- 著者
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数実 浩佑
- 出版者
- 日本教育社会学会
- 雑誌
- 教育社会学研究 (ISSN:03873145)
- 巻号頁・発行日
- vol.101, pp.49-68, 2017
- 被引用文献数
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<p> 学力格差のメカニズムを考察する際の有力な理論として,文化的再生産論があげられる。しかしこの理論に基づく実証研究においては,ある1時点において親から子へ文化資本が伝達されるメカニズムに注力してきた一方で,通時的な観点から子どもの文化資本(知識,ハビトゥス)がどのように変化するかを分析した事例はほとんどない。そのため,ある1時点において生じる学力格差を説明することはできても,なぜそれが維持・拡大するかを説明することができていない。<br> そこで本稿では,「なぜ学力の階層差は維持・拡大するのか」という問いを設定し,パネルデータを用いた計量分析を通して検討していく。その際,学力と学習態度における因果の方向に着目し,両者に双方向の因果関係が見られるかについて明らかにしたうえで,学力格差のメカニズムについて考察する。<br> 主な知見は次の3点である。(1)学年が上がるにつれて,学力に対する家庭の文化資本の影響が弱まっていく。(2)学年が上がるにつれて,学力の時点間の相関の強さが強まっていく。(3)学力と学習態度の間に双方向の因果関係が見られる。<br> 分析結果をふまえ,スキルの自己生産性とポジティブ・フィードバックという概念を用いて,低学力の子どもにさらなる不利が累積するという仮説を提示し,家庭の文化資本に起因する初期学力の差が,その後の学力格差の拡大に不可避的に転じていくメカニズムの重要性を強調した。</p>