著者
朴 進午 鶴 哲郎 野 徹雄 瀧渾 薫 佐藤 壮 金田 義行
出版者
The Society of Exploration Geophysicists of Japan
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.231-241, 2008
被引用文献数
8

IODP南海トラフ地震発生帯掘削計画として紀伊半島沖東南海地震(マグニチュード8.1)の震源域掘削が2007年秋頃から始まる。それに先立ち,我々は2006年3月,紀伊半島南東沖南海トラフ付近における地殻構造の高精度イメージングのため,深海調査研究船「かいれい」のマルチチャンネル反射法地震探査システムを用いた高分解能3次元反射法地震探査を行った(KR06-02航海)。「かいれい」3次元探査域は3ヶ所の掘削サイトをカバーしており,本調査には長さ約5kmのストリーマーケーブル(204チャンネル)と,約100 m 離れた2式の震源アレイを用いた。高分解能調査のため用いた各々の震源アレイはGガン2基とGIガン1基の組合せである。特に,ストリーマーケーブル1本のみを曳航する本調査では,左右震源アレイを交互に発震するFlip-flop方式を導入することで,1 sail line につき2 CMP line のデータ取得が可能となり,データ取得作業の効率が倍増した。最終的な3次元データ取得範囲は3.5×52 km となった。データ記録長は10秒,サンプリング間隔は1 msec である。また,震源アレイとストリーマーケーブルの曳航深度は,それぞれ5mと8mに制御した。発震点および受振点の測位のため, SPECTRAとREFLEXを使用した。調査期間中に船上QCなどの結果,良好なデータ取得が確認できた。調査終了後,陸上での3次元ビンニングなどの前処理を終えたCMPデータを用い,3次元重合前深度マイグレーション処理を行った。最終的に,3次元区間速度モデルと高分解能の地殻構造イメージが得られた。速度不確定性を推定するために行った3D PSDM速度テストの結果より,最終速度モデルは,約6kmの深度において最大±5%の速度不確定性を持つことがわかった。得られた3次元地殻構造の解釈の結果,南海トラフ底で沈み込んでいる,3つの音響ユニットから成る四国海盆堆積層の層厚変化が明らかとなった。特に,最上位のユニットCは,トラフ底から陸側への有意義な層厚増加や背斜構造によって特徴付けられ,また,ユニットCの中央には強振幅の反射面Rの存在が認められる。この反射面Rは斜めスリップ断層面として解釈され,このスラスト断層運動によって,ユニットCが重なり,陸側へ厚くなっていることが考えられる。<br>
著者
高下 裕章 芦 寿一郎 朴 進午 宮川 歩夢 矢部 優
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

浅部プレート境界断層領域は防災上重要な研究の新領域として注目されている。プレート沈み込み帯では、沈み込みに伴いプレート境界面が固着している領域で歪が蓄積され、それが一気にずれて歪を解放、境界面が滑ることで地震が発生する。そのため、固着が強い地震発生帯と呼ばれる深部領域が、沈み込み帯の中では主な研究対象であった。一方、固着が弱く非地震性の定常すべり領域と考えられてきた浅部領域は、歪を多く蓄積せず、巨大なすべりを一度に開放することがないとされてきたため、これまで注目される機会が少なかった。2011年の東北地方太平洋沖地震では、海溝軸付近で最大約60 mの巨大な変位が地震時に発生したことが明らかになり、浅部プレート境界断層の破壊に関する初の観測事例となった。この破壊によって、巨大な津波が東北地方沿岸部の広い地域に甚大な被害をもたらされた。科学掘削の結果から浅部領域における断層部は摩擦の低い物質で構成されていることが明らかになったが、それがその領域だけなのか、もしくは日本海溝全体が同様の特徴を持つのかはわかっていないそこで本研究では、浅部プレート境界断層の摩擦係数の詳細な分布を明らかにし、上記の課題を解決するために、まず既存の研究手法Critical taper model (CTM)を改善し、新たな解析手法を開発した。CTMは沈み込み帯のウェッジにおいて力学的な条件を説明するのに重要な手法であり、ウェッジ形状を示す斜面傾斜角αとデコルマ傾斜角βから、プレート境界断層の摩擦係数を計算することができる。ただし、摩擦係数分布を得て、沈み込み帯の力学条件を議論するには、βの値の取り扱いについて大きな注意が必要であった。ベータは基本的に反射法地震探査断面から得るものであるが、その深度処理がβの値に大きな影響を与えることから数kmのオーダーであればPSDMのように高精度な深度処理が行われたものを、より広範囲を対象とした場合は屈折法を組み合わせ正確な速度構造を得たものでなければ、比較という点で信頼性を保つことが難しかった。本研究では、CTMを精査したところ、βがプレート境界断層の摩擦係数の算出にほとんど影響を与えないことが明らかになった。つまり、摩擦は斜面傾斜角αのパラメータのみで計算できることが明らかになった。αはグローバルに存在する水深測量データからも得ることができる。本手法を改めて日本海溝で得られている水深測量データに適用し、浅部プレート境界断層における高密度な摩擦分布を適用したところ、2011年東北沖地震の地震時すべり分布が低摩擦セグメントに対応することを示した。つまり、地震時の滑りが浅部プレート境界断層の浅い部分に伝播した際に、低摩擦領域にそのすべりを拡大し、巨大な津波につながった可能性を考えた。また、現在グローバルに摩擦分布を算出する手法を開発しており、その一部を紹介する。
著者
高下 裕章 芦 寿一郎 朴 進午
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

