著者
清水 厚志
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.11-19, 2022 (Released:2022-06-02)
参考文献数
20

2003年4月14日にヒトゲノム計画完了宣言がなされてから約20年後の2022年4月1日にThe Telomere-to-Telomere (T2T) consortium によりヒトゲノム「完全」解読論文が発表された[1]。本稿では技術的限界まで精確なヒトゲノム配列を追い求めたヒトゲノム計画の国際チームがなぜ当時ヒトゲノム配列を完全解読することができなかったか、そして近年開発された様々な技術を駆使してどのようにT2T consortiumがヒトゲノム完全解読を達成したかについて概説する。
著者
清水 厚志
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

1)データベースの構築1000個のカオナシ遺伝子についてデータベースを構築し相同性のある遺伝子および他の生物種の相同遺伝子のデータをBLASTを用いて集積するシステムを立ち上げた。ヒトカオナシ遺伝子に関しては、cDNAの増幅のために必要なゲノム構造の入力を行いプライマーの設計も自動で行うシステムを構築した。設計した20個のモルフォリノアンチセンスオリゴ(MO)の配列データおよび位置の登録を行った。RT-PCRの結果やメダカ胚の画像、条件などをインジェクション機器に付属したPCからデータベースにアップロードするシステムを構築した。さらに、これらのデータをウェブブラウザーで表示できるシステム構築を行った。2)カオナシ遣伝子に対するRT-PCR及びWhole mount in situ法による発生初期ステージの発現解析メダカの発生ステージごとに受精卵を100-1000個採取しmRNAを抽出しcDNAを合成した。これらのcDNAライブラリーを用いて130個のヒトカオナシ遺伝子のメダカオルソログのRT-PCRによる発現解析を行った。これらの発現情報をもとにMOが有効な初期胚から発現している遺伝子20個をノックダウン解析の対象遺伝子とした。3)ノックダウン法による機能解析2)で選択した20個のカオナシ遺伝子についてMOを作製しメダカ初期胚に対しノックダウンを行った。その結果、脳室の肥大、発生阻害、アポトーシスなどを引き起こすMOを得ることができた。これらのことから機能推定が全くできず逆遺伝学の対象から外れているカオナシ遺伝子の中に発生に関与する遺伝子が含まれていることが確認できた。一方で、より安価にノックダウン解析を進めるためMOの他に市販されているアンチセンスオリゴであるGripNAやLNAなどを用いてノックダウン解析を行ったがMOと同様の表現型を得ることができなかった。
著者
加来 鉄平 鈴木 美威瑠 冨永 隆生 小川 暁郎 清水 厚志 渡邉 和孝 渡邉 和晃 前田 智司 松田 佳和
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.142, no.3, pp.289-293, 2022-03-01 (Released:2022-03-01)
参考文献数
11

In recent years, lifestyle-related diseases such as hypertension and diabetes have been on the rise. These conditions can cause serious conditions such as myocardial and cerebral infarctions. Therefore, proper control of blood pressure and blood glucose levels is important issues in preventive medicine. Traditional fermented foods have been shown to have various functions, and their effects on lifestyle-related diseases have attracted particular attention. In this study, we investigated the effects of fermented soybeans and rice bran (OE-1) and supplements containing OE-1 on blood glucose levels and weight changes. We identified an inhibitory effect on elevated blood glucose levels upon administration of OE-1, and this effect was thought to be due to digestive enzyme inhibition. These effects of foods containing OE-1 are expected to have a positive effect on the prevention and improvement of lifestyle-related diseases as health foods.
著者
蓑島 伸生 清水 厚志 佐々木 貴史
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

ヒトゲノムには低頻度反復配列(Low Copy Repeat;LCR)と呼ばれる塩基配列が存在する。LCRは通常の反復配列ではなく、遺伝子や偽遺伝子等の様々なユニットからなっており、進化の過程でそれらのユニットが周囲の非LCR領域も巻き込みながら、重複や逆位、欠失等の大規模変化を繰り返して形成されてきたと考えられる。LCRは、遺伝子数やDNA断片コピー数の多型(CNV;Copy Number Variation)の生成原因の一つである。CNVのうち、規模の大きなものは、DiGeorge症候群、Smith-Magenis症候群のような欠失・重複による疾患の原因ともなる。それらの疾患の原因領域にはLCRが存在している。CNVは他の遺伝性疾患や、ある種の精神疾患にも深い関連があると考えられ、昨今俄に研究が進展している。 LCRは、その複雑さ、長さのためにゲノム塩基配列のギャップの原因ともなっている。このようにCNVとそれを生じさせているLCRの研究は今後のゲノム研究の中で重要な位置を占める。本研究では、7q11.23Williams症候群領域(WBSCR)と8p23.1duplication症候群領域のLCRの構造解析を行った。これらの領域のNCBI build36のデータを用いて、詳細なコンティグマップを作成し直し、 LCRユニットの位置、長さを確定し、さらにそれぞれのLCRに含まれる遺伝子、偽遺伝子の詳細な解析を行った。ヒトと類人猿ゲノムの詳細な解析により、上記どちらの疾患ゲノム領域でもコアとなるユニットが最初に存在し、進化に伴って転移を繰り返す際に転移先周辺の配列を巻き込みLCR化させる現象が明瞭になった。また、build36でWBSCR内にあるとされたギャップは見かけ上のもので、実際にはCNV多型を持つ二つのアリルの混在によるミスアセンブルであり、同ギャップは存在しないことも強く示した。なお、本研究の成果について、研究期間終了後以下の発表を行った。[論文]Nature431:931,2004; BMC Genomics5:92,2004; Nature439:331,2006,[学会発表]国内5件
著者
冨永 隆生 小川 暁郎 清水 厚志 渡邉 和孝 渡邉 和晃
出版者
一般財団法人 日本健康開発財団
雑誌
日本健康開発雑誌 (ISSN:2432602X)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.15-20, 2021

