著者
須藤 守夫 須藤 礼子 雑賀 優
出版者
日本花粉学会
雑誌
日本花粉学会会誌 (ISSN:03871851)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.17-24, 2011-06-30 (Released:2018-03-30)
参考文献数
11

盛岡市のスギ・ヒノキ花粉飛散数を予測するために,花粉飛散数と前年夏の気象要因の関係を詳細に調べると共に,複数の気象要因を用いた重回帰分析により,より精度の高い予測式について検討した.盛岡市における25年間のスギ・ヒノキ花粉総飛散数と,盛岡地方気象台の観測値である夏季の7気象要因との関係を,7月1日から10日ずつずらした7月,真夏I,真夏II,8月のそれぞれ31日間のデータで調査した結果,年間あたり3,350個/cm^2以上の大量飛散年では真夏IIで25年間平均値より約2℃高く,同1,000個以下の小量飛散年では逆に約2℃低かった.単相関では7月21日から8月10日の真夏IIの時期に,前年-前々年の最高気温年次差との間に最も高い正の相関が認められ,相対湿度との間にも比較的高い負の相関が得られた.真夏IIで最高気温年次差,全天日射量,相対湿度を説明変数とする重回帰分析を行なった結果,R^2=0.86の高い精度の予測式が得られた.
著者
北川 陽一郎 吉川 周作 獺越 君代 山崎 秀夫
出版者
日本花粉学会
雑誌
日本花粉学会会誌 (ISSN:03871851)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.15-24, 2009-06-30
被引用文献数
2

大阪城内堀から採取された近現代の堆積物試料を用いて高解像度の花粉分析を行った.堆積物中の花粉群集は大阪城周辺および大阪の山地や低地の植生を反映している.また,堆積物中の花粉量は大阪城周辺の花粉飛散量を反映している.代表的な花粉出現率と花粉量に基づいてUA-1からUA-4の4花粉帯を設定した.UA-1(江戸時代末期)は山地には低密度のマツ林が分布していた.また,低地にはムクノキーエノキ群集が分布し,花粉飛散量は少なかった.UA-2(1880年代から1940年代)はマツ林が拡大し,その結果,マツ属の花粉飛散量が増加した.UA-3(1950年代から1960年代)は山地ではマツ林が減少し,大規模なスギやヒノキの植林が行われた.その結果,マツ属の花粉飛散量が減少した.UA-4(1970年代から1990年代)はスギやヒノキの人工林が成長した.加えて,大阪城の開発が行われ,内堀周辺にニレ,ケヤキの植樹が行われた.その結果,スギ,ヒノキタイプ,ニレ属-ケヤキ属花粉の飛散量が増加した.
著者
ゴラム サルワル A.K.M. 高橋 英樹
出版者
日本花粉学会
雑誌
日本花粉学会会誌 (ISSN:03871851)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.87-104, 2007-12-31
被引用文献数
1

スノキ属協Vacciniumの花粉形態研究に続き,本属が所属するスノキ連に含まれる他の22属59種の花粉形態を光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡で観察し,スノキ連全体で見られる花粉四集粒の形態的多様性を要約した.スノキ属の花粉で見られた溝間極域の外壁模様の7型(1〜7型)・12亜型に加えて,新しい1つの型(8型:アガペテス・ブラクテアータ)と5型の中に2つの新亜型を認めた.ディモルファアンテラ属での結果は,スノキ連における属の単系統性同定のために外壁表面模様が最も有用な花粉形態形質であることを示した.アガペテス属の外壁模様はスノキ属に近縁であることを支持したが,アガペテス・ブラクテアータを除けば,アガペテス属がスノキ属に含まれるという可能性をも示すものだった.コステラ・エンデルティイの外壁模様(7型)はスノキ属のポリコディウム節に含まれる唯一の種ワッキニウム・スタミネウムに大変よく似ていた.遺伝子系統であるアンデアン・クレードの2つの主要なサブクレードへの分割は,花粉形態からは支持できなかった.しかしマクレアニア属の単系統性は支持できそうである.先行研究が示していたように,花粉形態形質はカウェンディシア属とサティリア属の姉妹系統関係を支持し,チバウディア属には少なくとも2つの明瞭な群があることも示した.ゲイルッサキア属とスノキ属との近縁性も花粉形態研究は支持した.
著者
林 竜馬 兵藤 不二夫 占部 城太郎 高原 光
出版者
日本花粉学会
雑誌
日本花粉学会会誌 (ISSN:03871851)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.5-17, 2012-06-30 (Released:2018-03-30)
参考文献数
53

