- 著者
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志田 基与師
- 出版者
- 数理社会学会
- 雑誌
- 理論と方法 (ISSN:09131442)
- 巻号頁・発行日
- vol.3, no.2, pp.2_101-2_114, 1988-10-09 (Released:2009-03-06)
- 参考文献数
- 28
- 被引用文献数
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2
権力を,権利や意思という概念と関連させて考察するためには,社会的決定関数という社会装置に基づくのがよい.社会的決定関数は,社会状態を,社会にたいして開かれた機会集合から人々の選好の組を参照しつつ,一義的に導き出す手続きであり,その機能に着目すれば制度と等置できる.権力とは,社会的決定の中に自らの意思を貫徹する能力と理解できるから,この関数の入力の一つである意思と出力である社会的決定とを比較することにより,その記述を与えることができる.たとえば,他者の意思がどんな配置になっていようと特定の社会状態を帰結できる行為者は一定の権力を有しているといえよう.ある個人の選好と社会的決定の一致の度合から,われわれは,狭義の権力,権限,権利という次第に強さを増す一連の権力概念を提案した.ところでこの入出力の対応は制度である社会的決定関数によって定まっているから,権力は制度の属性として記述を与えられることになる.それゆえ,権力は制定の一部分である.それは,社会的決定関数が,幾分かは個別の個人行為者による部分的な決定へと分解可能なものであることに基づいていて,われわれはそこに権力関係を読み取るのである.権力の布置は,したがって,人々の選好の布置に基づいているわけではなく,社会的決定関数の関数形の一部であり,これを選好の布置に依存すると考えるのはいわゆるカテゴリー錯誤を犯すものである.権力関係はまた社会的決定関数のもつ形式的特性によって制約をうけるし,逆に権力関係のあり方が社会的決定関数に制約を加えることもある.その例としてSenのLiberal Paradoxと戦略的操作の可能性が挙げられる.