著者
操 華子
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.67-79, 2014 (Released:2014-06-05)
参考文献数
13

Gleenhalgh は彼の著作の中で、“ゴミ箱行き”の論文の科学と題した章の冒頭で、以下のように述べている。   発表された論文の中には(正直者は99%にも及ぶと言うだろう)ゴミ箱行きのものがあること、そしてそのような論文は実践現場に有用な情報をもたらすことがないので、活用すべきではないことを学生たちが学ぶと、きまって驚いた表情になる。1979年、Dr. Stephen Lock(当時のBMJ の編集長)は、『よいアイデアには基づいているが、用いられた方法に取り返しのつかない欠点があり、その論文を不採用にしなければ ならないことほど医学雑誌の編集者にとってがっかりすることはない』と書いている。その15年後、Doug Altman は方法論上の欠点のない医学研究は、全体のたった1%のみであると訴えた。そして最近でも、“質の高い”雑誌に掲載された論文にでさえ、重大かつ基本的な欠点が一般的に見受けられることが確認された。   厳格な査読制度のある学術雑誌で発表されている研究論文でさえ、結果の真実を歪める、別の表現をすると偽りの統計学的有意性を作り出すような問題を孕んでいる論文が少なくないことをGleenhalgh は指摘している。そのため、既存の研究論文をエビデンスとして活用する臨床家・実践者には、批判的吟味(Critical appraisal)の能力が求められる。また、エビデンスを作り出す研究者には、偽りの統計学的有意性を作り出す要因についての知識を持ち、その問題を最小限にするための配慮と努力が求められる。   本稿では、研究成果として偽りの統計学的有意性を作り出す要因である偶然誤差、系統誤差(交絡)について概説する。感染制御の領域で頻用される研究デザインを使用した研究例を紹介し、各研究デザイン特有の問題を説明する。
著者
森兼 啓太 森澤 雄司 操 華子 姉崎 久敬
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.5, pp.325-331, 2009 (Released:2009-12-10)
参考文献数
14
被引用文献数
14 5

末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)または従来の中心静脈カテーテル(CVC)を挿入された患者における,カテーテル関連血流感染(CR-BSI)などのカテーテル留置中合併症に関するデータを収集し比較した.8施設よりデータ収集を行い,PICCを挿入された患者群(以下PICC群)は277例,CVCを挿入された患者群(以下CVC群)は276例であった.CR-BSI発生率は,1000カテーテル日あたりPICC群で5.6, CVC群で7.0と,PICC群に低い傾向を認めた.CR-BSIのリスク分析では,カテーテルがPICCであることが感染リスク低下因子であった(オッズ比0.55, p=0.019).挿入時の合併症として,CVC群で気胸や動脈穿刺が生じた.それらはPICC群では生じなかったが,刺入部からの出血が多かった.留置中の合併症としてはPICC群に静脈炎が多く,CVC群では発熱または敗血症が多く見られた.得られたデータを元にした推計では,553人の患者群においてPICCとCVCを使用した場合のCR-BSI発生数はそれぞれ59件,98件と推定され,PICC使用により抗菌薬を約1600万円,入院日数をのべ約820日,削減させることができると推定された.PICCとCVCの使用およびCR-BSIを含めた合併症を多施設のデータにより明らかにすることができ,PICCのCVCに対する有用性が示唆された.
著者
操 華子
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.67-79, 2014

