著者
数実 浩佑
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.101, pp.49-68, 2017-11-30 (Released:2019-06-14)
参考文献数
32
被引用文献数
2 1

学力格差のメカニズムを考察する際の有力な理論として,文化的再生産論があげられる。しかしこの理論に基づく実証研究においては,ある1時点において親から子へ文化資本が伝達されるメカニズムに注力してきた一方で,通時的な観点から子どもの文化資本(知識,ハビトゥス)がどのように変化するかを分析した事例はほとんどない。そのため,ある1時点において生じる学力格差を説明することはできても,なぜそれが維持・拡大するかを説明することができていない。 そこで本稿では,「なぜ学力の階層差は維持・拡大するのか」という問いを設定し,パネルデータを用いた計量分析を通して検討していく。その際,学力と学習態度における因果の方向に着目し,両者に双方向の因果関係が見られるかについて明らかにしたうえで,学力格差のメカニズムについて考察する。 主な知見は次の3点である。(1)学年が上がるにつれて,学力に対する家庭の文化資本の影響が弱まっていく。(2)学年が上がるにつれて,学力の時点間の相関の強さが強まっていく。(3)学力と学習態度の間に双方向の因果関係が見られる。 分析結果をふまえ,スキルの自己生産性とポジティブ・フィードバックという概念を用いて,低学力の子どもにさらなる不利が累積するという仮説を提示し,家庭の文化資本に起因する初期学力の差が,その後の学力格差の拡大に不可避的に転じていくメカニズムの重要性を強調した。
著者
数実 浩佑
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.101, pp.49-68, 2017
被引用文献数
1

<p> 学力格差のメカニズムを考察する際の有力な理論として,文化的再生産論があげられる。しかしこの理論に基づく実証研究においては,ある1時点において親から子へ文化資本が伝達されるメカニズムに注力してきた一方で,通時的な観点から子どもの文化資本(知識,ハビトゥス)がどのように変化するかを分析した事例はほとんどない。そのため,ある1時点において生じる学力格差を説明することはできても,なぜそれが維持・拡大するかを説明することができていない。<br> そこで本稿では,「なぜ学力の階層差は維持・拡大するのか」という問いを設定し,パネルデータを用いた計量分析を通して検討していく。その際,学力と学習態度における因果の方向に着目し,両者に双方向の因果関係が見られるかについて明らかにしたうえで,学力格差のメカニズムについて考察する。<br> 主な知見は次の3点である。(1)学年が上がるにつれて,学力に対する家庭の文化資本の影響が弱まっていく。(2)学年が上がるにつれて,学力の時点間の相関の強さが強まっていく。(3)学力と学習態度の間に双方向の因果関係が見られる。<br> 分析結果をふまえ,スキルの自己生産性とポジティブ・フィードバックという概念を用いて,低学力の子どもにさらなる不利が累積するという仮説を提示し,家庭の文化資本に起因する初期学力の差が,その後の学力格差の拡大に不可避的に転じていくメカニズムの重要性を強調した。</p>
著者
伊藤 駿 数実 浩佑 岡田 拓郎 山口 真美 Ito Shun Kazumi Kosuke Yamaguchi Manami Okada Takuro イトウ シュン カズミ コウスケ ヤマグチ マナミ オカダ タクロウ
出版者
大阪大学未来戦略機構第五部門未来共生イノベーター博士課程プログラム
雑誌
未来共生学
巻号頁・発行日
no.4, pp.225-242, 2017-03

研究ノート筆者らは2015 年4 月より関西圏のB 小学校において、「書く力」を子どもたちに養い、ひいては学力格差の是正を目的とするアクションリサーチに取り組んでいる。本研究は、その取り組みから得られた知見を教育社会学的視点から分析したものである。本稿はリサーチの途中経過であり、得られた知見の速報としての側面を持つ。子どもたちが書いた作文を中心に量的研究、質的研究の両面から現状、課題の把握を行った。その結果、かつてBernstein が指摘した階層による言語格差がB 小学校においても見られるとともに、既習漢字の使用が学力と有意な関連として見られた。また、教師たちは、語彙数や文量を重視せず、子どもたちの学校生活の様子と乖離した作文を肯定的に評価するという傾向が見られた。今後は量的研究としての妥当性を高めるためにより多くのサンプルを収集するとともに、子どもたちの作文を継続的に分析していく。また、質的研究としては参与観察を続け、子どもたちの「書く」ことへの姿勢や教師たちがどのような指導をしていくのか、ということの変化を捉えていく予定である。