著者
服部 文昭
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

古ロシア語の動詞に関しては、文章語誕生以前に古代教会スラヴ語をそのままなぞっていた時期、また、その後の文章語としての古代ロシア文語が確立された時期について、それぞれしかるべく研究が行われている。たとえば、1995年にはロシア科学アカデミー編の『古ロシア語文法:XII-XIII世紀』が出版されている。しかしながら、その萌芽期にかかわる研究、とりわけ動詞時制、アスペクトに関しては十分に研究されているとは言えないのが現状である。平成10年度には、1092年に成立した『アルハンゲリスク福音書』を資料として文献学的な作業を行った。現存するロシア最古の福音書『オストロミール福音書』(1056年〜1057年)が古代教会スラヴ語に極めて忠実であるのに対し、わずか40年足らず遅れて成立した『アルハンゲリスク福音書』はロシア語化の度合いがはるかに高く、注目に値する文献である。平成11年度には、『ムスチスラフ福音書』(1117年までには成立)といった文献も加えて、前年同様の作業を行う一方で、最近の言語学的研究の検討も行った。古ロシア語の過去時制のうち未完了過去については、今世紀初頭のソボレフスキー以来、古代教会スラヴ語からロシア語にもたらされた外来の要素であるとの学説があり、それをめぐる議論は今日もなお決着をみていない。そのような現状を踏まえて、ゴルシュコワ、ハブルガーエフやB.ウスペンスキーらの最近の研究をたどった。平成12年度では、前年度までの作業を継続するとともに、アスペクトの問題にも取り組んだ。また、古ロシア語ならびにその文章語である古代ロシア文語の概念やその研究史についても考察を加えた。以上のような研究をとおして、「古代ロシア文語とは」、「古代ロシア文語萌芽期における動詞のアスペクトと時制について」の二論文を含む研究成果報告書を平成13年3月に纏め上げた。
著者
諌早 勇一 MELNIKOVA Irina 服部 文昭 三谷 惠子 石川 達夫 楯岡 求美 松本 賢一
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

1)ロシアと汎スラヴ主義a)スラヴ民族は、しばしば互いの協力と連帯を求める「スラヴ主義」を唱えてきた。b)「スラヴ主義」には親ロシア的な汎スラヴ主義と反ロシア的な複スラヴ主義がある。c)汎スラヴ主義は正教徒の擁護を唱え、ロシアを中心とする拡張主義的傾向が強い。ドストエフスキイはその代表的論客である。d)複スラヴ主義は多くの場合、反ロシア的か反カトリック的だった。チェコスロヴァキアとユーゴスラヴィアはこの思想を体現した国家だが、複スラヴ主義の破綻とともに、国家としても消滅した。e)ソヴィエト映画では「スラヴの兄弟」という概念がしばしば謳われているが、この概念はロシアの拡張主義と深く結びついている。2)亡命と文化の越境a)第一次ロシア亡命者はスラヴ諸国に多く移住したが、受入国の亡命者への態度はさまざまだった。b)受入国が亡命者に好意的だった国では亡命文化が開花したが、非好意的な国では開花できなかった。c)亡命したロシア人演劇関係者は、西欧世界にスタニスラフスキー、メイエルホリドらの最新の演出方法を知らせるのに貢献した。d)チェコスロヴァキア・アヴァンギャルドのブックデザインは、ロシア構成主義の影響を色濃く受けているが、やがてその影響を克服し、独自のスタイルを生み出した。3)ナショナリズムとスラヴ語a)スラヴ諸国においては、近代文章語の成立はナショナリズムの高揚と密接につながっている。b)国家として独立できなかった民族の言語(たとえば上下ソルブ語)は絶滅の危機に瀕しているが、同時に少数言語として保存させるためのさまざまな方策が今日採られている。4)以上の成果は成果報告書「スラヴ世界における文化の越境と交錯」(2007)に掲載されているが、同時にホームページhttp:///www.kinet-tv.ne.jp/~yisahaya/Kaken-2.pdf上にも公開されている。