&nbsp;&nbsp;Gleenhalgh は彼の著作の中で、"ゴミ箱行き"の論文の科学と題した章の冒頭で、以下のように述べている。<br> &nbsp;&nbsp;<i>発表された論文の中には(正直者は99%にも及ぶと言うだろう)ゴミ箱行きのものがあること、そしてそのような論文は実践現場に有用な情報をもたらすことがないので、活用すべきではないことを学生たちが学ぶと、きまって驚いた表情になる。1979年、Dr. Stephen Lock(当時のBMJ の編集長)は、『よいアイデアには基づいているが、用いられた方法に取り返しのつかない欠点があり、その論文を不採用にしなければ ならないことほど医学雑誌の編集者にとってがっかりすることはない』と書いている。その15年後、Doug Altman は方法論上の欠点のない医学研究は、全体のたった1%のみであると訴えた。そして最近でも、"質の高い"雑誌に掲載された論文にでさえ、重大かつ基本的な欠点が一般的に見受けられることが確認された。</i><br> &nbsp;&nbsp;厳格な査読制度のある学術雑誌で発表されている研究論文でさえ、結果の真実を歪める、別の表現をすると偽りの統計学的有意性を作り出すような問題を孕んでいる論文が少なくないことをGleenhalgh は指摘している。そのため、既存の研究論文をエビデンスとして活用する臨床家・実践者には、批判的吟味(Critical appraisal)の能力が求められる。また、エビデンスを作り出す研究者には、偽りの統計学的有意性を作り出す要因についての知識を持ち、その問題を最小限にするための配慮と努力が求められる。<br> &nbsp;&nbsp;本稿では、研究成果として偽りの統計学的有意性を作り出す要因である偶然誤差、系統誤差(交絡)について概説する。感染制御の領域で頻用される研究デザインを使用した研究例を紹介し、各研究デザイン特有の問題を説明する。<br>
著者
操 華子
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.143-154, 2014 (Released:2014-08-05)
参考文献数
9

質問紙調査は,横断研究デザインなどで最も頻用されるデータ収集方法の一つである.多くの人間の意識,認識や行動について,詳しく情報を収集したい場合,質問紙調査が選択される.これまで本学会誌に投稿された論文の中でも,質問紙調査の結果に関する論文は多い.しかし,残念なことではあるが,質問紙調査のプロセス全体を理解し,求められている手順をきちんと踏んだのかどうかの確信が持てない論文も少なくないのが実情である.   質問紙調査とアンケート調査はほぼ同義語として用いられている.アンケートはフランス語由来の用語であり,「(調査の意)調査のため多くの人に一定の様式で行う問い合わせ.意見調査.また,その調査に対する回答」と広辞苑では定義されている.近年,アンケートという用語をタイトルに入れた著作が多く出版されているが,本用語は一般用語であり,専門用語として使用されることはあまり適切ではないとする意見もある.   そこで,本稿では質問紙調査という用語を使用することとし,質問紙調査のプロセスについて,質問紙調査を実施する際に起こしやすい間違いについて概説する.
著者
操 華子 村田 裕美 川上 和美
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は、感染予防実践者である看護職のコンピテンシーの実態を把握するための質問紙を開発し、作成した質問紙を用いて、日本と英語圏の感染予防実践者の看護職のコンピテンシーを把握すること、感染予防実践者である看護職のキャリアレベルごとに共通して求められるコンピテンシーを明らかにすることである。感染管理疫学専門家協会(APIC)から発表されたコンピテンシー・セルフアセスメント・ツールに回答してくれた67名の感染管理認定看護師のインタビューデータを各項目の回答理由毎に質的に分析した。その結果から、感染症プロセスの明確化、医療関連感染サーベイランスと疫学調査、感染性微生物の伝播予防・制御、マネージメントとコミュニケーション(リーダーシップ)、質・業務改善と患者安全、教育と研究、労働衛生の7つのカテゴリーを含む127項目からなる調査票を作成した。プレテストを実施し内容を精選し、基礎情報11項目を加えた138項目からなる感染予防実践者のコンピテンシーに関するオンライン調査を実施した。日本の感染予防実践者への調査協力は、日本感染管理ネットワーク(Infection Control Network in Japan)に依頼し、所属会員のメーリングリストから協力依頼を行った。また、日本看護協会の感染管理認定看護師ならびに感染症看護専門看護師の登録者のうち所属非表示者などを除外した2355名に協力依頼の葉書を送付した。5月17日現在で413名から回答を得た(回答率18%)。研究を除いた全カテゴリーで、感染予防実践者としての経験を積むことで各能力が向上していることが明らかになった。現在、APICの研究委員会の副委員長を通じて、感染予防実践をしている看護職への調査協力を依頼しており、協力への内諾は得ている。調査時期などの詳細をつめ、英語版の同じ調査票を用いてオンライン調査を実施する予定である
著者
菱沼 典子 平松 則子 春日 美香子 大吉 三千代 香春 知永 操 華子 川島 みどり
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.32-39, 1997-02-28 (Released:2012-10-29)
参考文献数
25
被引用文献数
9 6

