良 倉恒 弘彦
出版者
日本神経治療学会
雑誌
神経治療学 (ISSN:09168443)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.40-45, 2016 (Released:2016-05-20)
参考文献数
16

Chronic fatigue syndrome/myalgic encephalomyelitis (CFS/ME) is a disease characterized by chronic, profound, disabling, and unexplained fatigue. Although it is hypothesized that inflammation in the CNS is involved in the pathophysiology of CFS/ME, there were no direct evidence of neuroinflammation in patients with CFS/ME. Activation of microglia and/or astrocytes is related to neuroinflammation. Our recent PET study successfully demonstrated that neuroinflammation (activation of microglia and astrocytes) is present in widespread brain regions in patients with CFS/ME, and is associated with the severity of neuropsychological symptoms. Evaluation of neuroinflammation in patients with CFS/ME may be essential for understanding the core pathophysiology, as well as for developing the objective diagnostic criteria and effective medical treatments for CFS/ME. We here describe related pathophysiological findings and topics, and mention the diagnostic and therapeutic attempts through these findings in Japan.
著者
倉恒 弘彦
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.222-227, 2013 (Released:2017-02-16)
参考文献数
17

最近,慢性疲労症候群(CFS)と機能性身体症候群(FSS)との関連について取り上げられる機会が増えてきた。CFS は 1988年に米国疾病対策センター(CDC)が発表した病名であり,長期にわたって原因不明の激しい疲労とともに体中の痛みや思考力低下,抑うつ,睡眠障害などがみられるために日常生活や社会生活に支障をきたす病態の病因を明らかにするために作成された疾病概念である。一方,FSSは明らかな器質的原因によって説明できない身体的訴えがあり,それを苦痛として感じて日常生活に支障をきたす病態を1つの症候群としてとらえたものであり,CFSの概念が発表される以前より報告されてきた。1999 年,Wessely らは FSSに含まれるCFSや過敏性腸症候群などを調べてみると,これらには診断基準や症状,患者の特徴,治療に対する反応性などの点において共通性が多く,それぞれの病名にこだわるより,全体を1つの概念でとらえて分類するほうが建設的であると提唱している。そこで,本稿ではCFS と FSSとの関連を説明するとともに,最近明らかになってきた CFSの脳・神経系異常や病態生理について紹介する。
著者
中富 康仁 倉恒 弘彦 渡辺 恭良
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.19-25, 2018-01-01

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)は,慢性で深刻な原因不明の疲労,認知機能障害や,慢性的で広範な疼痛を特徴とする疾患である。われわれは世界で初めてME/CFS患者における脳内神経炎症をポジトロンエミッション断層撮影(PET)によって明らかにした。神経炎症は患者の広範な脳領域に存在し,神経心理学的症状の重症度と関連していた。現在,診断法および治療の開発につなげる研究がスタートしている。
著者
倉恒 弘彦
出版者
日本神経治療学会
雑誌
神経治療学 (ISSN:09168443)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.164-169, 2021 (Released:2022-01-19)
参考文献数
12

We describe here our results of epidemiological survey for fatigue in Japan, and our recent findings found in chronic fatigue syndrome (CFS) patients. In 1999, our epidemiological survey of 3,015 Japanese people revealed that 35.6% of them had chronic fatigue and 16.8% had a deterioration of daily physical activities. Eight people (0.26%) were diagnosed as CFS according to CDC 1994 criteria. Our recent studies revealed that the existence of neuroinflammation in patients with CFS by the positron emission tomography. We also found that CFS patients exhibited significant differences in intermediate metabolite concentrations in the tricarboxylic acid and urea cycles, and that the identification of actin network proteins in circulating extracellular vesicles were useful as the blood biomarkers for CFS.
著者
倉恒 弘彦 近藤 一博 生田 和良 山西 弘一 渡辺 恭良 木谷 照夫
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.90, no.12, pp.2431-2437, 2001-12-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
5
被引用文献数
2 2

慢性疲労症候群とは,原因不明の激しい全身倦怠感と共に微熱,頭痛,リンパ節腫脹,脱力感,関節痛,思考力の低下,抑うつ症状,睡眠異常などが続くため,健全な社会生活が送れなくなるという病気である.化学的,生物学的,社会心理的なストレスが誘因となって引き起こされた神経・内分泌・免疫系の変調に基づく病態と思われるが,潜伏感染ウイルスの再活性化やサイトカインの産生異常などが深くかかわっている.
著者
倉恒 弘彦 西牧 真里 志水 彰
出版者
関西福祉科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

