著者
森本 耕三 土方 美奈子 Guo Tz-Chun 宮林 亜希子 山田 博之 慶長 直人
出版者
COSMIC
雑誌
呼吸臨床 (ISSN:24333778)
巻号頁・発行日
vol.4, no.6, pp.e00103, 2020 (Released:2022-10-22)
参考文献数
10

原発性線毛機能不全症候群(PCD)は主に常染色体潜性またはX連鎖性遺伝形式をとる先天性疾患の1つで,気道上皮細胞などに存在する運動性線毛や精子鞭毛の機能的障害を来し,臨床的には副鼻腔気管支症候群の特徴や不妊症,内臓逆位など呈する症候群をいう。気道クリアランスの障害により進行例では気管支拡張の進展により呼吸不全を来す。原因遺伝子はこれまでに40以上が知られており,近年新たな遺伝子異常の報告が続いているが,推測される全遺伝子異常の70%までしかカバーできていないとされている。診断には電子顕微鏡(electron microscopy:EM)検査や鼻腔NO測定など専門的な検査を必要とするため,診断が難しく,多くの患者が未診断の状態にあると考えられている。システマティックレビューから本邦ではこれまで主にEMのみを用いた診断が行われており,その解釈も欧米とは異なることが明らかとなった。われわれはPCD専門外来を開設した。これまでにびまん性汎細気管支炎でマクロライド療法不応例とされていた症例にDRC1の広範囲欠失をもつPCDが存在していることを報告した。アジア人に最適化した遺伝子パネルの開発を含め診断体制の確立により本邦の実態を明らかとし,患者支援活動に繋げることが望まれる。
著者
東本 有司 伊藤 秀一 山縣 優子 石口 正 慶長 直人
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

正常ヒト気管上皮細胞にアデノウイルスE1Aをトランスフェクションして、トランスフォームすると、炎症性サイトカインや接着因子の発現が増強されることがわかった。一方、蛋白分解酵素阻害物質のSLPIやelafin/SKALPの発現は著明に抑制することも分かり、アデノウイルスE1Aは肺の炎症を増強するとともに好中球エラスターゼなどの蛋白分解酵素による肺障害を増強させて、肺の防御免疫機構を破綻させ、COPDの病態に関係している可能性が考えられた。また、アデノウイルスE1Aは組織のリモデリングに関係するTGF-βやTIMP-1の発現を増強させることも分かった。一方で、アデノウイルスE1Aは肺胞上皮細胞においてNO産生を抑制した。これは抗ウイルス作用をもつNO産生を抑制することでウイルスが組織内に存続(潜伏感染)できるのではないかと考えられた。また、実際のCOPD患者さんとコントロール患者さんを比較すると、血清TIMP-1濃度は増加しており、細胞実験の結果と類似していた。以上の結果から、アデノウイルスE1Aをトランスフェクションした気管上皮細胞は実際の臨床研究の結果とよく一致しており、アデノウイルスE1Aをトランスフェクションした細胞はCOPDの臨床病態をよく反映していると思われる。これは我々が今回行ったCOPD患者の血清中TIMP-1濃度の測定でも裏付けられている。この血清TIMP-1濃度は気道閉塞のバイオマーカーとしても有望であると思われる。以上の結果から、アデノウイルスE1A遺伝子でトランスフォームした細胞から得られた結果はCOPDの病態解明に役立つとともにバイオマーカーの検索などに利用すれば、臨床に応用できる可能性が示唆された。
著者
慶長 直人
出版者
Japan Society of Sarcoidosis and other Granulomatous Disorders
雑誌
サルコイドーシス/肉芽腫性疾患 (ISSN:13450565)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.13-19, 2001

サルコイドーシスには, 病型や発症頻度に明らかな人種差があり, 古くからヒト白血球抗原であるHLAとの関連が報告されてきた. 近年のヒトゲノム計画の進行に伴い, 疾患感受性遺伝子の研究は新しい局面を迎えつつある. 新たに研究を始める研究者, 知識を深めたい臨床家へ向けて, HLAとの関連性から真の疾患感受性遺伝子を証明することと, HLA以外の候補遺伝子を検討することのための方法論につき, 我々の経験を踏まえ, 現状を報告したい.