<p><b>背景・目的</b> 高血圧症は脳梗塞や心筋梗塞などの合併症を引き起こすケースが多く日常より予防的に摂取可能な機能性食品などの開発が推奨されている。高血圧症にはアンジオテンシンⅡの合成酵素であるアンジオテンシンⅠ変換酵素(ACE)を抑制する治療が行われている。本研究では降圧作用を示す大豆、及び米ぬか発酵物(OE-1)よりACE阻害活性を有するペプチド含有画分を分離、精製し、さらにペプチド配列の解析を行った。</p><p><b>方法</b> OE-1より疎水性クロマトグラフィー、および逆相クロマトグラフィーを用いACE阻害活性を有するペプチドの分離を行った。単離した各ペプチドからペプチドシークエンサーによりアミノ酸配列を解析した。</p><p><b>結果</b> ACE阻害活性を示す5種類のジペプチド、並びに5種類のトリペプチドが得られた。各ペプチドのアミノ酸配列は、ジペプチドがAY(Ala-Tyr)、GY(Gly-Tyr)、SY(Ser-Tyr)、NY(Asn-Tyr)、及びDY(Asp-Tyr)、一方、トリペプチドがYGS(Tyr-Gly-Ser)、YQG(Tyr-Gln-Gly)、SYN(Ser-Tyr-Asn)、YDQ(Tyr-Asp-Gln)及びYNP(Tyr-Asn-Pro)であった。ジペプチド類のAY、GY、SY、NY、およびDYのACE阻害活性(IC50値)はそれぞれ、30.5mM、184mM、96.7mM、32.6mM、及び18.3mMであり、トリペプチド類のYGS、YQG、SYN、YDQ、及びYNPはそれぞれ1070.1mM、746.7mM、1778mM、1736.2mM、及び484mMであった。</p><p><b>考察</b> OE-1の降圧作用には数種類のACE阻害ペプチドが関与していることが推測された。これらのペプチドは総合的にはたらいて降圧作用を発現していると考えられた。</p>
著者
梅影 創 清水 厚志
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.68-74, 2021 (Released:2021-06-25)
参考文献数
20

疫学研究を進めていくうえで,バイオバンクとコホート研究の質の向上および参加者(検体)数の拡充と,大規模な情報から目的の疾患に関連する要因を見つけだすための遺伝統計学手法の開発は車の両輪の関係にある。本稿では,疫学研究を推進していくためのバイオバンクとコホート研究の現状に触れ,さらに世界最大規模の出生三世代コホートなどを運用する東北メディカル・メガバンク計画の取り組みを紹介する。次いで,疾患関連解析の最大の難問とされる「失われた遺伝率」の問題について触れ,この問題の克服をめざした手法の一つとして,いわて東北メディカル・メガバンク機構で開発したiwate polygenic model(iPGM)を利用した脳梗塞発症リスク予測について述べる。最後に,コホート研究による精神疾患リスク予測に向けたアプローチについて触れる。
著者
藤岡 周助 岡 香織 河村 佳見 菰原 義弘 中條 岳志 山村 祐紀 大岩 祐基 須藤 洋一 小巻 翔平 大豆生田 夏子 櫻井 智子 清水 厚志 坊農 秀雅 富澤 一仁 山本 拓也 山田 泰広 押海 裕之 三浦 恭子
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