不登校児を対象に馬介在療法を実施、(1)自覚症状、(2)心理学的評価、(3)自律神経系評価、(4)睡眠、覚醒リズムの評価などによって科学的に効果を検討した。また、精神作業疲労負荷健常者における乗馬の疲労回復効果を検証するとともに、有酸素運動や馬の常歩(なみあし)運動の動きをするジョーバ(松下電工)による疲労回復効果についても比較検討した。不登校児を対象に1回/週x5週間で実施した12名の馬介在療法の結果では、気分の落ち込み、イライラ感、不安感、緊張に明らかな改善がみられた(p<0.001)。心理評価では、以前に比較して表情が明るくなる、家庭での会話が増える、日常生活における行動量が増加するなどメンタルヘルスの向上が認められた。また、自律神経系評価では乗馬後は交感神経系の緊張が緩和していることが確認された。一方、5日間連続の馬介在療法に参加した3名の不登校児においても、初日の結果では乗馬後自律神経系の緊張が緩和される傾向がみられた。残念ながら、5日間連続して参加が可能であったのは1名のみであったが、睡眠に関して中途覚醒数が減少し睡眠効率の改善が認められた。疲労付加健常者の検討では、有酸素運動(散歩)群でも疲労度、活力、緊張、意欲の改善効果がみられたが、乗馬群は疲労度、気分の落ち込み、イライラ感、活力、不安感、緊張、意欲、体調において有意に改善がみられ、乗馬は有酸素運動以上の改善効果がみられることが判明した。また、馬の常歩(なみあし)運動の動きをするジョーバ(松下電工)の検討では、活力、不安感、緊張の自覚症状は乗馬群のみで改善がみられたが(p<0.01)、気分の落ち込み、イライラ感、意欲の程度、体調はジョーバでも改善がみとめられ(p<0.01)、自宅から出ることが難しい不登校児に対する1つの方法になりえる可能性が考えられた。
著者
倉恒 弘彦
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.11, pp.1002-1009, 2014-11-01 (Released:2017-08-01)

慢性疲労症候群(CFS)という疾病の病因・病態がしだいに明らかになってきた.CFSでは,明らかな原因がみつからないにもかかわらず,長期にわたって激しい疲労とともに微熱,頭痛,筋肉痛,関節痛,脱力感,思考力低下,抑うつ,睡眠障害などがみられ,多くの患者が日常生活や社会生活に支障をきたしている.長期にわたり外出することも困難で,ほとんど自宅内で生活をせざるを得ない患者も多く,CDC(米国疾病予防管理センター)はCFSを克服すべき重要な疾患の一つととらえてその対策に取り組んでいる.われわれは,CFSは感染症を含む種々の生活環境ストレスや遺伝的な要因がきっかけとなった神経・内分泌・免疫系の変調であり,内在性のウイルスの再活性化に伴い産生されたサイトカイン(TGF-βやインターフェロンなど)による脳・神経系の機能障害であるという仮説を1998年に発表し,病因・病態の解明に向けた取り組みを進めてきた.ごく最近,CFS患者に対して脳内ミクログリアの活性化を直接調べることのできるポジロトンCT検査を行ったところ,CFSでは視床,中脳,橋などの脳幹部や海馬,帯状回,扁桃体などにおいて神経炎症が存在し,神経炎症の程度と痛み,抑うつ,認知機能障害の程度が相関していることを世界で初めて明らかにした.そこで,本稿では最近明らかになってきた慢性疲労症候群における病因・病態を紹介するとともに,CFSに陥るメカニズムについて解説する.
著者
倉恒 弘彦
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.11-18, 2018-01-01

本稿では,プライマリ・ケアを担っている医療機関において利用されることを目的に厚生労働科学研究班より2016年3月に改訂された筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)臨床診断基準を紹介するとともに,ME/CFS診療が行われている代表的な医療機関において現在実施されている治療法やその予後についても解説する。
著者
渡邊 恭良 倉恒 弘彦
出版者
日本神経治療学会
雑誌
神経治療学 (ISSN:09168443)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.40-45, 2016

Chronic fatigue syndrome/myalgic encephalomyelitis (CFS/ME) is a disease characterized by chronic, profound, disabling, and unexplained fatigue. Although it is hypothesized that inflammation in the CNS is involved in the pathophysiology of CFS/ME, there were no direct evidence of neuroinflammation in patients with CFS/ME. Activation of microglia and/or astrocytes is related to neuroinflammation. Our recent PET study successfully demonstrated that neuroinflammation (activation of microglia and astrocytes) is present in widespread brain regions in patients with CFS/ME, and is associated with the severity of neuropsychological symptoms. Evaluation of neuroinflammation in patients with CFS/ME may be essential for understanding the core pathophysiology, as well as for developing the objective diagnostic criteria and effective medical treatments for CFS/ME. We here describe related pathophysiological findings and topics, and mention the diagnostic and therapeutic attempts through these findings in Japan.
著者
山口 浩二 笹部 哲也 倉恒 弘彦 西沢 良記 渡辺 恭良
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.533-542, 2008-06-15

