著者
桑坪 憲史 河野 公昭 村橋 淳一 勇島 要 室田 一哉 木村 由香里 長屋 孝司 松永 義雄 山賀 寛
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C4P3132, 2010

【目的】ジュニアユース(U-15)年代は成長期であることや、より激しいパフォーマンスが要求されるようになることなどから、成長期特有のスポーツ傷害を生じやすい時期である。傷害予防の為には成長期の身体特性を考慮する必要があり、メディカルチェックはとても重要な手段である。その為、我々は2007年よりスポーツ現場でのコンディションチェックだけでなく、当院でのメディカルチェックを試み、問題点と予防法などをフィードバックし傷害予防に努めている。そこで今回は、メディカルチェックの結果から選手の身体的特徴の変化を捉え、傷害発症との関連を検討し、今後のメディカルサポートに役立てることを目的とした。<BR><BR>【方法】2007年度にメディカルチェックを実施したジュニアユース(U-15)サッカー選手17名(レギュラーメンバー)を対象とした。競技レベルは全国大会レベルであり、我々がメディカルサポートを行っているチームである。メディカルサポートの介入内容としては、週1回の練習時のケアおよびコンディショニング指導、公式戦へのトレーナー帯同、そして、メディカルチェックのフィードバックである。メディカルチェックの実施日は2007年4月4日(メディカルサポート介入前)と同年12月3日(介入後8ヶ月でU-15年代最終戦の全国大会直前)の2回であった。メディカルチェックの内容は身体計測・アライメント測定・タイトネステスト・関節可動域測定・関節弛緩性テスト・筋力検査・パフォーマンステストの7項目であり、1回目と2回目の結果から、選手の身体的特徴の変化を検討した。そして、介入後8ヶ月の間に発症した傷害について調査し、傷害発症群と非発症群において、1回目のメディカルチェックの結果で指摘した異常値が、どの様に変化していたかも検討した。異常値の設定は、メディカルチェックの結果を標準偏差に基づいて5段階にランク分けし、Average-1.5×標準偏差(SD)より逸脱したものをランクE(異常値)と設定した。<BR><BR>【説明と同意】今回、測定を行った17名およびチーム関係者には、測定の意義・目的を説明し、同意を得た。<BR><BR>【結果】介入後8か月間の身体的特徴の変化としては、身体計測(身長・体重)・筋力検査(膝屈曲筋力・握力)・パフォーマンステスト(反応時間)に有意な増加(P<0.01)が認められた。また、身体計測(BMI)・タイトネステスト(傍脊柱筋・股関節内転筋群・腓腹筋)・筋力検査(膝伸展筋力)に有意な増加及び改善(P<0.05)が認められた。しかし、関節可動域測定(足関節踏込み角度)の有意な低下(P<0.01)も認められた。傷害発症件数は、慢性外傷4件(1,000時間1人あたり0.67件)急性外傷6件(1,000時間1人あたり1.01件)であった。傷害発症群と非発症群におけるランクE(異常値)の含まれる数については、両群間に有意な差は認められなかった。また、2回目の測定においては、Eランク(異常値)の改善は認められたものの、新たな項目にEランク(異常値)が出現していた。<BR><BR>【考察】今回の結果から、身体計測や筋力検査の向上は、この年代が成長期であることを示す結果であり、成長期の身体的変化に対応していくことの重要性が認識された。成長期は骨の発達が著しいため、一般的に筋のタイトネスが発生しやすく、骨端症などの成長期特有の傷害が発症しやすい時期といえるが、タイトネスの改善が認められたことは、メディカルサポートの介入の効果が反映しているものと思われた。しかし、足関節の踏み込み角度の低下が認められたことは、成長期のサッカー競技が足関節のStiffness増大に関与しているものと思われた。その為、今後は、足関節のセルフケアを徹底させたり、コンディショニングの指導を行っていく必要があるものと考えられた。メディカルチェックの結果からランクE(異常値)を抽出し、選手にフィードバックしていくことは、傷害予防として重要であると考えられるが、今回の結果からは、必ずしもランクE(異常値)を多く含む選手が傷害を発症しておらず、その関係は見いだすことは出来なかった。しかし、1回目でのランクE(異常値)の数は2回目の測定では減少しており、メディカルサポートの介入の効果は認められたと思われた。しかし、新たなランクE(異常値)が出現していることから選手の状態は常に変化しており、継続的なメディカルチェックやメディカルサポートの体制を確立していくことが重要であると思われた。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】医療の現場からスポーツの現場へ、理学療法士の担う役割は大きいと思われる。今回の研究結果から、成長期のスポーツ傷害を少しでも軽減し、次のカテゴリーへステップアップさせることが重要である。そして、日本のサッカー競技の向上に微力ながら貢献できれば幸いである。
著者
室田 一哉 鈴木 和敏 河野 公昭 桑坪 憲史 村橋 淳一 勇島 要 木村 由香里 長屋 孝司 松永 義雄 山賀 寛
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.26, pp.140, 2010

