著者
新井 宗仁
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

昨年度に引き続き、α-ラクトアルブミン(α-LA)のフォールディング反応における遷移状態の構造特徴づけを、Φ値解析法を用いて行った。今年度は特に、α-LAのβドメインやCヘリックス周辺に変異を導入した一アミノ酸置換体を多数作成し、α-LAの遷移状態の構造解析を行った。平衡条件下でのアンフォールディング測定の結果、変異体はどれも野生型より不安定化しており、Φ値解析に有効な試料であった。次に、ストップトフロー円二色性スペクトル法を用いてこれらの変異体の巻き戻り反応とアンフォールディング反応を測定し、Φ値を計算した結果、I89A, I89V, I55VについてはΦ=0.4〜0.6程度であったが、W60A, K93A, L96Aについては、Φ〜0となった。これらの結果は、I89, I55の周りは遷移状態において側鎖の密なパッキングが部分的に形成されているが、W60,K93,L96周辺は、遷移状態では側鎖の秩序化はまだ起きていないことを示している。この2年間の研究結果を総合すると、α-LAの遷移状態の構造について次のような知見が得られた。(1)αドメイン内の側鎖は、天然状態様の密なパッキングをまだ形成していないが、(2)αドメインとβドメインの間、および、カルシウム結合部位近傍では、側鎖の密なパッキングが部分的に形成されている。ここで、モルテン・グロビュール(MG)状態においては、2つのドメイン間にあるCヘリックスが比較的安定なヘリックス構造を形成していることを考慮に入れると、α-LAのフォールディング反応は、MG中間体で形成され始めた構造が遷移状態に進むにつれて更に構造化していくという階層的な反応で記述できると結論づけることができる。
著者
新井 宗仁
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

本研究で明らかになったことは、主に次の3つである。1.[α-ラクトアルブミン(α-LA)のモルテン・グロビュール(MG)状態の構造および安定性の解析]ヒトα-LAのMG状態及び巻き戻り中間体の構造と安定性を測定した結果、ヒトα-LAのMG状態は他のα-LAのMG状態よりも安定であり、かつ、より多くのα-ヘリックスを含むことが明らかになった。 2.[α-LAの変異体のフォールディング反応の解析]α-LAの様々な変異体を作成するために、ヤギα-LAの遺伝子をpSCREEN-1b(+)に組み込み、蛋白質の発現を行った。変異体を使った研究から、α-LAのフォールディング反応の遷移状態では、T29,I95,W118周辺の構造はまだ十分には形成されていないことが明らかになった。このことは、MG状態で形成される疎水性コアやCヘリックス周辺は遷移状態において構造化されていないことを示している。 3.[ストップトフローX線溶液散乱法によるα-LAの巻き戻り反応の測定]従来のストップトフローX線溶液散乱法では一次元PSPC型X線検出器を用いて測定を行っていたが、新たに開発された二次元CCD型X線検出器を用いることにより、400倍以上の感度向上に成功した。また、データの補正方法を確立した。本研究で完成した時分割X線溶液散乱法は、蛋白質のフォールディング研究のみならず、様々な研究に適用可能な優れた方法である。この方法を用いてα-LAの巻き戻り反応の測定を行った結果、α-LAは巻き戻り反応開始後数10ミリ秒以内に、平衡条件下で観測されるMG状態と同じ分子サイズと分子形状を持つ巻き戻り中間体を形成することが明らかになった。本研究の結果およびストップトフロー円二色性法による結果から、α-LAの巻き戻り中間体は平衡条件下で観測されるMG状態と同一であることが示された。
著者
日原 由香子 成川 礼 蓮沼 誠久 増川 一 朝山 宗彦 蘆田 弘樹 天尾 豊 新井 宗仁 粟井 光一郎 得平 茂樹 小山内 崇 鞆 達也
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.88-97, 2017

<p>化石燃料に代わるエネルギー源の確保が課題とされる昨今,光合成効率が高いシアノバクテリアや藻類を用いた燃料生産は,食糧生産と競合せず,カーボンニュートラルである点で注目を集めている.特にシアノバクテリアは,ゲノムや細胞の構造が単純で遺伝子操作が容易,増殖が速い,光合成能が高いなど,燃料生産ホストとして有利な性質を備えている.本稿では,多様性に富むシアノバクテリアのさまざまな性質を活かして,燃料生産技術の開発に取り組んだ最新の成果について解説する.</p>