著者
沼田 光紗 下嶋 美恵 都築 朋 木下 俊則 太田 啓之
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 第52回日本植物生理学会年会要旨集
巻号頁・発行日
pp.0713, 2011 (Released:2011-12-02)

Phosphatidate phosphohydrolase 1/2 (PAH1/2)はphosphatidic acid (PA)を脱リン酸化しdiacylglycerolを生成する可溶性型のホスファチジン酸ホスファターゼであり、脂質の代謝において重要な役割を果たしている。pah1pah2二重変異体では、phosphatidylcholine、phosphatidylethanolamine、PAといったリン脂質が増加する (Nakamura et al. 2009 PNAS)。PAは脂質代謝において中心的な役割を果たす代謝中間体であり、高等植物ではストレス応答にかかわるabscisic acid(ABA)のシグナル伝達物質としても重要であることが知られている。 そこで本研究ではPAH欠損変異体を用いて、ABAに関与する様々なストレス応答の解析を行った。その結果、pah1pah2ではABA濃度依存的に、野生株に比べ著しく発芽率が低下し、少なくとも発芽においてpah1pah2はABA高感受性であることが明らかになった。しかしその一方で、ABA感受性について葉の気孔開口阻害についても調べたが、pah1pah2と野生株では差が見られなかった。したがって、ABAシグナル伝達を介したストレス応答におけるPAHの役割は、種子発芽時と葉の気孔閉鎖においては異なることが示唆された。
著者
木下 俊則
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2002

本課題ではモデル植物シロイヌナズナを用いて青色光による気孔開口に変異の見られる変異体のスクリーニングを行い、その原因遺伝子の同定することを目的として研究を進めてきた。スクリーニングには様々なタイプの変異体を単離するため、T-DNA挿入株、アクチベーションタグ挿入株とEMS処理株を用いた。これまで、12,280個体のT-DNA挿入株、6,258個体のアクチベーションタグ挿入株と12,288個体のEMS処理株の1次スクリーニングを完了し、当初の目標数にほぼ到達することが出来た。さらに、2次スクリーニングを進め、T-DNA挿入株において5株とEMS処理株において24株の変異体を単離した。アクチベーションタグ挿入株においては、変異体を得ることができなかった。EMS処理株においては2次スクリーニングを継続中である。T-DNA挿入株より得られた変異体については、TAIL-PCRによる遺伝子の挿入箇所の同定を行い、5株中2株について、ゲノム中でのT-DNAの挿入箇所を同定した。現在、原因遺伝子の機能解析を行っている。EMS処理株の変異体については、現在、2次スクリーニングで得られた変異体(約30株)について順次コロンビア品種との戻し交配とランズバーグ品種との掛け合わせを進めている。また、同時にこれら変異体における実際の気孔開閉反応についても解析を進めている。特に、STE27と名付けた変異体において興味深い結果を得ている。STE27は、青色光による気孔開口はほとんど見られないが、青色光受容体フォトトロピンや細胞膜H^+-ATPaseは正常に発現し、機能していることを確認した。この結果は、STE27の原因遺伝子が受容体からH^+-ATPase活性化に至る情報伝達に関わる未知の因子である可能性を示しており、その原因遺伝子がどのような蛋白質をコードしたものであるか早急に明らかにしたい。
著者
木下 俊則
出版者
名古屋大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2009

フォトトロピンに制御される葉の横伸展と気孔開口へのFTの関与これまでの研究により、phot1 phot2二重変異体の葉の横伸展と気孔開度の復帰突然変異体であり、早咲きの表現型を示すscs 1-1変異体の原因遺伝子はELF3(EARLY FLOWERING 3)であること、さらに、この変異体では、花芽形成においてELF3の下流因子として機能することが知られているフロリゲンFTが孔辺細胞を含め植物体全体で顕著に高まっていることがわかり、FTが、葉の横伸展や気孔開口においても機能していることが示唆された。そこで、本研究では、FTを過剰発現(CaMV35S::FT)、表皮組織特異的(pCER6::FT)、または、主に孔辺細胞(pKAT2::FT)に発現させたphot1 phot2二重変異体の形質転換埴物を作製し、表現型の解析を行った。その結果、これらFT形質転換植物は、早咲きで、気孔が顕著に開口しており、気孔開口は細胞膜H^+-ATPaseの阻害剤により抑制された。さらに、孔辺細胞でのFTの発現を確認するためにpCER6::FT-GFPを作製した結果、孔辺細胞にFT-GFPが発現すると気孔が顕著に開口した。一方、FT機能欠損変異をもつft-1-GFPを発現させた場合は、気孔開口が誘導されなかった。また、葉の伸展では、表皮組織特異的にFTを発現させると葉は伸展するが(pCER6::FT)、主に孔辺細胞に発現させても葉は伸展しなかった(pKAT2::FT)。よって、表皮細胞でFTを発現させることが葉の横伸展に必要であることが明らかとなった。
著者
木下 俊則
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

植物の表皮に存在する気孔は、光合成に必要な二酸化炭素の取り込みや蒸散、酸素の放出を調節し、陸生植物の生存に必須の働きを担っている。しかしながら、気孔の開口や閉鎖がどのようなシグナル伝達を経て引き起こされているかは、未だ多くの部分が不明のままである。本研究では、青色光による気孔開口に着目して研究を進め、その分子機構の一端を明らかにした。また、この研究過程で気孔閉鎖との関連性、さらに閉鎖に関わる因子を発見し、その機能についても明らかにした。