- 著者
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矢吹 万寿
鈴木 清太郎
- 出版者
- 大阪府立大学
- 雑誌
- Bulletin of the University of Osaka Prefecture. Ser. B, Agriculture and biology (ISSN:03663353)
- 巻号頁・発行日
- vol.19, pp.51-193, 1967-03-31
この研究は筆者の一人が,戦時中福岡県耳納山麓に疎開中台風に見舞われたが,山は防風の役目を果すものと考えられているにかかわらず,風下側の山麓の農作物の被害が平地のそれより甚大であったことを観察し,この奇異な現象に興味を持ったことから始められた.其の後の調査によると,このような現象は日本各地に発現しており,また日本のみならず世界各地で問題となっていることを知った.この論文はそれ以来約15年間にわたって行われた研究の集積である.この論文は第1部と第2部とにわかれ,第1部では,この種の局地風として有名な,北陸地方のフェン,清川ダシ,ヤマジ風,広戸風,耳納山オロシ,比良八荒(講),上州空っ風について現地の資料および高層資料によって解析するとともに,特に筆者らによって約3年間直接観測を行った六甲山の両山麓におこるオロシについて解析された結果について述べた.第2部においては,模型実験によって山越気流を解析した結果について述べた.この種の実験は風洞によって自然状態を再現することが困難であるので,水槽を用い,塩水濃度を変えることにより,大気の自然条件を再現させた.実験は斉一密度流,二層流,三層流,安定成層流,寒冷前線および温暖前線通過時の流れについて行った.この実験により,山越気流の全容を知ることが出来るとともに,P.Queneyの理論およびJ.Forchtgottの観測によって得られた山越気流をも再現することが出来た.現地観測,高層資料および模型実験から,このいわゆる山越気流は,滝あるいは堰堤の落下する水と同様に,冷気が山腹を落下するとき重力により加速され,山麓に強風域を生ずるものと考えられる.したがって山の風下測に強力な吹き下し風が発達するためには,1.山項近くに不連続面が在存し,上下両層の密度差が大きいこと.2.一般風が強いことが必要であり,下層が安定であればさらにこれを強める.したがって不連続線の進行方向と山脈の走行方向とから山越気流の性質が決ってくる.寒冷前線の場合は前線の通過直後から山越気流が発生し,同時に雨も伴う.日本では寒冷前線は主に北西風を伴うから,寒冷前線によって発生する山越気流は,広戸風,良比八荒,六甲山南麓オロシ(神戸の北風)などあであり,温暖前線の場合は前線通過前におこり,これによって発生する山越気流は,耳納山オロシ,ヤマジ風,六甲山北麓オロシなどである.また閉塞前線は低気圧の北側にあり,東風を伴うから,主に南北に走る山脈に山越気流は発生し,生駒山オロシ,平野風(奈良県)などで,英国のMt.Crossfellもこれに属すゝものと考えられる.これらの分類は一般的なことで,不連続線の通過方向によっては,ヤマジ風が寒冷前線によって,比良八荒が温暖前線によって発生する場合もある.従来山越気流は発生する場所によって,その前兆なり,現象が全く相反することもあって,問題とされていた点も,これによって統一的に解析できるものと考える.