著者
野口 琢郎 大谷 慶人 服部 力 阿部 恭久 佐橋 憲生
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.89, no.3, pp.225-229, 2007-06-01
被引用文献数
1 3

熊本県阿蘇地方におけるスギ人工林の根株腐朽被害の原因となる菌を明らかにするため40〜83年生の12林分で腐朽伐根から菌株を分離し,主要な分離菌の諸性質について調査した。調査林分では,形態的特徴の異なる8種の担子菌が分離され,そのうち2種の担子菌(担子菌Aと担子菌B)が主要なものであった。担子菌Aは南小国町1の林分で比較的高い頻度で分離された。担子菌Bはすべての調査林分で高い頻度で分離されたことから,阿蘇地方で広範囲に分布しているものと推察された。腐朽力試験の結栄,担子菌A,Bはともに木材腐朽力を有することが明らかとなった。これらのことから,阿蘇地方におけるスギ根株腐朽被害には,少なくとも担子菌Aと担子菌Bが関与していると考えられた。
著者
佐藤 豊三 小野 剛 田中 和明 服部 力
出版者
日本微生物資源学会
雑誌
日本微生物資源学会誌 = Microbial resources and systematics (ISSN:13424041)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.163-178, 2016-12

2011~2014年,小笠原諸島において採集した約300点の樹木等の罹病部や寄生生物から菌類を分離し,DNAバーコード塩基配列および形態により分類同定を行った結果,286菌株が124種に同定され161菌株が属まで同定された。これらのうち少なくとも37種は日本新産,20種・1亜種は小笠原新産であり,57菌種について延べ80種の新宿主が明らかとなった。新宿主には19種の小笠原諸島の固有種が含まれていた。一方,固有植物から分離された他の50菌株以上が37属に同定されたが,DNAバーコードを用いたBLAST検索などの結果では種まで特定できなかった。これらは新種の可能性も含めて分類学的所属を明らかにする必要がある。また,国内初確認13種および小笠原諸島新産菌1種は,熱帯・亜熱帯産の宿主から分離され,菌自体も熱帯・亜熱帯分布種であった。以上および既報から,小笠原諸島の菌類相には熱帯・亜熱帯要素が含まれていることが改めて認められた。
著者
服部 力 本郷 次雄
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
no.23, pp.p63-67, 1990-12
被引用文献数
2

Wood-decaying Hymenomycetes were collected in Amami-oshima Isl. (Kagoshima Pref.) mainly in 1989. Some tropical species were found for the first time from the Island. The distribution patterns of the species found from the Island are as follows. Species widely distributed in Japan : Bjerkandera adusta, Daedaleopsis confragosa, Coltricia montagnei, Hymenochaete mougeotii, Ganoderma lipsiense. Species distributed from the tropical region to the warmer region along the Pacific Ocean : Dictyopanus gloeocystidiatus, Corticium argenteum, Microporus flabelliformis, Nigroporus vinosus, Cyclomyces tabacinus, Phellinus umbrinellus, Polystictus substygius. Species distributed from the tropical region to the southern part of Kyushu (and/or occasionally to Honshu, Shikoku) : Cymatoderma lamellatum, Lenzites platyphylla, Loweporus fusco-purpureus, Tinctoporellus epimiltinus, Trametes rhodophaea, Phellinus mcgregorii. Species distributed from the tropical region to the southern part of the Cape Sada-misaki, Ohsumi Pen., Kagoshima Pref. : Panus fulvus, Erythromyces crocicreas. Species distributed from the tropical region to Amami-oshima Isl. or to Tane-ga-shima Isl. : Oudemansiella canarii, Daedalea aurora, Nigrofomes melanoporus, Trametes retropicta. Daedalea aurora and Nigrofomes melanoporus have been recorded only from Iriomote Isl. in Japan. Most species collected from the Island were warm temperate, subtropical or tropical species.
著者
早乙女 梢 太田 祐子 服部 力 柿嶌 眞
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.21, 2007