鉛-210とセシウム-137法による高精度の年代決定が行なわれた琵琶湖湖底堆積物の花粉分析によって,過去100年間のスギ花粉年間堆積量の変化を明らかにした.また,戦後の造林によるスギ人工林面積の増加と花粉飛散量との対応関係を検討するために,琵琶湖の近隣府県における31年生以上のスギ人工林面積の変化を推定し,琵琶湖湖底堆積物中のスギ花粉年間堆積量の変化との対比を行なった.花粉分析の結果,1900年以前ではスギ花粉年間堆積量が900〜1400grains・cm^<-2>・year^<-1>と比較的少なかったことが明らかになった.1900年以降になるとスギ花粉の年間堆積量が若干の増加傾向を示し,1920〜1970年頃には2800〜3700grains・cm^<-2>・year^<-1>の堆積量を示した.1970年頃以降になるとスギ花粉年間堆積量の増加が認められ,1970年代には4200〜4400grains・cm^<-2>・year^<-1>,1980年代前半には6300〜7100grains・cm^<-2>・year^<-1>に増加した.1980年代後半から1990年代にかけて,スギ花粉年間堆積量はさらに増加し,8300〜13400grains・cm^<-2>・year^<-1>に達した.このような琵琶湖湖底堆積物中のスギ花粉年間堆積量の増加は,31年生以上のスギ人工林面積の増加と同調したものであり,戦後の造林による成熟スギ人工林増加の影響を大きく受けて,多量のスギ花粉が飛散するようになったことを示している.また,琵琶湖湖底堆積物中のスギ花粉年間堆積量の推定値は,相模原市における大量飛散年の空中花粉量の経年変化との整合性も高く,これまで蓄積されてきた空中花粉調査のデータを補間し,より古い時期からの花粉飛散量変化の情報を提供しうるものと考えられる.さらに,琵琶湖堆積物の花粉分析結果を基にした地史的なスギ花粉年間堆積量との比較から,1980年代以降に増加したスギ花粉飛散量と同程度の飛散は3000〜2000年前頃ならびに最終間氷期の後半においても認められた.本研究では,鉛-210とセシウム-137法によって高精度での年代決定が行なわれた過去数100年間の堆積物についての花粉分析を行なうことにより,数10年から数100年スケールでの花粉堆積量変化の記録を復元できる可能性を示した.今後,各地で同様の研究を進めていくことにより,20世紀における全国的なスギ花粉飛散量の変化について明らかになることが期待される.
著者
川島 茂人 藤田 敏男 松尾 和人 芝池 博幸
出版者
日本花粉学会
雑誌
日本花粉学会会誌 (ISSN:03871851)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.5-14, 2004-06-30

遺伝子組み換え体作物が生態系に与える環境影響を評価する研究に関連して,遺伝子組み換え体作物の花粉が標的外の昆虫を殺傷してしまうことや,近縁種への遺伝子のフローが問題となっている.このような問題に適切に対応するためには,問題となる作物に適した空中花粉自動測定手法の開発が必要である.そこで我々は,代表的な組み換え体作物であるトウモロコシを対象として,簡易かつ連続的に自動計測が可能な花粉モニターを開発するとともに,野外において,トウモロコシ群落の開花期間を通して,気象要素とともに花粉飛数量の計測を行った.その結果,トウモロコシ花粉モニターによる花粉飛散量は,空中花粉測定法として広く用いられているダーラム法による花粉飛散数との相関が極めて高く,相関係数は0.95となった.花粉モニターで計測されたトウモロコシ花粉飛数量の経時変化と気象要素の変化から,花粉飛散量の日変動パターンは,気象要素の日変動パターンとは異なった形状を示していること,午前中にピークがあり,正午にはピーク濃度の半分以下に減少していること,日の出後の濃度増加は急であるが,ピーク後から夜にかけての濃度減少は緩やかであることなどがわかった.また,花粉飛数量は気温の時間的変化率と関係しており,気温上昇量が大きいときに,大量の花粉が放出され,群落外に拡散することが明らかになった.
著者
須藤 守夫 須藤 礼子 雑賀 優
出版者
日本花粉学会
雑誌
日本花粉学会会誌 (ISSN:03871851)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.77-85, 2007-12-31
被引用文献数
4

