著者
伊藤 史子 菰原 義弘 髙石 清美 本田 律生 田代 浩徳 竹屋 元裕 片渕 秀隆
出版者
日本生殖免疫学会
雑誌
Reproductive Immunology and Biology (ISSN:1881607X)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.24-31, 2014 (Released:2015-11-20)
参考文献数
9

腹水中には様々な種類の細胞が存在し,腹腔内環境を形成している。その中でもマクロファージは免疫機構の中心的役割を担い,微小環境の変化によってM1マクロファージとM2マクロファージに分化することが示されている。子宮内膜症患者では腹腔マクロファージが増加・活性化し,その発生や進展に関与すると考えられている。また,子宮内膜症が経卵管性に逆流する月経血に暴露される骨盤内に好発することから,月経血に含まれる子宮内膜組織がその発生に不可欠と考えられている。しかし,これまで腹腔マクロファージと子宮内膜間質細胞の細胞間相互作用については十分な解析が行われていない。本研究では,子宮内膜症患者の腹腔マクロファージの活性化状態について解析した。さらに,マクロファージと子宮内膜間質細胞の細胞間相互作用について,マクロファージの分化や子宮内膜間質細胞の活性化に関与するシグナル分子,さらに両細胞の産生する液性因子に注目して検討を行った。その結果,子宮内膜症患者の腹水中でM2マクロファージが有意に増加していることが明らかとなった。また,M2マクロファージと子宮内膜間質細胞の共培養実験では,両細胞のsignal transducer and activator of transcription 3,corosolic acid(Stat3)の活性化やGM-CSFなどの液性因子の産生増加,さらに子宮内膜間質細胞の増殖促進が認められた。以上のことから,腹腔内で共存する両細胞の相互作用が腹腔内環境の変化を誘導し,子宮内膜症の発生や進展が促進されることが示唆された。
著者
藤岡 周助 岡 香織 河村 佳見 菰原 義弘 中條 岳志 山村 祐紀 大岩 祐基 須藤 洋一 小巻 翔平 大豆生田 夏子 櫻井 智子 清水 厚志 坊農 秀雅 富澤 一仁 山本 拓也 山田 泰広 押海 裕之 三浦 恭子
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

【背景と目的】ハダカデバネズミ (Naked mole rat、 NMR) は、発がん率が非常に低い、最長寿の齧歯類である。これまでに長期の観察研究から自然発生腫瘍をほとんど形成しないことが報告されている一方、人為的な発がん誘導による腫瘍形成に抵抗性を持つかは明らかになっていない。これまでにNMRの細胞自律的な発がん耐性を示唆する機構が複数提唱されてきた。しかし、最近それとは矛盾した結果も報告されるなど、本当にNMRが強い細胞自律的な発がん耐性を持つのかは議論の的となっている。さらに腫瘍形成は、生体内で生じる炎症などの複雑な細胞間相互作用によって制御されるにも関わらず、これまでNMRの生体内におけるがん耐性機構については全く解析が行われていない。そこで、新規のNMRのがん耐性機構を明らかにするため、個体に発がん促進的な刺激を加えることで、生体内の微小環境の動態を含めたNMR特異的ながん抑制性の応答を同定し、その機構を解明することとした。【結果・考察】NMRが実験的な発がん誘導に抵抗性を持つかを明らかにするため、個体に対して発がん剤を投与した結果、NMRは132週の観察の間に1個体も腫瘍形成を認めておらず、NMRが特に並外れた発がん耐性を持つことを実験的に証明することができた。NMRの発がん耐性機構を解明するために、発がん促進的な炎症の指標の一つである免疫細胞の浸潤を評価した結果、マウスでは発がん促進的な刺激により強い免疫細胞の浸潤が引き起こされたが、NMRでは免疫細胞が有意に増加するものの絶対数の変化は微小であった。炎症経路に関与する遺伝子発現変化に着目し網羅的な遺伝子解析を行なった結果、NMRがNecroptosis経路に必須な遺伝子であるRIPK3とMLKLの機能喪失型変異により、Necroptosis誘導能を欠損していることを明らかにした。【結論】本研究では、NMRが化学発がん物質を用いた2種類の実験的な発がん誘導に並外れた耐性を持つこと、その耐性メカニズムの一端としてがん促進的な炎症応答の減弱が寄与すること、またその一因としてNecroptosis経路のマスターレギュレーターであるRIPK3とMLKLの機能喪失型変異によるNecrotpsosis誘導能の喪失を明らかにした。
著者
地主 将久 菰原 義弘
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

肺非小細胞癌の自然発癌モデル、ヒト検体を活用して肺非小細胞がんにおけるEGFR-TKIの治療抵抗性に寄与する免疫制御因子を検索したところ、肺腺癌においてM2マクロファージ、MDSCなど免疫抑制系ミエロイド細胞の分化・活性にかかわるシグナル群とEGFR-TKIの治療応答抑制、T790Mなど治療抵抗性遺伝子変異出現率が正の相関を示すことが判明した。さらに、肺非小細胞癌自然発がんモデルに対するCSF-1阻害剤投与により、EGFR-TKIによる効果は相乗的に増強することを解明した。一方PD-1など免疫チェックポイント経路は変化はなかった。肺腺癌における免疫制御経路を同定したうえで重要な成果である。
著者
竹屋 元裕 坂下 直実 菰原 義弘 藤原 章雄
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

クラスAスカベンジャー受容体(SR-A,CD204)欠損マクロファージ(Mφ)を用いた検討で、SR-AはTLR4のLPSとの結合を競合的に阻害し、M2 Mφの抗炎症性機能の一翼を担うことを明らかにした。急性冠症候群では、血中単球にSR-Aが誘導され診断マーカーとなり得ることがわかった。ヒト腫瘍組織の検討では、CD163陽性M2 Mφの浸潤度と膠細胞腫や卵巣癌の悪性度に相関がみられ、M2 Mφと腫瘍細胞がSTAT3を介して相互作用を示すことを明らかにした。天然化合物のcorosolic acidはMφのM2分化を抑制し、MφのM2機能を抑制することで治療効果を示す可能性が示唆された。