はじめに 「疲労」は誰もが日常生活の中で感じることのある一般的な感覚で,また大多数の疾患において程度の差こそあれ経験する症状の1つであり,心身の疲弊を自らに知らせ,休息を求める生体のアラームである。ありふれた感覚ではあるが,今まで,医学の対象として重要視されていなかった。その理由として考えられることは,疲労が多数の因子が関与した複雑な現象であること,個人により,また同一個体でも状況により感じ方が異なることにより,客観的評価が困難で,科学の対象として扱い難いということに帰している。また,疲労を表現する言葉が,関西では「しんどい」というが,関東では「だるい」,九州では「きつか」,東北では「こわい」というように,狭い日本の国内においても種々の表現があり,その意味する内容も微妙に異なっていることも客観的評価を困難にしていると思われる。このように疲労は主観的な感覚であるため,これまでの評価は各種問診表やvisual analogue scale(VAS)を用いた自己申告式のものが中心となっており,評価として十分に耐え得るものとは言い難かった。一方,なんらかの課題を行った際の反応時間の遅延や,誤反応の増加,多重注意の困難といった疲労時におけるパフォーマンスの低下をもって疲労を評価する手法もあるが,疲労感とこれらパフォーマンスの低下が乖離することが多々あることも我々は日常生活でよく経験し,こういった事情が疲労の客観的評価を困難にしている。 ところで,慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome;CFS)は,ウイルス感染やストレス曝露を機に発症する疾患であるが,高度の全身倦怠感をはじめ,微熱や全身の疼痛,脱力感などの身体症状や,思考力・集中力低下,抑うつなどの精神症状,睡眠障害などの症状が長期間持続し,健全な社会生活が困難となる症候群で,今もって原因は不明とされている。診断は日本疲労学会による診断指針や米国CDCの診断基準に基づくが,いずれにおいても,高度の疲労により日常生活に支障を来していることが診断の必要条件となっている。しかし,高度の疲労か否か,疲労を訴える患者の疲労を客観的に評価することは難しい。 そこで,本稿では,今まで定量化手法を持ち合わせていなかった疲労という現象に対し,加速度脈波を用い,自律神経機能や複雑系の観点から,疲労を定量化する試みについて,CFSを例に紹介することとし,最後にいくつかの慢性疾患の疲労についても検討した結果を例示する。
著者
倉恒 弘彦
出版者
医学書院
雑誌
公衆衛生 (ISSN:03685187)
巻号頁・発行日
vol.77, no.8, pp.666-670, 2013-08-15

疲労感,倦怠感とは 疲労感や倦怠感は,人間にとって痛みや発熱などと同じように体の異常や変調を自覚するための重要なアラーム信号の1つであり,健康な人でも,激しい運動や長時間の労作を行った場合,また過度のストレス状況に置かれた場合などに,「だるい」,「しんどい」という感覚でそれを自覚し,体を休めるきっかけとなっている. 激しい運動や長時間の作業をしていると,体の細胞レベルではたんぱく質や遺伝子に傷が増えてくる.限界以上に増えると細胞は破壊されるので,傷を修復する必要がある.しかし,活動を続けたままでは細胞内のエネルギーをタンパク質や遺伝子の修復をするために利用できない.そこで,ヒトは疲労感の助けによって休息を取り,体を元の健康な状態に戻しているのである.
著者
渡辺 恭良 倉恒 弘彦
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.5-9, 2018-01-01

1990年に木谷照夫,倉恒弘彦らにより日本第一号の患者が発見された筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群は,慢性で日常生活に支障をきたす激しい疲労・倦怠感を伴う疾患であり,1988年に米国疾患管理予防センターが原因病原体を見出すための調査基準を作成し,世界的にその診断基準が広まったものである。かなりのオーバーラップがみられる疾患に線維筋痛症があり,また,機能性ディスペプシアなども含めて,機能性身体症候群という大きな疾患概念も存在する。客観的診断のためのバイオマーカー探索も鋭意行われ,わが国におけるPET研究によって,脳内のセロトニン神経系の異常やさまざまな症状と神経炎症の強い関わりなどが明らかになってきた。一方,このような最新の知見を踏まえた治療法の開発研究も鋭意行われている。
著者
倉恒 弘彦
出版者
渋沢栄一記念財団
雑誌
青淵 (ISSN:09123210)
巻号頁・発行日
no.785, pp.19-21, 2014-08