著者
前川 慶之 阿部 修一 内田 徹郎 浜崎 安純 黒田 吉則 水本 雅弘 中村 健 貞弘 光章 森兼 啓太
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.47, no.12, pp.1405-1410, 2015 (Released:2016-12-15)
参考文献数
6

背景 : 1999年に米国疾病管理センターが発表した手術部位感染予防のガイドラインにおいて, 手術時に留置されたドレーンは可及的速やかに抜去すべきとされている (カテゴリーⅠB) が, ドレーン留置期間と手術部位感染の関係を定量化した報告はない. 目的 : ドレーン留置期間と手術部位感染の罹患率を定量化すること. 対象と方法 : 当院で開心術を受けた連続457例 (男298 : 女159, 年齢67.5±11.7歳). ドレーン留置期間, 手術部位感染の罹患率, 抜去時のドレーン先端培養汚染を評価した. 結果 : ドレーン留置期間は中央値5日 (四分位範囲3-7日) であり, 457例中19例 (4.1%) が手術部位感染を発症, また13例 (2.8%) のドレーン先端が細菌汚染を起こしていた. ドレーン先端培養陽性と手術部位感染には統計学的相関を認めた (χ2検定, p<0.001, オッズ比12.7, 95%信頼区間3.5-45.9). ロジスティック回帰分析より, ドレーン留置期間と手術部位感染 (p<0.01, 寄与率6.1%), ドレーン留置期間とドレーン先端汚染 (p<0.01, 寄与率6.8%) と相関関係が認められた. 手術部位感染の起因菌は黄色ブドウ球菌が多数を占めた (14/19例) 一方, ドレーン先端汚染はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が半数を占めた (7/13例). 結論 : 開心術後において, ドレーン留置期間, 先端培養汚染, 手術部位感染はそれぞれ関連性があった.
著者
森兼 啓太 森澤 雄司 操 華子 姉崎 久敬
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.5, pp.325-331, 2009 (Released:2009-12-10)
参考文献数
14
被引用文献数
14 5

末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)または従来の中心静脈カテーテル(CVC)を挿入された患者における,カテーテル関連血流感染(CR-BSI)などのカテーテル留置中合併症に関するデータを収集し比較した.8施設よりデータ収集を行い,PICCを挿入された患者群(以下PICC群)は277例,CVCを挿入された患者群(以下CVC群)は276例であった.CR-BSI発生率は,1000カテーテル日あたりPICC群で5.6, CVC群で7.0と,PICC群に低い傾向を認めた.CR-BSIのリスク分析では,カテーテルがPICCであることが感染リスク低下因子であった(オッズ比0.55, p=0.019).挿入時の合併症として,CVC群で気胸や動脈穿刺が生じた.それらはPICC群では生じなかったが,刺入部からの出血が多かった.留置中の合併症としてはPICC群に静脈炎が多く,CVC群では発熱または敗血症が多く見られた.得られたデータを元にした推計では,553人の患者群においてPICCとCVCを使用した場合のCR-BSI発生数はそれぞれ59件,98件と推定され,PICC使用により抗菌薬を約1600万円,入院日数をのべ約820日,削減させることができると推定された.PICCとCVCの使用およびCR-BSIを含めた合併症を多施設のデータにより明らかにすることができ,PICCのCVCに対する有用性が示唆された.
著者
多湖 ゆかり 谷 久弥 森兼 啓太
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.122-127, 2014 (Released:2014-06-05)
参考文献数
9
被引用文献数
1 2

CDCのGuidelines for the Prevention of Intravascular Catheter-Related Infections, 2011の発出を受け,末梢静脈カテーテルの標準的な留置期間を4日毎から7日毎に変更した.留置期間が適切か否かを評価するため変更後6ヶ月間(2011年7月~12月)の末梢静脈カテーテルに関連するBSIと静脈炎のデータ解析をした.延べ留置日数2,784日,ライン使用本数989本に対して,BSI発生は2件であり,1000ライン日あたり0.72件であった.発生日はどちらも留置3日目であった.静脈炎(INS基準:2+以上)は14件で,3日以内と4日以上を比較して静脈炎発生率に有意差は見られなかった.従って,末梢静脈カテーテルをルーチンに3~4日毎に刺し替える必要はない.刺入部の観察を重視した上での7日毎の刺し替えは,患者の苦痛軽減やスタッフの労力削減を図る上でむしろ好ましいと考える.
著者
森兼 啓太
出版者
ヴァン メディカル
巻号頁・発行日
pp.169-174, 2020-07-15

