著者
斎藤 真己
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.96, no.6, pp.348-350, 2014-12-01 (Released:2015-04-02)
参考文献数
12

スギ花粉症対策の一環として,メタセコイア雄花の発育限界温度と有効積算温度を明らかにした。メタセコイアの雄花の発育限界温度はほぼ0°C となりスギと同様の値になったが,開花に要する有効積算温度は,計算上175.4°C・日となり,スギ(184~240°C・日)よりも低い値になった。次に,10°C に設定した人工気象器を用いてメタセコイアとタテヤマスギ,ボカスギで開花試験を行った結果,メタセコイアが最も早く開花した。これらの結果から,メタセコイアの花粉はスギよりも早く飛散が始まっており,その花粉はスギと共通抗原性があることから,居住区の近隣にメタセコイアがある場合,スギ花粉症患者はスギ花粉の飛散予測よりも早く花粉症を発症する可能性があると考えられた。
著者
斎藤 真己
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.92, no.6, pp.316-323, 2010 (Released:2011-02-16)
参考文献数
60
被引用文献数
5 25

スギ花粉症に対する育種的な対策として, 着花量の少ない少花粉, 花粉中のCry j 1量が少ない低花粉アレルゲン性, 花粉を生産しない雄性不稔性に着目した。着花量の少ないスギ精英樹は全国で135クローン選抜された。この性質は複数箇所の検定林で再現性が確認され, 親子回帰による遺伝率も0.34と比較的高い値であった。花粉中のCry j 1量を全国の精英樹420クローンについて調査した結果, 0.38∼10.23 pg/個と大きな変異を示し, その狭義の遺伝率は, 1.0と高い値であった。このことから次世代での選抜効果が顕著に現れると期待された。無花粉になる雄性不稔性は一対の劣性遺伝子支配であることが明らかになり, その遺伝子をヘテロ型で保有した精英樹が4クローン発見された。優良な無花粉スギの作出に向けて, これら精英樹同士の交配家系が育成されている。スギ花粉症対策品種は, 現在, さし木等によるクローン増殖やミニチュア採種園による種子生産が図られており, これらを上手く活用することによって従来の木材生産性を損なうことなく, 花粉飛散量の軽減に繋がると考えられた。
著者
斎藤 真己
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.102, no.4, pp.270-276, 2020-08-01 (Released:2020-11-26)
参考文献数
14

無花粉スギ苗の増産体制を強化するため,水稲農業とタイアップし,休耕田を活用したコンテナ苗の水耕栽培を行った。農業用水をかけ流しにした休耕田に水深5 cm程度の育苗プールを造成した後,2年生のコンテナ苗を5月から10月までこのプールにつけて育苗した。その結果,生存率は98%程度と高く,成長量も従来のハウス栽培よりも大きいことが明らかになった。また,海沿いと中山間地域の休耕田で育苗試験を行った結果,両者ともに順調に生育したことから,本研究で行った水耕栽培法は水田のある地域であれば広い範囲で実施できると考えられた。水耕栽培した苗を造林地に植栽しても,活着率や成長量は従来のハウス栽培した苗と差がなかった。これらのことから,水耕栽培法は休耕田にコンテナ苗を浸けておくだけの簡便な手法であり,ビニールハウスや自動散水装置も不要なため,省力的かつ低コストな育苗法なると考えられた。
著者
斎藤 真己 平 英彰
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.88, no.3, pp.187-191, 2006-06-01
被引用文献数
1 2

スギ採種園における園外からの花粉汚染対策として,閉鎖したガラス室内にミニチュア採種園を造成し,その得失と有効性を検討した。ガラス室内のスギの開花時期は,雄花が2月4日から3月27日であり,雌花は2月5日から3月22日であった。これに対して,野外のスギ花粉飛散は2月21日から4月6日であったことから開花時期はガラス室内の方が野外より3週間程度早かった。室内の80%以上の個体が開花した時期は,雄花が2月17日から3月13日までで,雌花が2月15日から3月3日までであり,その期間はほぼ完全に重複していた。この採種園から得られた種子の発芽率は21.4%であり,従来型の採種園から得られた自然交配種子のそれと同程度であった。以上のことから,ガラス室内ミニチュア採種園を利用することで園外からの花粉汚染を防ぎ,さらに雌雄の開花期が揃うことから確実な交配が行われると期待される。今後のスギ造林は多品種を少量面積で植栽する方向に向かうと予想されることから,このことを実現する上においても,本手法は有効な手段になると考えられた。