著者
服部 恵典
出版者
カルチュラル・スタディーズ学会
雑誌
年報カルチュラル・スタディーズ (ISSN:21879222)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.35-57, 2020 (Released:2020-10-09)
参考文献数
22

ポルノグラフィは、社会的にも社会学的にも議論の係争点であり、ジェンダーの平等が論点となる場合にはとりわけそれが際立つ。その端緒となる反ポルノ派フェミニストの理論が有する問題の1 つに、女性によるポルノの「見方」の多様性を狭めてしまうがゆえに、女性を「被害者」の位置に固定化してしまい、女性が消費者となるポルノグラフィの存在 をうまく説明できないという点がある。 しかし、女性向けポルノの先行研究が行ってきた、①「正しい」女性表象でないという分析、②「女性」が揺るぎがたく持つ優位性があるという分析、③男性向けポルノと同様の価値観で成り立つという分析、のいずれにも課題が残る。この解決方策として、本稿は女性向けアダルトサイト研究の知見から、ジェンダー化されたジャンル区分そのものを問 う重要性を指摘した。そして「女性向けアダルトビデオ(以下AV)のファンは男性向け/女性向けAV という区分をいかに捉えて視聴しているか」という問いのもとで11 名へのインタビュー調査を行った。 調査結果から、主流のAV に対するアンチテーゼとして生まれた経緯のある女性向けAVを視聴していても、ファンは単純に男性向けAV を批判するのではなく、「男優ファン」であるがゆえに男性向けAV の視聴を自然にファン活動に組み込んでいたことが明らかになった。しかも男性向け作品を「仕方なく」視聴するのではなく、ある種のトラウマ経験がある女性であっても、両方に良さを感じながら楽しんでいた。また男性向け/女性向けを越境した視聴を行うだけでなく、そうした区分の必然性を揺るがすような捉え方もしていた。こうしたファンの実践は、ジャンル研究の文脈では、デコーディングによるジャンルの脱構築、第三波フェミニズムの文脈では、「被害者」ではなく「消費者」としての「女性」に 着目した、女性性の再構築ないし転覆の可能性の模索であるといえる。
著者
服部 恵典
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.119-135, 2022 (Released:2023-09-30)
参考文献数
20

本研究は,「ヘテロ男性を主なターゲットとするAV(アダルトビデオ)が,なぜ・いかにして一部を切り取るだけで『女性向け』のアダルト動画に編集(不)可能なのか」という問いを通じ,ポルノグラフィを「再意味づけ」する実践の可能性と限界を経験的に明らかにする.ポルノは,必然的に男性から女性への暴力・収奪を引き起こすものだと理論化すると,まさに描き出された通りの不平等を普遍化してしまうという問題がある.ゆえに,ポルノを差別や抑圧に抵抗するかたちで読み直す「再意味づけ」への着目が重要となる.しかし,「再意味づけ」が性規範の単なる反復や強化に陥る可能性が指摘されているにもかかわらず,先行研究では個人の抵抗可能性が過大評価され,視聴を支える動画サイトにおける優先的な読みとの交渉的解釈が分析されていなかった. 分析には,女性向けアダルト動画サイト「GIRL’S CH」のプロデューサーへのインタビュー,動画レビュー,編集前後の映像を用いた.サイトと利用者は,もともと「男性向け」だったAV から「女性向け」と感じるシーンを新たな見所として発見する読み直しを行えているが,女性に対し抑圧的とされてきたシーンは「女性向け」と再意味づけせずに省く傾向があった.本稿はこうして,作品の一部のみ観てもよいというAV のメディア的特性への着目を通じて,バトラーの反ポルノ批判の有効性と同時に,その限界を経験的に示した.
著者
服部 恵典
出版者
カルチュラル・スタディーズ学会
雑誌
年報カルチュラル・スタディーズ (ISSN:21879222)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.35-57, 2020

ポルノグラフィは、社会的にも社会学的にも議論の係争点であり、ジェンダーの平等が論点となる場合にはとりわけそれが際立つ。その端緒となる反ポルノ派フェミニストの理論が有する問題の1 つに、女性によるポルノの「見方」の多様性を狭めてしまうがゆえに、女性を「被害者」の位置に固定化してしまい、女性が消費者となるポルノグラフィの存在をうまく説明できないという点がある。<br> しかし、女性向けポルノの先行研究が行ってきた、①「正しい」女性表象でないという分析、②「女性」が揺るぎがたく持つ優位性があるという分析、③男性向けポルノと同様の価値観で成り立つという分析、のいずれにも課題が残る。この解決方策として、本稿は女性向けアダルトサイト研究の知見から、ジェンダー化されたジャンル区分そのものを問う重要性を指摘した。そして「女性向けアダルトビデオ(以下AV)のファンは男性向け/女性向けAV という区分をいかに捉えて視聴しているか」という問いのもとで11 名へのインタビュー調査を行った。<br> 調査結果から、主流のAV に対するアンチテーゼとして生まれた経緯のある女性向けAVを視聴していても、ファンは単純に男性向けAV を批判するのではなく、「男優ファン」であるがゆえに男性向けAV の視聴を自然にファン活動に組み込んでいたことが明らかになった。しかも男性向け作品を「仕方なく」視聴するのではなく、ある種のトラウマ経験がある女性であっても、両方に良さを感じながら楽しんでいた。また男性向け/女性向けを越境した視聴を行うだけでなく、そうした区分の必然性を揺るがすような捉え方もしていた。こうしたファンの実践は、ジャンル研究の文脈では、デコーディングによるジャンルの脱構築、第三波フェミニズムの文脈では、「被害者」ではなく「消費者」としての「女性」に着目した、女性性の再構築ないし転覆の可能性の模索であるといえる。
著者
服部 恵典
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2019-04-25

本研究は、女性向けAVを性的主体化の装置として捉え、視聴者の受容・抵抗を、SNSの自然言語処理とインタビュー調査によって、調査の(不)可能性を踏まえながら明らかにする。表象を消費する側の存在として「女性」主体を位置づけるという第三波フェミニズムの潮流のもとでポルノを分析するとき、ポルノを男性の性的主体化の装置として捉えた赤川学の理論が有用である。と同時に赤川の理論の、「見る主体」としての「女性」が射程に入っていないこと、主体化への抵抗可能性が明らかでないことの2点の克服が目指される。調査可能性自体、セクシュアル・ストーリー論の枠組で反省的に分析しながら、語りのデータから理論の再構成を試みる。