盛岡市における23年間の空中スギ・ヒノキ花粉飛散状況について検討した.方法はダーラム型花粉補集器を1984年から1997年まで盛岡友愛病院,1998年から2006年まで盛岡市民文化ホールに設置し測定した.スギ・ヒノキ花粉の初観測日における23年間の平均値は2月24日で,回帰式から推定すると3月13日から2月23日と19日早くなった.また,飛散開始日も早まる傾向にあった.総飛散数の23年間の平均値は3,306個/cm^2で,年度により大きな変動を示し,5年の移動平均では1984年2,334個から2006年4,218個と約2倍になった.大量飛散年(3,000個/cm^2以上)は9年あり,日飛散数30個以上が30日と平年飛散年の13日より多かった.ヒノキ花粉の飛散開始は4月9日とスギより1ヵ月遅れ,総飛散数は8年間平均118個でスギ・ヒノキ総花粉数の3.3%であった.
著者
難波 弘行 佐橋 紀男 山本 昌彦 吉田 友英 柳川 かおり 廣木 信重 泉本 恵 岩崎 琴恵 日高 奈津子
出版者
日本花粉学会
雑誌
日本花粉学会会誌 (ISSN:03871851)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.73-82, 2004-12-31 (Released:2017-11-17)
参考文献数
17
被引用文献数
4

スギ花粉症患者におけるアレルギー疾患の合併症, 花粉に対する生活様式, 薬剤の使用状況などを調査する目的でアンケートを実施し, 290名の有効回答数を得た.半数以上の患者がスギ花粉症以外のアレルギー疾患を合併しており, OASの発症率は約10%であった.複数のアレルギー疾患を合併している患者の方が, OASの発症率が高かった.79.4%の患者が, テレビなどのマスメディアから花粉情報を利用していた.そして, 68.3%にあたる190名の患者が, 花粉情報が役立っと回答した.ほとんど全ての患者が, 花粉飛散期に外出していたが, マスクやメガネの着用率は低かった.洗濯物や布団の乾燥方法などに関しても, 十分な花粉対策が行われていなかった.内服薬に関する調査では, 約56.5%の患者がほぼ正確に服用出来ていた.しかし, 外用薬の使用に関しては, 症状の強さに合わせて使用されている様子がうかがわれた.
著者
伊藤 由紀子 塩谷 格
出版者
日本花粉学会
雑誌
日本花粉学会会誌 (ISSN:03871851)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.5-13, 2006
参考文献数
30
被引用文献数
4

Grass pollinosis has been on the increase over the last 15 years, and it is now urgent that our allergy clinic can identify the sources of airborne antigenic pollens. The aim of this study has been to determine the sources of grass pollen during spring and early summer. Pollen size measurements were taken from twenty grass species that are frequently seen blooming from April to June in Mie Prefecture. The median values of the airborne grass pollens were compared with the pollen size for the grass species we examined. We set a 90% confidence ellipse area for each species, or group of species, and compared individual airborne pollen grains for whether they were within the set confidence areas or not, according to their probability distance (D^2 value). The median values of airborne pollens for 2002 were 35.0 and 30.0μm for the major and minor axis, respectively, and 32.5 and 30.0μm for 2003 and 2004. Among the grass pollen species examined, we were able to select four species as the most likely pollen sources, as their pollen sizes are nearly equal to the set median values. Two areas of the 90% confidence ellipse; one for the Dactylis glomerata and another for the group of Festuca arundinacea, Lolium multiflorum and L. perenne were set for testing. The airborne pollens within either of the two confidence areas were at least 75% for each of the years studied. These results suggest that the main sources of airborne grass pollen during spring and early summer are these four grass species.
著者
難波 弘行 佐橋 紀男 山本 昌彦 吉田 友英 柳川 かおり 廣木 信重 泉本 恵 岩崎 琴恵 日高 奈津子
出版者
日本花粉学会
雑誌
日本花粉学会会誌 (ISSN:03871851)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.73-82, 2004
参考文献数
17
被引用文献数
2