【背景と目的】ハダカデバネズミ (Naked mole rat、 NMR) は、発がん率が非常に低い、最長寿の齧歯類である。これまでに長期の観察研究から自然発生腫瘍をほとんど形成しないことが報告されている一方、人為的な発がん誘導による腫瘍形成に抵抗性を持つかは明らかになっていない。これまでにNMRの細胞自律的な発がん耐性を示唆する機構が複数提唱されてきた。しかし、最近それとは矛盾した結果も報告されるなど、本当にNMRが強い細胞自律的な発がん耐性を持つのかは議論の的となっている。さらに腫瘍形成は、生体内で生じる炎症などの複雑な細胞間相互作用によって制御されるにも関わらず、これまでNMRの生体内におけるがん耐性機構については全く解析が行われていない。そこで、新規のNMRのがん耐性機構を明らかにするため、個体に発がん促進的な刺激を加えることで、生体内の微小環境の動態を含めたNMR特異的ながん抑制性の応答を同定し、その機構を解明することとした。【結果・考察】NMRが実験的な発がん誘導に抵抗性を持つかを明らかにするため、個体に対して発がん剤を投与した結果、NMRは132週の観察の間に1個体も腫瘍形成を認めておらず、NMRが特に並外れた発がん耐性を持つことを実験的に証明することができた。NMRの発がん耐性機構を解明するために、発がん促進的な炎症の指標の一つである免疫細胞の浸潤を評価した結果、マウスでは発がん促進的な刺激により強い免疫細胞の浸潤が引き起こされたが、NMRでは免疫細胞が有意に増加するものの絶対数の変化は微小であった。炎症経路に関与する遺伝子発現変化に着目し網羅的な遺伝子解析を行なった結果、NMRがNecroptosis経路に必須な遺伝子であるRIPK3とMLKLの機能喪失型変異により、Necroptosis誘導能を欠損していることを明らかにした。【結論】本研究では、NMRが化学発がん物質を用いた2種類の実験的な発がん誘導に並外れた耐性を持つこと、その耐性メカニズムの一端としてがん促進的な炎症応答の減弱が寄与すること、またその一因としてNecroptosis経路のマスターレギュレーターであるRIPK3とMLKLの機能喪失型変異によるNecrotpsosis誘導能の喪失を明らかにした。
著者
三浦 恭子 坊農 秀雅 清水 厚志 大岩 祐基
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

ハダカデバネズミ(Naked mole rat, NMR)は、マウスと同等の大きさ(平均体重35 g)ながら異例の長寿動物(平均寿命28年)であり、これまで自発的な腫瘍形成が一切認められていないというがん化耐性の特徴をもつ。本研究では、NMR個体のがん化耐性を制御すると考えられる、「NMR特異的がん化抑制バリア ASIS(ARF抑制時細胞老化)」の形成機構・役割を詳細に明らかにすることを目的とした。mRNA-seqによる解析の結果、発現変動する遺伝子群、また、ASISにおけるNMR種特異的なシグナル伝達制御が明らかになった。
著者
浅川 修一 藤森 一浩 清水 厚志 堺 弘介 満山 進 小島サビヌ 和子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では次世代シーケンサーを用いてメダカおよびトラフグの各組織(速筋、遅筋、腸、眼、脳、心臓、肝臓、卵巣、精巣、初期胚など)から得た小分子RNA(miRNA, piRNA, siRNA)の塩基配列を解読し、その発現プロフィールを明らかにした。精巣、卵巣以外の各組織ではmiRNAが主要な発現産物であったが、精巣、卵巣ではpiRNAが主要な発現産物であることが推定された。またメダカとトラフグに共通に発現している未同定の小分子RNAを多数見いだした
著者
清水 信義 浅川 修一 清水 厚志 佐々木 貴史
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

ヒトゲノム解読によって30億のDNA塩基配列から23,000余の遺伝子が同定された。しかし、機能が判明あるいは推定できるものは6割程度で残り4割の機能は不明である。ゲノムに潜む遺伝子の探索は未完成であくまでも暫定的であり、それらの中には機能を全く推定できない遺伝子が、我々の厳密な解析から1,000個以上存在することが判明した。申請者はこれら顔の見えない遺伝子を「カオナシ遺伝子」と命名しゲノムワイドに探索して300個を厳選し、ゲノム解読研究で培ったノウハウの総力を結集して、ゲノム構造の決定・mRNAトランスクリプトの確認・タンパク質構造の推定・比較ゲノム解析などを行った。特に、機能解析のきっかけを得るためにメダカをモデル生物として選択し、メダカWGSデータからメダカ型カオナシ遺伝子を同定した。メダカの発生過程は40ステージに分類されている。各ステージ毎に受精卵を100~1000個採取し合成したcDNAを用いて発生過程におけるメダカカオナシ遺伝子の発現量の変化を観察した。その後にメダカの胚発生をモルフォリノアンチセンスオリゴでノックダウンし形態形成の異常を観察した。その結果、現在までに130個のメダカ型カオナシ遺伝子に関して発生過程における遺伝子発現パターンおよび形態形成への影響などを分類することができた。このうち、60個の遺伝子に関しては発生過程で形態形成異常が確認された。
著者
清水 信義 浅川 修一 清水 厚志 佐々木 貴史 楊 浩 塩浜 愛子 小島 サビヌ和子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

カオナシ遺伝子を統合的に解析するために、慶應ヒト遺伝子データベースを構築し、メダカカオナシ遺伝子のノックダウン解析結果や初期胚における発現パターンによる検索を可能とした。さらにヒトカオナシ遺伝子を培養細胞で強制発現させた細胞内局在解析や、高効率なメダカ発現コンストラクトの開発を行った。タンパク質コード遺伝子のみならず小分子カオナシRNAを対象としてシーケンシングと解析を行った。