著者
数岡 孝幸
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.110, no.5, pp.298-305, 2015 (Released:2018-04-23)
参考文献数
18
被引用文献数
1

清酒業界においては,清酒の需要低迷・消費激減から危機感を感じ,今までに無いタイプの清酒を製造する事を模索している。その解決策の一つとして,純粋培養酵母を使用した清酒製造ではなく,広い自然界から有用な清酒酵母を分離し清酒製造に応用する方法である。このような自然界からの酵母分離は,様々な分野で試みられているが目的とする酵母の分離が難しいのも現実である。しかしながらその困難さを克服し,製品化に至った成功例として筆者が行っている花から分離した「花酵母」による清酒製造であることは間違いないところである。筆者は解説文の中で清酒製造用酵母の過去と現在行われている酵母分離方法を紹介し,分離酵母を用いて製造された清酒の特徴を細かく紹介している。また,スクリーニング源採取月,平均気温と分離効率の関係など興味あるデータも掲載されていて研究者にとっては参考になることも多い。是非とも一読願いたい。
著者
数岡 孝幸
出版者
日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.110, no.5, pp.298-305, 2015-05

日本で古くから造られている清酒は,現在では冠婚葬祭などに欠かせないほど生活に密着している。しかし,その消費量は1975年頃のピークを境に現在にいたるまで減少し続けている。その要因として,消費者が選択することができる酒類の増加,若者の酒離れ,主な清酒消費者の高齢化,さらには景気の低迷,娯楽の多様化にともなう酒類購入に企てられる費用の減少など様々な要因が考えられるが,消費者の嗜好の多様化もその一因であると考えられる。米,米麹,水を原料とし,総米に対する汲水歩合135%前後で仕込む清酒は,並行複発酵,高濃度仕込み,低温発酵,低カリウム濃度,乳酸酸性およびもろみ中での固形物の溶解といった他の酒類とは異なる清酒製造特有の発酵環境を形成している。清酒酵母は,そのような清酒製造条件下の酒母およびもろみで発酵力が強く良質の清酒を造る適性を持つ一群の酵母である。かつて日本には現存する数を大きく上回る清酒製造蔵が存在し,それぞれの立地条件(環境要因)や製造法,蔵付き酵母の性質で特色ある清酒が製造されてきたが,それは同時に造られる清酒の品質の不安定さを招いていた。近代的な清酒醸造では野生酵母に汚染されず良質な製品を安定して生産することを目的に,酒母製造工程において純粋培養した優良清酒酵母が多量に添加される。清酒の酒質は原料や製造工程における様々な要因によって変化するが,その中で清酒製造に使用する清酒酵母の種類は,清酒の酒質形成における重要な要素の一つである。
著者
木下(小室) 友香理 門倉 利守 数岡 孝幸 穂坂 賢 中田 久保 KOMURO Yukari KINOSHITA KADOKURA Toshimori KAZUOKA Takayuki HOSAKA Masaru NAKATA Hisayasu 東京農業大学短期大学部醸造学科 東京農業大学応用生物科学部醸造科学科 東京農業大学短期大学部醸造学科 東京農業大学短期大学部醸造学科 東京農業大学短期大学部醸造学科 Department of Brewing and Fermentation Junior College of Tokyo University of Agriculture Department of Fermentation Science Faculty of Applied Bio-Science Tokyo University of Agriculture Department of Brewing and Fermentation Junior College of Tokyo University of Agriculture Department of Brewing and Fermentation Junior College of Tokyo University of Agriculture Department of Brewing and Fermentation Junior College of Tokyo University of Agriculture
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.100-106,

花から分離した酵母(以下,花酵母)の分類学的性質を調べる目的で,生理学的試験と染色体DNA電気泳動を行った。また,各花酵母の醸造特性を知るため,清酒小仕込み試験を行ない,製成酒の一般成分と香気成分分析を行った。その結果,花酵母13株は,清酒酵母K-9株と同様に,メレジトースおよび硝酸塩を資化せず,クエン酸塩無添加のビタミン欠培地で増殖し,イーストサイジンに対する抵抗性を有した。TTC染色は赤色,アルシアンブルー染色は白色~淡青色であった。染色体DNA電気泳動パターンは,第VI染色体が長く,第III染色体と接近した清酒酵母K-9株と同じ泳動パターンを示した。また,高泡形成試験では全株が高泡を形成しなかったことより,花酵母13株は高泡を形成しない清酒酵母タイプであった。清酒小仕込み試験の結果,花酵母はカプロン酸エチル生成タイプ(ND-4株,AB-2株),酢酸イソアミル生成タイプ(BK-1株,MR-4株,SN-3株,GE-1株,KAF-2株,KS-3株,ST-4株,SUNF-5株),双方をバランスよく生成するタイプ(HNG-5株,NI-2株,CAR-1株)に大別できた。また,有機酸組成分析の結果,前報4)のAB-2株,KS-3株,MR-4株に加え,CAR-1株,GE-1株,KAF-2株,ST-4株,SUNF-5株による製成酒はリンゴ酸含有量が高いことが明らかとなった。花酵母による製成酒は吟醸香成分であるカプロン酸エチルおよび酢酸イソアミル生成量が多く,リンゴ酸の割合が高い有機酸組成を持つことから,多様化する消費者嗜好に対応する清酒開発を可能にすると思われる。
著者
本間 裕人 数岡 孝幸 徳田 宏晴 中田 久保 中西 載慶
出版者
日本食品保蔵科学会
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.189-198, 2013 (Released:2014-03-06)

ビールの抗酸化活性について,スタイルごとの品質特性を明らかにするため,様々なスタイルのビール類のDPPHラジカル消去能,スーパーオキシド消去能を測定し比較を行った。その結果,DPPHラジカル消去能はインペリアルスタウト,ボック類,IPAおよびスタウト等で高く,それぞれの平均値は254.1,232.7,201.0および195.8nmol Trolox/mlであった。一方,DPPHラジカル消去能が低かったのは発泡酒・ビール風飲料,ヴァイツェン類およびピルスナー等で,それぞれの平均値は54.7,110.9,120.9nmol Trolox/mlであった。スーパーオキシド消去能については,インペリアルスタウト,スタウト,ポーターおよびバーレーワイン等で高く,それぞれの平均値は90.0,74.0,72.5および71.3%であった。一方,ブロンドエール類,ピルスナー,発泡酒・ビール風飲料において活性は低く,それぞれ18.1,18.7および19.8%であった。これらのビール類の抗酸化活性をワイン類と比較すると,いずれも赤ワインよりは低値であったが,スタイルによっては白ワインよりも高値であった。また,DPPHラジカル消去能と総ポリフェノール量,苦味価,推定初期比重の相関性を調べたところ,DPPHラジカル消去能は総ポリフェノール量と高い相関性を示した。