スギ花粉症患者におけるアレルギー疾患の合併症, 花粉に対する生活様式, 薬剤の使用状況などを調査する目的でアンケートを実施し, 290名の有効回答数を得た.半数以上の患者がスギ花粉症以外のアレルギー疾患を合併しており, OASの発症率は約10%であった.複数のアレルギー疾患を合併している患者の方が, OASの発症率が高かった.79.4%の患者が, テレビなどのマスメディアから花粉情報を利用していた.そして, 68.3%にあたる190名の患者が, 花粉情報が役立っと回答した.ほとんど全ての患者が, 花粉飛散期に外出していたが, マスクやメガネの着用率は低かった.洗濯物や布団の乾燥方法などに関しても, 十分な花粉対策が行われていなかった.内服薬に関する調査では, 約56.5%の患者がほぼ正確に服用出来ていた.しかし, 外用薬の使用に関しては, 症状の強さに合わせて使用されている様子がうかがわれた.
著者
ゴラム サルワル A. K. M. 伊藤 利章 高橋 英樹
出版者
日本花粉学会
雑誌
日本花粉学会会誌 (ISSN:03871851)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.15-34, 2006-06-30
被引用文献数
3

光学顕微鏡(LM)・走査型電子顕微鏡(SEM)・透過型電子顕微鏡(TEM)により,スノキ属Vaccinium内に認められている30節のうち18節,合計37種の花粉形態を観察し,本属花粉形態の多様性の概要を明らかにした.SEMによる花粉の溝間極域の外壁模様とLMによる花粉形態計測値の類似性を基にして,各種が置かれている属内分類体系について評価した.四集粒花粉の溝間極域の外壁表面模様は,種類により微細いぼ状模様〜しわ状模様〜平滑模様と変異し,しわ状模様単位にはさらに「二次的な模様」:不明瞭〜微細で明瞭な縞模様があり,縞模様単位は更にビーズ状にくびれているものがあった.外壁模様は大きく7型に分けられ,1-3型はさらに12亜型に分けられた.花粉形態形質はスノキ属内で現在認められている節分類と明瞭に連関している訳ではなかったが,類縁関係に有意義な情報を与え,属内の分類学的な問題にも新しい見方を与えてくれた.アクシバ節のアクシバ花粉ははっきりした微細いぼ状模様(6型)を持ち花粉サイズも本属では最小であり,花粉形態形質は本種をスノキ属から分類する考えを支持する.地理分布と対応した四集粒サイズと花粉外壁模様の若干の差違が認められた.一般的に新世界産スノキ属種は花粉サイズが大きく,外壁模様は粗しわ状模様〜粗しわ状-平滑模様とまとまっている.一方で,旧大陸産種はサイズがより小さい傾向があり,外壁模様は微細いぼ状模様〜しわ状模様〜平滑模様とより広い変異を示す.
著者
田中 孝治 岡田 和智 各務 智子 吉田 真也 田口 実佳 山崎 太
出版者
日本花粉学会
雑誌
日本花粉学会会誌 (ISSN:03871851)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.13-16, 2005-06-30

13年間にわたり岐阜県大垣市で計測したスギ花粉飛散数と夏の気象から, 2005年のスギ花粉飛散数の予測を行った.1991年から2002年までの夏季期間から21期間を設定した.次に, これら期間における最高気温, 平均気温, 降水量, 日照時間の積算値を算出し, 翌年(1992年から2003年まで)のスギ花粉飛散数との間の相関の有無を調べた.次いで, これらの期間から相関係数が0.7以上の期間を抽出し, 予測に有効な指数回帰式を作成した.これに2003年の夏季気象因子のデータを代入することで, 2004年のスギ花粉飛散数を算出し, 実測値と比較して予測に有効な期間と気象因子を選び出した.その結果, 最高気温, 平均気温でそれぞれ1, 4期間であり, それらの期間で指数回帰式より求めた2005年のスギ花粉飛散数の予測値は1823.4〜4918.3個/cm^2/年であった(Table 3).これら5区分における予測値の相関係数, 2004年夏のスギの樹勢因子を考慮して, 2005年の予測値は, 7月6日から7月31日までの平均気温の積算値による予測値を採用するのが妥当で, 約4900個/cm^2/年と考えられる.
著者
須藤 守夫 須藤 礼子 雑賀 優
出版者
日本花粉学会
雑誌
日本花粉学会会誌 (ISSN:03871851)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.17-24, 2011-06-30

