著者
日置 貴之
出版者
日本演劇学会
雑誌
演劇学論集 日本演劇学会紀要 (ISSN:13482815)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.67-79, 2016-05-30 (Released:2016-06-07)

This paper analyses the function of newspapers in Kawatake Mokuami's Suitengu Megumi no Fukagawa (1885), one of the most famous zangiri-mono plays (kabuki plays depicting the society after the Meiji Restoration). Especially well known are the scenes in which destitute ex-samurai Kobei goes insane, and Kobei surviving his suicide attempt because of a miracle by the Suitengu Shrine deity. In previous studies, the stylistic acting and direction of this play have been highly regarded. This paper, however, analyses how newspapers connect Kobei's family to the people who helped them. Mokuami used newspapers as props in other zangiri-mono plays. Typically, they function as a medium, which neutrally provides information to the characters. In Suitengu Megumi no Fukagawa, however, the newspaper tells the general public about Kobei and his family's difficult situation, which leads to numerous people donating money to the family through the newspaper. Thus, Kobei and his family are not only saved by the miracle of the Suitengu Shrine deity, but by the contributions to the newspaper which helps bring about the happy ending of the play. In this paper, I discuss how Mokuami incorporates as a plot device the contemporary vogue for donating through newspapers. This indicates a shift in society's perception of the role of newspapers, increasingly seeing them as tools for social intervention, not merely providers of information.
著者
日置 貴之
出版者
明治書院
雑誌
国語と国文学 (ISSN:03873110)
巻号頁・発行日
vol.90, no.9, pp.36-51, 2013-09
著者
日置 貴之
出版者
白百合女子大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

2019年度は、明治期を中心とした歌舞伎における戦争表象について、主に後発の演劇ジャンルである新派劇や絵画、小説といった隣接領域の諸芸術との比較の観点から研究を行った。その結果、幕末から明治初期にかけての歌舞伎と絵画(錦絵)が、実際の出来事や戦争、それに関わる人物の実名等をどのように朧化するか、といった点で、非常に類似した表現方法を採っていることや、実名による描写へと移行していく時期にも一致が見られることなどがわかった。また、研究の途中経過をいくつかの研究会等で口頭発表することで、近い分野の研究者からの助言等を得た。また、日本近代文学会秋季大会でのパネル発表においてディスカッションに参加し、同時代の文学諸ジャンルとの類似点・相違点についての考察を深めた。また、明治期の複数の歌舞伎・新派の戦争劇台本の翻刻を進めた(2019年度は勝諺蔵作「日本大勝利」、竹柴其水作「会津産明治組重」の翻刻作業を行った)。この作業は、2020年度も川上音二郎一座(藤沢浅二郎作)「日清戦争」等を対象として継続し、『明治期未翻刻戦争劇集成』(仮)として公表する予定である。また、直接に戦争を描くわけではないが、それと深く関わる作品である「島鵆月白浪」作中に描かれる靖国神社(東京招魂社)に注目し、明治期から昭和期に至る諸ジャンルにおける靖国神社の表象についても調査を進めた。その結果、今後さらに軍歌・紙芝居・ラジオといった昭和期のさまざまなメディアのなかで、歌舞伎の戦争劇・戦時劇を捉えていくことが必要であると考えるに至った。
著者
日置 貴之
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.62, no.10, pp.42-52, 2013-10-10 (Released:2018-10-25)

明治期の上方歌舞伎は従来、同時期の東京の歌舞伎に比べて革新性に乏しいものであるとされ、顧みられることが少なかった。しかしながら、詳細に検討していくと、そこではいくつもの興味深い変化が生じているのである。本論考では、特に明治十年代末までの大阪における変革の諸例を取り上げ、その多くが「東京風」を志向したものであることを示す。さらに、この時期の劇界の変化は、東京が京阪に一方的に影響を与えるというものではなく、相互に影響関係を持つものであることを明らかにし、明治期上方歌舞伎の演劇史的位置付けの再考を促す。