著者
日置 敦巳
出版者
The Japanese Society of Health and Human Ecology
雑誌
民族衞生 (ISSN:03689395)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.75-86, 1996-03-31

1988年度および1992年度の各市町村単位のデータを用いて,社会参加意識およびその他の因子が健康診査受診行動に及ぼす影響について分析を行った.健康診査受診状況については基本健康診査,結核検診,胃癌検診および子宮癌検診の受診率を,社会参加意識として県知事選挙投票率を,その他の因子として人口およびその分布,産業,経済,社会環境,行財政,人口動態,保健,医療,福祉に関するデータを用いた. 基本健康診査,結核検診および胃癌検診受診率は県知事選挙投票率と強い正の相関を示したが,子宮癌検診受診率はやや低い相関を示した.健診受診率は全体として小規模町村で高く,大規模市町で低い値を呈した.多変量解析の結果,基本健康診査受診率は投票率および老人クラブ加入率と正の相関を,市町村財政における公債費比率と負の相関を示した.胃癌検診受診率は投票率および15~64歳人口割合と正の相関を示し,過疎地域で高い割合を示したが,集団検診実施による受診率上昇はわずかであった.子宮癌検診受診率については,用いた指標の中で相関を示したものは投票率のみであった.結核検診受診率には投票率と結核有病率が正の相関を,人口密度が負の相関を示した.これらの結果から,健康診査受診行動は住民の社会参加意識および社会経済的因子の影響を受けるものと考えられた.ただし,子宮癌検診受診行動には,本研究で検討した以外の要因も関与しているものと推測する.市町村における保健サービスの指標として健康診査受診率を用いる場合には,これらの因子による影響を考慮する必要があるものと考える.
著者
大友 弘士 日置 敦巳
出版者
岐阜大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

ネズミマラリアを病態モデルとして用い、宿主における組織低酸素症の発現と主要臓器障害との関係を調べた。7周令、雄のBALB/cマウスにネズミマラリア原虫Plasmodium berghei NK65感染赤血球【10^7】個を腹腔内接種した場合、マウスは接種後7-8日で死亡した。宿主マウスの貧血は原虫接種6日後には血液中ヘモグロビン5.7g/dl(非感染対照群14.5g/dl)と著明となり、組織低酸素症はこの時期に急速に進行するものと考えられた。感染の進行に伴う重要臓器障害について検索を行った結果・肺水腫もしくは肝不全はマウスの死因としては重要ではないと考えられた。腎機能を調べるために感染マウスの血中尿素窒素,クレアチニン,尿量,尿中への尿素窒素排泄および尿中N-アセチルグレコミニダーゼ活性の変動を調べるとともに腎組織中アデニンヌクレオチドを測定した。血中尿素窒素は死亡前に増加したがマラリアで惹起される大量溶血から推定されるような血中尿素窒素の著増、もしくは尿中への尿素窒素大量排泄は認められなかった。また血中クレアチニン濃度も軽度上昇したのみであった。尿中N-アセチルグルコサミニダーゼは原虫接種4-6日後に高値となる傾向を示したが7日後には低値となった。腎組織中のアデニル酸エネルギーチャージには接種7日後に低下が認められた。これらの結果から、組織低酸素症が惹起されると考えられた接種6日後には腎機能がかなり低下し、尿細管上皮が傷害されてN-アセチルグルコサミニダーゼが逸脱した結果、7日後には低値となったものと示唆された。マラリア感染では腎障害は重要な病態であり、血中尿素窒素で腎不全を評価する場合には過小評価しないよう注意する必要があると考えられた。