盛岡市のスギ・ヒノキ花粉飛散数を予測するために,花粉飛散数と前年夏の気象要因の関係を詳細に調べると共に,複数の気象要因を用いた重回帰分析により,より精度の高い予測式について検討した.盛岡市における25年間のスギ・ヒノキ花粉総飛散数と,盛岡地方気象台の観測値である夏季の7気象要因との関係を,7月1日から10日ずつずらした7月,真夏I,真夏II,8月のそれぞれ31日間のデータで調査した結果,年間あたり3,350個/cm^2以上の大量飛散年では真夏IIで25年間平均値より約2℃高く,同1,000個以下の小量飛散年では逆に約2℃低かった.単相関では7月21日から8月10日の真夏IIの時期に,前年-前々年の最高気温年次差との間に最も高い正の相関が認められ,相対湿度との間にも比較的高い負の相関が得られた.真夏IIで最高気温年次差,全天日射量,相対湿度を説明変数とする重回帰分析を行なった結果,R^2=0.86の高い精度の予測式が得られた.
著者
Jin Chunjie Nakanishi Tetsu Ogasawara Hiroshi
出版者
日本花粉学会
雑誌
日本花粉学会会誌 (ISSN:03871851)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.23-29, 2004-06-30
参考文献数
9
被引用文献数
1

我々はこれまでにスギの雄花分化が梅雨明け後の気象条件により誘導されることを報告し,梅雨明け後の気象データを用いた雄花着花量の予測式を検討した.スギ雄花分化時期は6月下旬〜9月上旬と言われている.六甲山における1999〜2003年までのスギ雄花分化の観察によると異常気象となった2002年は6月上旬という早い時期に雄花が分化した.そこで梅雨明けが早まった場合の予測式で丹波山地の着花量を計算すると6.14が得られ,実測値の6.37と非常に近似した.一方,従来法による7月の気象データで雄花着花量を求めると1.91と実測値との差は極めて大きかった.このことからスギ雄花数の予測は異常気象下であってもスギ緑枝の組織観察法により花芽分化を誘導する時期を推定し,その時期の気象解析によって精度の高い予測が可能であることが示された.
著者
須藤 礼子 須藤 守夫 神崎 絵里 雑賀 優
出版者
日本花粉学会
雑誌
日本花粉学会会誌 (ISSN:03871851)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.61-68, 2008-12-31
被引用文献数
1

4月はじめから7月上旬に盛岡市中心部で測定される空中飛散イネ科花粉の花粉源とその割合を推定するため,2006年と2007年の2年間盛岡市中心部の植生調査をした.また,2007年に調査地で開花が確認された10草種それぞれの1穂当たりの花粉数の計測も行った.2007年の植生調査による開花穂数の計測結果から,調査地1m^2内に開花するイネ科植物は10草種819本が確認され,ハルガヤが47%,オニウシノケグサが19%,カモガヤとナガハグサがそれぞれ13%で,4草種で開花穂数の92%を占めた.植生調査地で開花が確認された10草種について小花数と小花内にある葯数,および1葯内に含まれる花粉数の計測を行った.計測した値から1穂あたりの花粉数を求めると,開花の多かった4草種の花粉数は,カモガヤ17.28×10^6個,オニウシノケグサ9.10×10^6個,ナガハグサ1.61×10^6個,ハルガヤ1.28×10^6個であった.植生調査で得た10草種の開花穂数に,1穂当たりの花粉数を掛け合わせ,盛岡市中心部における単位面積(1m^2)当たりで4月1日から7月10日までに,4304×10^6個の花粉が生産され,草種割合は44%がカモガヤ,34%がオニウシノケグサ,11%がハルガヤ,4%がナガハグサ,7%がその他の草種であると推定できた.