著者
安藤 孝敏
出版者
横浜国立大学
雑誌
横浜国立大学教育人間科学部紀要. III, 社会科学 (ISSN:13444638)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.1-10, 2008-02

急速な人口の高齢化にともない、わが国においても高齢者とペットとの関係が注目され、ペットが高齢者の心身の健康に良い影響を及ぼすという報告を目にするようになってきた。しかし、これらの多くは事例報告であり、規模の大きな調査研究はごくわずかしかない。他方、欧米では、20年ほど前から社会老年学の新しい研究テーマとしてペットに関する調査研究が行われ、高齢者のペット飼育状況とペット飼育に関連する要因、ペットが高齢者の対人関係に及ぼす影響、ペットが高齢者の心身の健康に及ぼす影響などについて、その成果が蓄積されてきている。ペットが人の心身の健康に及ぼす影響を検討する研究では、人とペットとの関係性をどのように評価するかが結果を左右する重要な要因であるといわれている。これまでの研究をみると、ペットを飼っているかどうかという単純な質問で評価している研究から、多面的に関係性を把握する尺度を開発して評価している研究まである。安藤・児玉は、この問題を検討するために、都市部に居住する50〜79歳の中高年1,098人を対象に調査を実施し、ペットの有無と抑うつ状態との間には有意な関連が認められなかったが、ペットとの情緒的交流と抑うつ状態との間には有意な関連が認められたと報告している。この結果は、人とペットとの関係性を適切に評価する必要があることを示唆するものであったが、この研究で試作された尺度は十分に検討されたものではなかった。そこで本研究では、ペットを飼っている都市部の高齢者を対象とした調査データに基づいて、人とペットとの間で取り交わされる情緒的な交流を量的に把握する尺度を新たに作成し、これらの結果をふまえて、ペットとの情緒的交流が高齢者の精神的健康に及ぼす影響について検討することを目的とした。
著者
二階堂 千絵 安藤 孝敏
出版者
横浜国立大学技術マネジメント研究学会
雑誌
技術マネジメント研究 (ISSN:13473042)
巻号頁・発行日
no.14, pp.13-22, 2015-03-31

近年我が国では少子高齢化に伴い、ペットは家族の一員として重要な存在となっている。そのような中、ペットとの死別とそれに伴う悲嘆についても注目されるようになった。本稿では、ペットと死別した高齢者への2 つのインタビュー調査から、ペットとの死別による悲嘆の適応を支える要因を抽出することを試みた。研究1 では飼い主の適応の支えとなる要因を抽出し、質的に検討した。その結果、4 名の調査協力者は皆、家族や友人などから社会的支援を受けており、亡くなったペットに対しては火葬・納骨などの儀式を行う、供花する、写真に話しかけるなどの行為が見られた。これらの行為は"継続する絆:Continuing Bond"と呼ばれ、亡くなった対象との分離を目指すグリーフワークモデルとは異なった、新しい形の悲嘆への適応のしかたとして注目されている。そこで研究2 では亡くなったペットと飼い主のあいだの"継続する絆"の詳細について質的に記述・検討した。これら2 つの研究から、今後の課題として、亡くなったペットと飼い主の継続的な絆の特有さ、世代を軸とした調査とペットロスにおける継続する絆の機能についての調査の必要性が示された。In recent years in Japan, with declining birthrates and an aging population, pets have becomeimportant members of the family. Under these circumstances, the grief that accompanies the bereavementof a pet has come to light. In the current research, we conducted interviews of the elderly who had losttheir pets in order to identify factors that support adaptive pet grief. The first study explored the factorssupporting for the adaptive pet grief, with data analyzed qualitatively. The results showed that, all petowners had support from their family and friends. In addition, the bereaved had a relationship with theirlost pet that continued after the death of the pet, in some form, ―pet cremation, the offering of flowersto the deceased, or recalling the lost pet. These actions are characterized as a continuing bond (CB), andCBs have been attracting attention as a new concept for understanding adaptive grief, different to thegrief work model that describes the separation from the departed as a goal. The second study examined and described in more detail the CB between owners and pets. Thepresent research is a novel examination of the role of CBs in the relationship between the owner and thedeceased pet, with a focus on the generation of the owner. Future research is needed to detail the role ofCBs in pet grief.
著者
安藤 孝敏
出版者
横浜国立大学教育人間科学部
雑誌
横浜国立大学教育人間科学部紀要. III, 社会科学 = Journal of the Faculty of Education and Human Sciences, Yokohama National University. The social sciences (ISSN:13444638)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.1-10, 2008-02-28

Importance of pets in old age has been gradually acknowledged. However, a few studies focusing on this issue have been conducted in Japan. The purpose of this study was to examine the effects of emotional interaction with pets on well-being among the elderly. Subjects were pet owners (dog and/or cat), ranging in age from 60 to 74 years, living in Metropolitan area. Mail surveys were carried out in 2000 and completed for 552 persons. The response rate was 92.0%. The demographics of pet ownership and quality of emotional interaction with pets (Human-Animal Bonding Scale) were inquired. Well-being was measured by the Japanese version of Geriatric Depression Scale and AOK Loneliness Scale. Multiple regression analyses showed the emotionally close relationships with pets had significant negative effects on depressive states and loneliness when the effects of socio-demographic variables, health status, and social support network were controlled. The results suggested the importance of emotionally close relationships with pets for quality of life in old age.
著者
小池 高史 西森 利樹 安藤 孝敏
出版者
横浜国立大学技術マネジメント研究学会
雑誌
技術マネジメント研究 (ISSN:13473042)
巻号頁・発行日
no.12, pp.19-26, 2013-03-30