沈み込み帯や造山帯のように側方からの圧縮により衝上断層が卓越し、短縮変形を受けた地質体を総称してFold-and-thrust beltと呼ぶ。Critical taper modelはfold-and-thrust beltの地形パラメータから断層の摩擦係数を知るために広く用いられてきた。沈み込み帯に対してこのCritical taper modelを適用した場合、単純な地形パラメータを用いてプレート境界断層における摩擦係数の推定が可能である。そのため、Critical taper modelは地震に関連する議論においても広く用いられてきた。ただし、Critical taper modelでは、計算に用いる地形データを取得する際、以下のような2つの問題点が指摘できる。1)反射法地震探査断面のデータが必要であるため、観測記録のある断面以外に Critical taper modelの適用ができない。2)反射法地震探査データを用いた深度断面処理において、プレート境界断層の深度が速度モデルに大きく依存し、プレート境界断層の傾斜角βの値に影響を与える。そのため正確な比較という点に関して信頼性が低い。そこで本研究は上述の問題点を改善するため、Critical taper modelに用いるパラメータを反射法地震探査断面ではなく、水深測量データからのみ得る新たな手法の開発を行った。反射法地震探査断面から得られるプレート境界断層の傾斜角βの代わりに、プレートが沈み込む前の海溝海側斜面の傾斜角β(bathymetry)を使用し、その計算結果から手法の妥当性の検証を行った。本研究では、南海トラフを対象領域として手法の妥当性の検証を行った。南海トラフでは海溝型巨大地震の基礎研究の重要性から反射法地震探査断面が多く取得されており、従来の Critical taper modelと本研究で新たに行う手法との比較が行い易いこと、地震波やGPSなど、様々な研究手法による観測が進んでいることから、その比較対象とするべき先行研究が豊富である。そのため、Critical taper modelでのデータ取得と、結果の解釈がほかの沈み込み帯より容易であることが期待される。本手法の妥当性の検証結果から、海底下の沈み込み帯にCritical taper modelを適用する場合、理論的に見過ごされてきた特徴があることが明らかになった。その性質とは、高い間隙水圧比がウェッジ全体で仮定される場合、有効摩擦係数の算出に際しβが結果に与える影響が非常に小さくなることである。そのため、水深測量データにおける海溝陸側斜面の傾斜αのみを用いて浅部プレート境界断層の摩擦分布を議論することが十分可能であることが示唆された。ただしその際、有効摩擦係数の算出誤差が20パーセント程度生じる点は注意が必要である。水深測量データは空間的に密に取得されたデータであるため、これにより海溝軸に沿った高密度な浅部プレート境界断層の摩擦分布を初めて算出することが可能となった。予察的な解釈として、本手法は地震活動によるセグメントが十分に検討されていない領域において、地震・津波防災に関して資する新たな手法だと考えられる。