- 著者
-
有村 俊秀
- 出版者
- 社団法人 環境科学会
- 雑誌
- 環境科学会誌 (ISSN:09150048)
- 巻号頁・発行日
- vol.35, no.1, pp.1-9, 2022-01-31 (Released:2022-01-31)
- 参考文献数
- 49
パリ協定を機に,排出量取引制度(ETS),炭素税などのカーボンプライシング(炭素価格付け)が重要な政策手段として改めて注目されてきた。日本でも脱炭素に向けた本格的なカーボンプライシングの導入の検討が必要だ。しかし,日本では国が導入した炭素税(地球温暖化対策税)は低率で,排出量取引は東京都と埼玉県で導入されたのみである。それは,産業界を中心に,排出量取引の効果や経済影響などへの懸念が示されてきたからである。そこで本稿では,欧米及び日本を対象とした事後検証を中心に排出量取引に関して明らかになったことをレビューし,これらの懸念に対して,学術的な回答を示した。特に,多くの事後検証から,排出枠の価格が低下しても,制度が安定しており,将来的に削減目標が厳しくなることが分かっている場合,排出量取引は削減効果を発揮することが示唆された。さらに,炭素リーケージ・国際競争力問題については,排出枠のアップデート方式の配分方法などの対応方法についての経済分析を用いた効果を紹介する。最後に,脱炭素社会に向けた第一歩として,自治体による排出量取引制度の全国展開を提案する。