【はじめに】今回、尺骨神経損傷にて手内在筋麻痺を呈したバレーボール選手の競技復帰に向けた理学療法を経験したので報告する。【症例紹介】16歳女性。右利き。高校バレーボール部所属でポジションはリベロである。競技レベルは全国大会出場レベルである。【現病歴】H21年7月下旬ガラスで右手関節を切り受傷。救急病院へ搬送される。右尺骨動脈・神経損傷、右中・環・小指深指屈筋腱断裂、右環・小指浅指屈筋腱断裂、右尺側手根屈筋腱断裂で緊急手術となる。術後約3週でdynamic splintを装着し、当院へ受診となった。【理学療法と経過】術後3週より伸展ブロック内での自動屈曲運動を開始。術後4週よりMP~DIP関節の自動伸展運動開始。術後5週より手関節~DIP関節屈曲位での他動伸展運動、ブロッキングEx.開始。術後6週より握力・ピンチ力向上のEx.開始。競技動作はMP関節屈曲位でのトス動作を開始。ボールはソフトバレーボールから開始しバレーボール、メディシンボールへと負荷を漸増した。トスは両手から開始し片手で行うなど徐々に難易度を上げて行った。術後8週よりMP関節の過伸展や重量物の把持などの危険な動作以外のADLでの積極的な使用を促し、術後12週でADLでの制限を解除した。アンダーレシーブなど部分的に競技復帰したが、術後14週でMMTはMP関節屈曲2、環・小指外転・内転ともに0であった。筋力低下によりトスやオーバーでのカット動作で環・小指のMP関節を過伸展する危険性を考慮し、環・小指のMP関節伸展制限の装具を作製した。装具を装着しトスやカット動作を反復して行い、動作が安定してきた為徐々に競技復帰した。術後20週でゲーム出場可能となり、レギュラーとして活躍し全国大会出場を決めた。【考察】今回、術後のリスク管理を徹底し競技に即した理学療法を行い安定した競技動作が獲得出来た事と、装具によってMP関節過伸展のリスクが予防出来た事により、競技復帰が可能であった。
著者
木村 由香 安藤 孝敏
出版者
横浜国立大学技術マネジメント研究学会
雑誌
技術マネジメント研究 (ISSN:13473042)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.1-19, 2018-03-31

近年、「終活」と呼ばれる、自らの死に備える動きが見られる。終活とは、マス・メディアによって作られた言葉である。2009 年週刊朝日での連載記事によるものとされ、当初は主に葬儀や墓に関する内容を指した。終活という言葉が広がるにつれ、その内容に相続、財産整理、延命治療、介護、認知症、また遺品整理などが含まれるべきとの動きが生じ、現在では辞書でもそのように定義されている。つまり終活とは、マス・メディアによって作られ、世相を取り込み多様な内容を含む広義の言葉として変化したと言える。このことは、終活に関わる人々や企業、団体によってそのとらえ方が異なる可能性も示唆する。そこで本研究では、今一度終活がマス・メディアによって作られた葬儀や墓への備えを中心とした言葉であることに留意しつつ、終活に関するマス・メディアのとらえ方とその変遷を明らかとすることを目的とする。そのために、「終活」の語を含む新聞記事について、テキストマイニングを用いて内容分析を行った。記事数は、2015 年をピークとしつつ2016 年・2017 年ともに同水準で推移し、かつ読者投稿の比率が年々増加しており、終活は一般に浸透していることが伺えた。記事の内容からは、葬儀や墓についての内容を依然としてその中心としつつ、明るい側面を強調する形で報道されてきたことから、終活に取り組むことを肯定する視点でとらえてきたことがわかった。さらに近年では徐々に生活者の視点を取り込みつつあり、その内容はまさに変化の時期あることが示唆された。