都市部の団地で暮らす高齢者の情報取得状況やタウン紙の利用状況を明らかにすることを目的とし、高島平団地の住民を対象とした質問紙調査を実施した。高島平2丁目団地の全7,741 世帯から乱数表を用いて1,000世帯を無作為抽出した。配布不可であった67世帯を除く933世帯を調査対象とした。回収数は228票(回収率24.4%)であった。回答者の約6 割は高齢者であり、そのうちの半数以上が独居であった。独居高齢者の34.7%が男性、65.3%が女性であり、平均年齢は70.1歳(±4.9)であった。調査結果から、情報の種類によってどのメディアを利用するかが異なっており、孤立の防止に役立つような老人会や町内会、各種講座の情報については、タウン紙から取得している高齢者が多いことが明らかになった。また、高齢者のタウン紙利用に関係する要因の分析から、古くからある地域情報総合紙は、居住年数の長い人により多く読まれていることや、地域のイベントやサークル情報に特化したタウン紙は、女性により多く読まれ、一人暮らしの人にはあまり読まれていないことが明らかになった。高齢者の社会的孤立を防ぐために、タウン紙によって情報を伝達することが有効だと考えられるが、伝えたい情報の種類や伝達の対象を考慮してタウン紙の種類を選択することの重要性が示唆された。
著者
大原 一興 佐藤 哲 安藤 孝敏 藤岡 泰寛
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究論文集 (ISSN:18802702)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.247-258, 2010

社会福祉施設とくに入所施設において,その集団管理的な環境の見直しが進んでいるが,それぞれの施設において「施設らしくない」「ふつうの暮らし」を求めている。しかしその実態は,それぞれの施設によってまちまちである。同様の言葉に「家庭的な環境」「その人らしく」など環境とケアの概念が定着している。職員がこれらの言葉に対してどのようにイメージを持っているのか,職員自ら言葉に対しての写真を撮影し,その写真を分析することで,概念の共通化をはかることを試みた。とくに高齢者施設においては,食事や家事作業などを居住者がおこなっている光景が取り上げられ,職種別にもそのとらえ方に特徴が見られた。
著者
木村 由香 安藤 孝敏
出版者
横浜国立大学技術マネジメント研究学会
雑誌
技術マネジメント研究 (ISSN:13473042)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.1-19, 2018-03-31

近年、「終活」と呼ばれる、自らの死に備える動きが見られる。終活とは、マス・メディアによって作られた言葉である。2009 年週刊朝日での連載記事によるものとされ、当初は主に葬儀や墓に関する内容を指した。終活という言葉が広がるにつれ、その内容に相続、財産整理、延命治療、介護、認知症、また遺品整理などが含まれるべきとの動きが生じ、現在では辞書でもそのように定義されている。つまり終活とは、マス・メディアによって作られ、世相を取り込み多様な内容を含む広義の言葉として変化したと言える。このことは、終活に関わる人々や企業、団体によってそのとらえ方が異なる可能性も示唆する。そこで本研究では、今一度終活がマス・メディアによって作られた葬儀や墓への備えを中心とした言葉であることに留意しつつ、終活に関するマス・メディアのとらえ方とその変遷を明らかとすることを目的とする。そのために、「終活」の語を含む新聞記事について、テキストマイニングを用いて内容分析を行った。記事数は、2015 年をピークとしつつ2016 年・2017 年ともに同水準で推移し、かつ読者投稿の比率が年々増加しており、終活は一般に浸透していることが伺えた。記事の内容からは、葬儀や墓についての内容を依然としてその中心としつつ、明るい側面を強調する形で報道されてきたことから、終活に取り組むことを肯定する視点でとらえてきたことがわかった。さらに近年では徐々に生活者の視点を取り込みつつあり、その内容はまさに変化の時期あることが示唆された。
著者
高橋 知也 小池 高史 安藤 孝敏
出版者
横浜国立大学技術マネジメント研究学会
雑誌
技術マネジメント研究 (ISSN:13473042)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.20-30, 2018-03-31

独居高齢者の「援助を受けること」に対する認知的枠組み(以下、被援助志向性)を質的に検討することにより、被援助志向性に影響を与えるライフイベントを明らかにすることを目的として、6 名を対象に半構造化インタビュー調査を実施した。インタビューデータからSteps for Coding and Theorization (SCAT) による理論記述を行った結果、現在における被援助志向性がそれまでに個々人が経験してきたライフイベントに影響されることが示唆された。具体的には、(1) 援助職や小売業といった職業経験が肯定的、あるいは否定的な被援助志向性を形成する要因となり得ることや、(2) 身近な人との互助性を伴うつながりが肯定的な被援助志向性を形成する要因となり得ること、(3)自身や家族の健康、あるいは経済上の変化に伴う公的サービス(介護サービスや生活保護、求職支援など)の利用経験が被援助志向性を形成する要因となり得ることなどが示された。