標準予防策と手指衛生 医療現場における感染対策の基本が標準予防策であることは言うまでもない。標準予防策は,微生物が存在する・しないに関わらず実施する対策であり,その中心が手指衛生であることも良く知られている。 手指衛生の重要性を示したのがオーストリアのイグナス・フィリップ・ゼンメルワイスである。彼は産科病棟において出産後の妊婦に発生する産褥熱に,医療従事者などの手指に付着した「何か」が関係していて,手指衛生を行うことで産褥熱を減らせるのではないかと考えた。まだウイルスも発見されておらず,細菌に関しても研究途上であったその時代に,彼は石炭酸による手指衛生を医療従事者に実施させることで,産褥熱を大きく減少させた。後に,産褥熱が細菌によるものであり,手指衛生を行うことで産褥熱の原因となる手指に付着した細菌を消毒し減少させることができる,ということが明らかにされた。この功績を称えて,彼は手指衛生の祖と呼ばれている。
著者
多湖 ゆかり 森兼 啓太
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.174-179, 2015 (Released:2015-08-05)
参考文献数
4
被引用文献数
1

透析患者の予後に大きく影響する透析関連感染の実態を明らかにし,感染率を低減させるために,実施したサーベイランスと並行して実施した介入を評価した.サーベイランス開始当初9ヶ月における短期留置カテーテル感染率は1000透析日あたり48.61であり,研究会の感染率(同14.55)に比較して有意に高いことがわかった.そこで,カテーテル挿入時のマキシマルバリアプリコーションの実施率の向上,教育など多面的なアプローチを行い,さらに長期留置カテーテルを導入した.長期留置カテーテル導入前(2010年7月~2012年6月)と導入後(2012年7月~2013年6月)の感染率を比較すると,33.40から9.20に低減し(p=0.05),研究会の同時期の感染率8.21と比較しても遜色ない値となった.また,短期留置カテーテルの平均留置日数も若干短縮した.これらの効果の検証に際しサーベイランスは有効であり,そのデータに基づき実施した介入は効果的であったと考える.
著者
森兼 啓太 小西 敏郎 阿部 哲夫 阿川 千一郎 西岡 みどり 谷村 久美 野口 浩恵 小林 寛伊
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.139-144, 2000-05-18
被引用文献数
7

消化器手術後の手術部位感染 (SSI) サーベイランスを米国のNNISシステムに従って施行した.対象は当科で9ヵ月間に施行された消化器外科開腹手術症例364例とした.感染制御チームを結成し, 巡回により基礎データを収集しSSIを拾い上げ, 外科医が創を観察しCDCの基準に従ってSSIか否かを判定した. 一方でCDCのSSI防止ガイドラインのうち現状を改善することが可能と思われる対策を講じ, 介入を行いつつサーベイランスを継続した.まず, 初めの4ヵ月間の創分類III, IV (汚染, 感染創) の症例ではそれぞれ9例中5例 (56%), 10例中9例 (90%) と高率にSSI発生を認め, 全体のSSI発生率に対する大きな撹乱因子となると考え, 以下の検討から除外した.創分類I, II (清潔, 準清潔創) の症例におけるSSI発生率は全体で35/323 (10.8%) であり, 術式別に分類しても, またrisk index score別にみてもNNISのデータより約3-5倍の高率であった.しかし, 米国では後期SSI発生症例を遺漏している可能性がある. 全例に術後30日のサーベイランスを遂行できた我々のデータとCDCのデータとの単純な比較はできないと思われた.サーベイランスの施行に並行して介入を行い, 主として抗生物質の術前投与が徹底された.しかし本研究期間内にSSI発生率の低下はみられなかった. 今後も継続的にサーベイランスを施行していく必要があると考えられた.