- 著者
-
服部 恵典
- 出版者
- 日本社会学会
- 雑誌
- 社会学評論 (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.73, no.2, pp.119-135, 2022 (Released:2023-09-30)
- 参考文献数
- 20
本研究は,「ヘテロ男性を主なターゲットとするAV(アダルトビデオ)が,なぜ・いかにして一部を切り取るだけで『女性向け』のアダルト動画に編集(不)可能なのか」という問いを通じ,ポルノグラフィを「再意味づけ」する実践の可能性と限界を経験的に明らかにする.ポルノは,必然的に男性から女性への暴力・収奪を引き起こすものだと理論化すると,まさに描き出された通りの不平等を普遍化してしまうという問題がある.ゆえに,ポルノを差別や抑圧に抵抗するかたちで読み直す「再意味づけ」への着目が重要となる.しかし,「再意味づけ」が性規範の単なる反復や強化に陥る可能性が指摘されているにもかかわらず,先行研究では個人の抵抗可能性が過大評価され,視聴を支える動画サイトにおける優先的な読みとの交渉的解釈が分析されていなかった.
分析には,女性向けアダルト動画サイト「GIRL’S CH」のプロデューサーへのインタビュー,動画レビュー,編集前後の映像を用いた.サイトと利用者は,もともと「男性向け」だったAV から「女性向け」と感じるシーンを新たな見所として発見する読み直しを行えているが,女性に対し抑圧的とされてきたシーンは「女性向け」と再意味づけせずに省く傾向があった.本稿はこうして,作品の一部のみ観てもよいというAV のメディア的特性への着目を通じて,バトラーの反ポルノ批判の有効性と同時に,その限界を経験的に示した.