<I>Polyporus</I>(タマチョレイタケ属)は,担子菌類サルノコシカケ科の一属であり,子実体が有柄で結合菌糸骨格菌糸の未分化な2菌糸型の種が広く含められている.このため,本属は子実体の外形が多様な種が包括されており,属内には子実体の外部形態に基づいた<I>Polyporus</I>, <I>Favolus</I>, <I>Melanopus</I>, <I>Polyporellus</I>, <I>Admirabilis</I>及び<I>Dendropolyporus</I>という6つの形態グループが設けられている(N&uacute;&ntilde;ez and Ryvarden, 1995).<BR>本研究は現在1つの属として扱われている<I>Polyporus</I>の分類学的な妥当性を検証する事を目的とし,本属22種52菌株及び近縁属10属15種18菌株を用い,LSUnrDNA領域, <I>rpb2 </I>遺伝子領域及び<I>atp6</I>領域による分子系統解析を行った. <BR>解析の結果,系統樹上には8個の単系統群が検出され,そのうち2単系統群には本属菌と近縁属菌が含まれていた.したがって, <I>Polyporus</I>は単系統群ではないことが明らかとなった. <BR>属内の各グループの系統関係については, <I>Polyporellus</I>グループの種は同一クレードを形成した.一方, <I>Polyporus</I>グループと<I>Melanopus</I>グループの種は複数のクレードに含まれ,これら2グループは単系統なグループではなかった.なお, <I>Favolus</I>グループ, <I>Admirabilis</I>グループと<I>Dendropolyporus</I>グループの種については系統的な位置を特定することができなかった. <BR>以上の結果から, <I>Polyporus</I>は単系統群ではなく,また形態的にも遺伝的にも多様な種が含まれており,分類学的再構築が必要であることが明らかになった.
著者
高野 麻理子 服部 力 根田 仁
出版者
国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.133-140, 2018

パルプ漂白菌の選抜に色素の脱色を利用するため、30 株の木材腐朽菌を、パルプとRBBR, Poly R-478, Poly S-119, Azure B の各色素を含む寒天培地で培養した。その結果、20 株がRBBR 脱色を示し、そのうちの15 株がPoly R-478 の脱色を示した。さらに、Poly R-478 脱色株のうちの6 株がPoly S-119 の脱色を示し、そのうちの 3 株が Azure B の脱色を示した。試験管中で、ラッカーゼ( Lac)、マンガンペルオキシダーゼ( MnP)、リグニンペルオキシダーゼ( LiP) の各酵素による RBBR、Poly R-478、Poly S-119、Azure B の脱色試験を行った。RBBR は、Lac、MnP、LiP の全酵素に対し、高い脱色性を示した。Poly R-478 は、Lac では脱色せず、MnP とLiP による脱色を示した。Poly S-119 とAzure B は、Lac とMnP による脱色性が低く、LiP による脱色性が高かった。これらの結果は、RBBR 脱色は、Lac のみを生産する株やリグニン分解酵素活性の低い株をも検出する可能性のあること、Poly S-119 およびAzure B の脱色は、LiP 生産株の検出に適することを示した。一方、Poly R-478 の脱色は、RBBR、Poly S-119、Azure B の脱色と比較して、MnP 生産株の選択的な選抜に適すると考えられた。MnP は、未晒しクラフトパルプの漂白に高い効果を示すことが報告されており、パルプ漂白菌の選抜には、Poly R-478 が最も適した色素であると結論した。
著者
服部 力 土居 祥兌
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.305-312, 2000
被引用文献数
2
著者
服部 力 太田 祐子 根田 仁
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

マレー半島の多様な森林植生タイプにおいて、多孔菌類を中心とした木材腐朽菌などきのこ類のインベントリー調査を行うとともに、主要な木材腐朽菌についてシーケンスを行い、分子情報を明らかにした。低地熱帯老齢林、山地林、マングローブ林にはそれぞれ固有と思われる種が分布、特に低地林、山地林ではマレーシア国外から知られない種が認められた。これまで約100サンプルについてシーケンスを明らかにし、これらの種については分子情報からの同定が可能になった。
著者
南 新三郎 服部 力三 松田 朗
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.2, pp.161-178, 2003 (Released:2003-07-22)
参考文献数
23
被引用文献数
7 7

メシル酸パズフロキサシン(PZFX:パシル点滴静注液,パズクロス注)は富山化学工業株式会社において創製され,三菱ウェルファーマ株式会社と富山化学工業株式会社で共同開発された,1-aminocyclopropyl基を有する新規な注射用ニューキノロン系抗菌薬である.PZFXは静注投与後に高い血中濃度を示しながらも,けいれん誘発作用,局所刺激作用および血圧降下作用などの注射用ニューキノロン系抗菌薬で懸念される作用が弱いことが基礎的検討で認められている.一方,PZFXはセフェム系,カルバペネム系,アミノグリコシド系抗菌薬に耐性を示す細菌に対しても強い抗菌力を示し,その強い殺菌作用により各種耐性菌での動物感染実験モデルにおいて,既存注射用セフェム系抗菌薬より優れた治療効果を示した.更に,臨床試験においても,PZFXは注射用抗菌薬の対象となる中等症以上の感染症にて,注射用セフェム系抗菌薬ceftazidime(CAZ)と同等の臨床効果と安全性を示し,加えて各科領域の前投薬無効例に対しても良好な臨床効果を示した.これらの基礎試験および臨床試験成績から,PZFXは細菌感染症治療の有用な選択肢として期待される.本総説では,PZFXの基礎的·臨床的成績を概説し,注射用抗菌薬の中におけるPZFXの臨床的位置付けについて考察する.