著者
日景 盛 熱田 充 佐藤 温重
出版者
一般社団法人日本歯科理工学会
雑誌
歯科材料・器械 (ISSN:02865858)
巻号頁・発行日
vol.8, no.5, pp.642-647, 1989-09-25
被引用文献数
1

鶏胚大腿骨の器官培養を応用して接着性レジンの細胞への影響を明らかにすると共に, 生体材料の安全性評価における器官培養法の有用性について検討した.スーパーボンドC&BとパナビアEXを直径0.35mm, 長さ2mmに整形して試料とした.試料を鶏胚大腿骨の骨端部に挿入し, 37℃7日間回転培養後, 相対成長率と相対湿/乾燥重量比(W/D), 組織像を調べた.その結果, 相対成長率に関してはスーパーボンドC&BもパナピアEXも影響はなかった.しかしW/DにおいてパナビアEXは対照より大きな値を示し, 組織所見では隣接する組織に幼弱な軟骨細胞の存在と軟骨基質形成不全を認めた.これらの結果から, パナビアEXは軽度の組織障害性を有していることが示唆された.
著者
本郷 敏雄 日景 盛 安増 茂樹 喜多 和子 春宮 覚
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

「唾液に浸漬した歯科用有機材料硬化体由来の化学物質を同定・定量する簡便な一斉分析法を開発」では唾液浸漬による歯科用有機材料からの溶出物の同定、代謝物の同定をHPLCで高感度に定量できる簡便な一斉分析法を開発した。その結果から、ポリカーボネート製矯正用ブラケットからは口腔内では微量ながらビスフェノールA(BPA)が常に唾液に移行している可能性並びにレジン系仮封材からはフタル酸エステルであるジプチルフタル酸が唾液に移行している可能性が推定され、その摂取量は子供では無視できない量であることが明らかとなった。「ヒト培養細胞を用いたエストロゲン様物質の高感度で簡便な検出法」ではHeLa細胞にメダカのエストロゲンレスポンシブエレメント領域を含むフラグメントを挿入し、1ng/mL 17β-estradiolでも細胞が反応する検出系を確立したが、より低濃度の検出系を開発するにはGFPの代わりに化学発光するluciferase用いる必要性が考えられた。「高感度突然変異検出システムの開発」ではBPAの変異誘導性は、少なくともRSa細胞においてはhERαを介さない作用であるという可能性が示唆され、GRP78発現抑制細胞では、非常に低濃度のBPで変異誘導性が認められたことからGRP78発現抑制細胞を化学物質の変異原性を高感度に検出する細胞として使用できる可能性が示された。「エストロゲン感受性遺伝子導入メダカによる評価系の開発」ではChoriogenin遺伝子5'上流域とGFP遣伝子の融合遺伝子をメダカ受精卵に注射し、遺伝子導入系統を作製したところ、エストロゲンにより肝臓でGFP発現を示し、試験系は簡便なエストロゲン様物質の検出及び評価系として有用であることが明らかとなった。「歯科用有機材料による代謝活性化酵素誘導検出系の開発」では多環芳香族炭化水素(PAH)とBPAへの複合曝露がAHRシグナル伝達経路およびCYP1A1遺伝子の発現へ及ぼす影響を調べた。その結果、BPAはそれ単独ではCYP1A1遺伝子の発現をほとんど誘導しなかったが3-メチルコランスレンとの併用処理により発現を相乗的に誘導したことやBPAは芳香族炭化水素受容体(AHR)/ARNT複合体を介して転写レベルでCYP1A1遺伝子の発現を誘導していることを明らかにし、BPAとPAHとの複合曝露でAHRシグナル伝達経路を介した毒性発現する経路のあることが示唆された。以上の結果から、本研究で開発した各評価系は歯科用有機材料の生物学的基礎試験に応用可能な新規高感受性生物学的評価法であると考えられる。