著者
孟 瑶 矢島 猶雅 有村 俊秀
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.137-145, 2022-05-31 (Released:2022-05-31)
参考文献数
11

本研究の目的は,ごみ袋有料化による非資源ごみの減量効果と資源ごみの分別促進効果に,リバウンド現象が現れるか,及び各分別実施による学習効果の有無を再検証することである。日本の市区町村は,自治体によってごみの排出量に大きな差異がある。これを考慮しない場合,「平均的」な自治体でのごみ袋有料化の効果を過大もしくは過少に評価する可能性がある。よって,本研究では,2009年から2016年までの全国781市区町村のパネルデータを元に,「小排出都市」と「大排出都市」を定義し,これらを含めた場合とそうでない場合の回帰分析結果を比較した。本研究の分析結果は,以下の3つにまとめられる。第一に,資源ごみ排出量に対する効果において,これらの都市を含めた場合とそうでない場合でごみ袋有料化政策の効果の検出のされ方が異なることがわかった。また,有料化政策のリバウンド効果は確認されなかった。第二に,非資源ごみ排出量に対する効果では,両都市を含めた場合とそうでない場合で大きな変化はなく,徐々に排出量が増加するリバウンドが見られた。しかし,両都市のみで分析するとこのリバウンドは確認できない。第三に,分別品目によって学習効果の出方が異なることがわかった。
著者
有村 俊秀
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.1-9, 2022-01-31 (Released:2022-01-31)
参考文献数
49

パリ協定を機に,排出量取引制度(ETS),炭素税などのカーボンプライシング(炭素価格付け)が重要な政策手段として改めて注目されてきた。日本でも脱炭素に向けた本格的なカーボンプライシングの導入の検討が必要だ。しかし,日本では国が導入した炭素税(地球温暖化対策税)は低率で,排出量取引は東京都と埼玉県で導入されたのみである。それは,産業界を中心に,排出量取引の効果や経済影響などへの懸念が示されてきたからである。そこで本稿では,欧米及び日本を対象とした事後検証を中心に排出量取引に関して明らかになったことをレビューし,これらの懸念に対して,学術的な回答を示した。特に,多くの事後検証から,排出枠の価格が低下しても,制度が安定しており,将来的に削減目標が厳しくなることが分かっている場合,排出量取引は削減効果を発揮することが示唆された。さらに,炭素リーケージ・国際競争力問題については,排出枠のアップデート方式の配分方法などの対応方法についての経済分析を用いた効果を紹介する。最後に,脱炭素社会に向けた第一歩として,自治体による排出量取引制度の全国展開を提案する。
著者
矢島 猶雅 有村 俊秀
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.121-130, 2017

<p>近年,自治体レベルの温室効果ガスの排出量削減政策が普及している。中でも,「地球温暖化対策などに係る計画書制度」(以下,計画書制度)が多くの都道府県で共通して導入されている。当該制度は,一定規模以上の事業所に対し温室効果ガス排出量削減のための具体的な計画と,その結果報告を定期的に義務づける。更に,計画もしくは報告の内容に対し,自治体が助言などを行う規定も付加されている場合が多い。このように,計画書制度は自治体レベルで事業所に排出量削減についてモニタリングと補助を行う枠組みである。しかし,制度の効果には疑問の声もある。各事業所の排出量削減の水準について罰則が存在していないのである。計画書制度において罰則と呼べるものは計画/報告の未提出や虚偽報告に対するものに限られる。すなわち,実際に排出量削減が実現するかは定かではない。そこで,本研究では計画書制度が削減効果を有するか否かについて検証を行う。具体的には,1990年度から2013年度の製造業部門の都道府県レベル集計データを用い,制度の有無による排出量の変化を計量分析した。その結果,計画書制度を導入した都道府県では,平均的に約8%から約10%製造業部門の従業者一人当たり排出量が削減されていることが示唆された。計画と報告,及び省エネ指導という枠組みが有効な可能性を示唆する結果である。</p>
著者
有村 俊秀
出版者
上智大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

初めに、昨年度収集した情報をもとに、排出量取引の利点である排出削減費用の抑制効果が、米国二酸化硫黄(SO_2)排出承認証取引制度において発揮されているかどうかについて、実証的な観点から計量分析を行った。具体的には、企業の主な排出削減手段である排出承認証取得、低硫黄石炭への発電燃料の転換、脱硫装置の設置に焦点をあて、州ごとに行われている地元炭鉱の産業保護や排出承認証売買による費用や利益に関する規制などがこれらの選択に対して及ぼす影響を、1995年のデータをもとに多項選択モデルを用いて推定した。燃料購買の長期契約による影響についても分析を行った。結論として、主に3つのことが実証された。第一に、高硫黄石炭の産業保護が低硫黄石炭の選択を減少させることが示された。第二に、排出承認証取引で生じた費用/利益を消費者に転嫁/還元しなくてはならないとする規制によって、排出承認証の需給が減少したことが明らかになった。第三に、排出承認証取引で生じる費用や利益の取り扱いについて不確実性がある場合は、排出承認証の購入が減少することが確認された。次に、昨年度行った脱硫装置の技術・費用に関する情報収集および、パラメータ推計に関する情報収集をもとに、発電所における脱硫装置設置行動を離散的投資モデルとして定式化し、排出量取引の動学的市場均衡モデルを構築した。発電所の離散動学モデルを解析的に明らかにすることは困難なため、数値解析法により発電所の投資モデルを求めた。そして、それらをもとに排出承認証の均衡価格と、均衡下での発電所の行動モデルを明らかにした。最後に、これらの数値解のモデルを用いて、脱硫装置導入の補助金(承認証ボーナス)の効果を定量的に分析した。数値解により、承認証ボーナスの付与がなければ、脱硫装置の投資は行われなかったことが示された。