腹満や便秘に対し, 経験上有効といわれている熱布による腰背部温罨法の, 腸管の動きに対する影響と, 局所の皮膚に対する影響を明らかにする目的で, 実験研究を行った. 8名の健康な女性 (27~47歳) に, 熱布による温罨法を施行し, 以下のような結果を得た.1) 腸音は施行直後に1.7倍に増加し, 施行前に対し, 有意差が認められた.2) 貼用部の皮膚温は, 41.1-43.1度まで一過性に上昇したが, 火傷は生じなかった.3) 背部の血流および上腕部の血流は, 施行前に比べ1.4倍になり, 全身が暖まった.4) 施行前後で、体温, 脈拍, 血圧に変動は認められなかった.これらの結果から, 熱布による腰背部温罨法は, 腸管の動きを促進し, 便秘や腹満の解消をはかる看護技術となりうることが示唆された.
著者
青山 恵美 操 華子
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.453-462, 2014

結核病棟を有していないA病院における肺結核患者の受診の遅れ,診断の遅れの実態とその関連要因について明らかにした.<br>   データトライアンギュレーションを用いた症例集積研究を行った.2010年7月から2011年9月までに,A病院で肺結核と診断された7名の患者(男性6名・女性1名)と診断を担当した4名の医師を対象とした.肺結核の症状出現から診断までの経過について,診療記録ならびに対象患者と対象患者を診断した医師との半構造化面接から,情報収集を行った.<br>   診療記録から収集した情報では患者の受診の遅れは明らかにならなかったが,面接の分析結果では7名のうち6名に数カ月から数年にわたる受診の遅れが認められた.肺結核の診断は比較的早期にされており,診断の遅れは明らかにならなかった.受診の遅れに関連した要因として,【受診にはつながらなかった症状】【健康診断結果通知の遅れ】【結核に対する知識不足】【健康診断での異常の指摘後のフォロー不足】が明らかになった.【受診にはつながらなかった症状】には,肺結核の典型的な症状に加え,微熱,食欲不振,疲労のような肺結核特有ではない一般的な症状が含まれた.特に,高齢者では加齢によるものとしてそれらの症状が見落される傾向が明らかになった.<br>   患者の受診の遅れを短くするために,微熱,食欲不振,疲労のような一般的な症状が持続,悪化した時には,医療機関を受診するように教育する必要がある.また,診断の遅れを短縮するためには,医師の肺結核に対する意識や知識が関連しており,呼吸器内科医の診察や胸部レントゲン写真の読影医によるダブルチェックなどの診療体制の整備と過去履歴の管理が重要である.<br>
著者
操 華子
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.1-11, 2014

本稿から疫学・統計学の基礎知識に関する連載が開始する.質の高い,エビデンスに基づいた感染制御活動を展開するためには,エビデンスとなりうる研究を実施する者(研究者),発表された研究論文を読み,臨床実践へその結果を適応させていく者(実践者),そして,星の数ほど発表される研究成果を実践家が使いやすい形に作り替え,世に発表する者(ガイドライン作成者)の3者がバランスよく機能することが必要である.この3者,いずれもがその機能を十分果たすためには,疫学と統計学の知識が求められる.<br>   質の高い研究成果を得るためには,質の高いデータを得る必要がある.その質の高いデータを得るためには,データの収集前に,「何を明らかにしたいのか?」,「どのように明らかにしていくのか?」ということをしっかりと決める必要がある.つまり,リサーチクエスチョン(research question,研究課題,研究上の問いとも呼ばれる)を明確にすることが質の高い研究成果を得るための第1歩である.このリサーチクエスチョンへの回答を得るために,適切な研究デザイン,研究方法を選択する.<br>   本稿では,感染制御の領域で頻用される研究デザインについて概説する.具体的な研究デザインについて述べる前に,研究のプロセス,リサーチクエスチョンの重要性,その種類,明確化したリサーチクエスチョンから適切な研究デザインを選択する方法についても説明する.<br>