著者
岩室 史英 舞原 俊憲 太田 耕司 戸谷 友則 岩室 史英
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究課題では、広視野の主焦点を有するすばる望遠鏡に、多天体ファイバー分光器を開発して搭載すること、およびそれを用いて、本研究題目にかかげた「初期銀河と原始クェーサーの形成過程の研究」を行っていくことを目標にして、FMOSと呼ばれる新しい機能を備えた分光器システムの開発的研究を進めてきた。この分光観測装置は、可視域の0.9ミクロン帯から1.8ミクロンまでの近赤外線スペクトルを、約400本の光ファイバーを用いて大型分光器に導入するもので、研究計画では、赤方偏移の値が2〜5以上の比較的宇宙のはじめに存在している銀河とクェーサーなどを、観測目標にしながら、予定されていた試験観測期間にそれらの形成過程の糸口を得ることを想定していた。実際にFMOSを搭載する補正光学系や姿勢制御機構を用いた試験観測を2度実施したが、主焦点制御機構の不具合や、複雑な分光器システムの調整に予想以上の時間が必要となったため、銀河やクェーサーをターゲットにした試験観測自体は少し実施時期が遅れてきている。しかし、広視野かつ多天体分光機能をもつFMOSに対する今後の研究全般に対する期待は大きく、この装置をつかった色々な研究課題の検討もまた、予想以上に進んできた。したがってこの研究成果報告では、FMOS装置の開発的研究の進捗に関する詳しい報告と、その装置を大型望遠鏡の主焦点に搭載して行うことのできる非常に先進的な観測の計画内容についての報告を主に行う。具体的には、開発的研究面では、冷却分光器の低温性能、光学系全体としての結像性能、検出器の特性とデータ取得制御、アーカイブシステムとのインターフェースなど、また観測計画の検討の面では、初期銀河の形成過程の系統的研究、ダークエネルギー探査プロジェクトの検討、などがあり、平成19年度からの本格的な観測的研究が期待できる。
著者
戸谷 友則 太田 耕司 岩室 史英 秋山 正幸 田村 直之
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

現在の最新宇宙論における重要問題はいくつかあるが、その最大のものは「宇宙のダークサイド(暗黒面)」という言葉で以下の三つにまとめることができる。すなわち、(1)宇宙を加速膨張させる「ダークエネルギー」、(2)宇宙の重力を支配する「ダークマター(暗黒物質)」、そして(3)宇宙の晴れ上がりから最初の天体形成と宇宙再電離をつなぐ「ダークエイジ(暗黒時代)」である。その中でも、ダークエネルギーは現代物理学の根源的な改訂につながる可能性すら秘めた、とくに重大な問題として認識されている。すばる望遠鏡の新観測装置FMOSを用いたバリオン振動探査計画により、このダークエネルギーに迫る事ができると期待されている。本研究の目的は、このバリオン振動探査計画のサーベイデザインを検討し、FMOS完成の際にすみやかに観測提案書を作成する準備を進める事にある。この目的のため、戸谷を中心に分光ターゲット銀河選定の手法や実現性を詳細にしらべた。「すばるディープフィールド」や、「すばるXMM-Newtonディープフィールド」と呼ばれる領域のすばる望遠鏡を中心とする膨大なデータをもとに、バリオン振動探査に使用できる銀河が十分に存在するかどうかを精査した。その結果、バリオン振動探査に十分な数の銀河があり、また、イメージングサーベイデータから測光的赤方偏移計算の手法により効率よく選択できる事も判明した。また、メンバーがハワイに集まってミーティングを開催し、FMOS装置に対する理解を深めるとともに、今後の問題点を洗い出して計画の推進に役立てた。国際的な注目も高く、国際会議で進捗状況を報告した。
著者
戸谷 友則
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

すばる望遠鏡の新観測装置FMOSを用いた大規模な高赤方偏移銀河サーベイと、それによる宇宙論、特にダークエネルギーの研究をおこなった。二年間にわたる観測を成功裏に終え、数千の銀河による赤方偏移1を越える宇宙の大規模構造を世界で初めて描き出した。サーベイの概要やカタログなどに関する論文はすでに受理済みあるいは投稿中である。また、主目的である赤方偏移空間の歪みの解析から重力理論の宇宙論的スケールでの検証を行った解析もほぼまとまり、現在論文を準備中である。
著者
戸谷 友則
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2010

大規模銀河分光サーベイによる赤方偏移歪み測定は、宇宙物理的な系統誤差が少ないダークエネルギー問題へのアプローチとして世界的に期待されている。すばるの新観測装置FMOSは、直径30分角の領域で一度に400天体の近赤外スペクトルが取得できるという大変ユニークな装置である。日英のFMOSチームを中心に、このFMOSを用いた大規模銀河サーベイ(FastSound計画)が現在検討されている。すばる望遠鏡で40晩程度の観測時間を使い、30平方度の領域で1万もの銀河のスペクトルを取得し、これによりz>~1という最遠方の赤方偏移歪みを検出し、構造形成速度を測定することで宇宙論的スケールでの重力理論の検証を行う。いよいよ23年度から、このFastSound計画が本格的にスタートし、観測が開始されてデータも取得できた。本研究費は主に旅費として使用し、日英豪に分散する研究者の相互交流と準備研究の推進が行われた。最初の試験観測データを吟味し、サーベイデザインを最終的に確定した。初期データをさらに吟味して、輝線検出法の確定など、本格的な解析作業も始められた。すでに全体の1/4ほどのデータが取得され、パワースペクトルを計算するための準備も進めた。このFastSoundプロジェクトは、実現すれば初の日本主導の宇宙論目的大規模銀河分光サーベイとなる。それを通して経験蓄積や人材育成も目指し、さらなる次世代サーベイでも日本が大きな貢献ができるような形を目指していきたい。
著者
戸谷 友則
出版者
素粒子論グループ 素粒子論研究 編集部
雑誌
素粒子論研究 (ISSN:03711838)
巻号頁・発行日
vol.101, no.6, pp.F38-F43, 2000-09-20 (Released:2017-10-02)

Ia型超新星は絶対等級が比較的均一なことから、宇宙論パラメータを決定する際の標準光源として用いられている。最近、独立な二つのグループが、z〜0.5付近の超新星の観測から、宇宙定数がゼロでない宇宙が強く示唆されるという報告がなされた。しかし、当然のことながらこれらの解析にはいくつかの注意すぺき系統的不定性が存在する。それらの例として、・ダストによる吸収 ・重力レンズ ・超噺星自体の進化 ・K補正 ・Malmquist biasなどが考えられるが、ここでは特にダスト吸収の影響が本当に観測的にチェックできているのか、あるいはまた理論的に遠方の超新星のほうがダストの吸収量が大きいということが期待されるのかどうかを議論する。
著者
戸谷 友則
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.23-29, 2007-01-05
参考文献数
12
被引用文献数
1

超高温プラズマの火の玉として誕生した宇宙は,誕生後およそ40万年で水素原子核と電子の再結合が起こり,中性化したと考えられている.しかし,現在の宇宙に存在する水素原子のほとんどは再び電離されていることが知られている.何らかの過程で再び電離状態に戻ったのである.これを「宇宙の再電離」と呼び,宇宙誕生後10億年よりは昔に起こったことが分かっているが,具体的な時期や原因は不明で,初代天体形成と関連して宇宙論の重要問題の一つである.近年,目覚ましい観測技術の進展による多面的なアプローチで,再電離の手がかりが少しずつ増えてきている.すばる望遠鏡による日本の貢献なども交えて最近の状況を紹介する.